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Ep.3 飾っていた饒舌が、墓穴を掘って焼けるさま

 その日は、それ以外には特に何もなく帰宅した。翌日から俺は垂れ幕作りにちょくちょく顔を出すようになった。母親が忙しくない日とか、俺の担当する家事が少ない日とか、そんな感じに余裕があって、気分が乗った日の放課後にだけ、教室に居残って垂れ幕の色塗りに参加した。

「ただいま母さん、遅くなってごめん」

「はい、おかえり。ごはんまだ出来てないから、もう少し待ってて」

 積極的に人と関わるようになったからだろうか、その代わりに家では帰ってきてから一切何も手につかなくなってしまった。やっぱり人と比べられると傷心痛むし、まわりの顔色を窺って合わせるのはスタミナもメンタルも削られる。

 今日は特に立て込んでいたからか、やることも荷物も多かったし、体も重たいし、何をやっても身が入らない。期末テストも控えているし、授業中に終え切らなかった課題をやってしまおう。そのために教科書とノートを開いた時だった。

 鎮められたような衝撃が身を襲い、体が固まって動けなくなったかと思うと、またしても意識が飛ばされていった。




 意識が覚めたのは、あの彩り豊かな灰色の世界だった。案の定というべきか、森の中を貫いて延々と続く線路の上を歩いて進んでいた。足だけが別の意思を持ってるみたく、半ば自動的に、勝手に歩みが進んでいく。

 頭が冴えない夢の中だからだろうか。それとも最近むやみに周囲に心通わせようと心身をすり減らしているからだろうか。


 自分が疲れてしまうくらいなら、卑怯だって構わない。いや、心で周りになじみたいと祈っておいてそれはないか。俺はきっと今、飾っていた饒舌な自分哲学が墓穴を掘って、焦げて焼けて燃えるさまを見ている。

 頭には靄のようなものがかかってボーッとしているのに、思考はいやに冴え渡っていた。自分が自分の嘘や間違いを言い当てていく。それに呼応して自分が自分を振り払うように、騙すように自己暗示をかけている。

 今日も小さな俺に会えるだろうか。心の何処かで期待している自分に気がついた。あの澄んだガラス玉に愛されたい。あの吸い込めれるような瞳に叱ってほしい。

 今日の人影は、そんな俺の期待を簡単に裏切った。

「・・・・・・は?」

 俺がいた。鏡に映った俺がそこにいた。強いて俺ではないわけは表情くらいか。鏡に映った俺の方はクローンか機械か、とにかく無表情だった。でも、悲劇のヒロインを気取ったような、丸で被害者ヅラをしている、俺の顔だ。

「っ──! あぁぁ!」

 全部わかってんだよ! 考えたこと、感じたこと、思ったこと、全部! 本当に俺が嫌いなのは、勝てないからって言い訳して逃げてる俺だって。そうやって自分を騙してる俺だって。葛藤どころか、負い目まで感じているのに、この顔が!

「っ、あああああっ!」

 憎い、ウザい、むかつく、鬱陶しい。マネキンの胸ぐらを掴んで、地面に向かって叫ぶだけ。

「ああああああああああ!」



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