Ep.4 足りないモノを望んだら、僕じゃない僕に出会えたよ
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幻か空か無か虚しいだけの世界に投げ捨てた嗄声は知らぬ間に、いつもの機械的なアラームに変わっていた。
「アンタ大丈夫? 魘されて、そこら中のたうち回ってたわよ」
母の声で正気を取り戻す。服はやっぱり汗でびっしょり濡れている。勉強しようと思って机の上に広げた教科書は床に落ち、筆箱の中身もぶち撒けられていた。
「大丈夫、ごめん」
「もぅ、なんでもいいけど朝ごはん食べちゃってよね。昨日は晩ごはんも食べずに部屋にこもりきりだったんだから」
気づけば、腹のところにぽっかりと穴が空いているようだった。
ずっと探していた、答え。足りない自分を望んだら、自分じゃない俺に出会えた。まるでありえない自分に。何が何だかわからない。全てあいつの、俺のせいだ。それでも、もう一度だけでも会いに行かせてほしい。俺は部屋の天井を見つめて呟く。
「お前には、俺の姿が見えているのか」
哀れで、愚かな、この俺が。この孤独なピエロが。もしそうだというのなら、もう一度だけでいいから会いに来てほしい。助けてくれよ。これ以上、俺を掻き乱さないでくれ。
俺がありのままを見極めたとして、もうこれ以上俺を愛さないでくれ。
俺がこのジレンマを咀嚼できたとして、せめてもう一度笑ってくれ。
俺がまた夢を見れるとして、ペルソナの仮面を叱ってくれ。
俺がまだ断ち切れずに甘えてしまうとして、今度こそ裁いてくれ。
弄ばれてもいいから、もう一度だけ。もう直ぐ終わるこの世界を。一旦失ってしまった感情を。最初からいないとわかっていた、幻想も、戯れ事も、昔の自分の影も、何も。
一度死んでしまった人間が二度と帰ってこないように、一度死んでしまった人格も、もう二度と帰ってこない。俺に、あのころの夢を見られる俺はいない。
スマホから響く機械的なアラームの音に、俺はしぶしぶ体を起こす。冷たい水で顔を洗って、軽く朝飯を腹に詰め、寝巻きから制服に着替えて、昼飯用に買い置きの菓子パンをカバンに入れて、荷物を持って家を出る。
学校について教室に入ると、委員長の喜ぶ声がした。
「終わったぁ〜!」
どうやら垂れ幕が完成したらしい。本人にはいくつか気になる箇所もある様子だが、それでもひと段落は出来上がったことに歓喜していた。
「おはようござっス」
挨拶をしながら自席に着こうとすると、委員長に呼び止められた。
「なんだよ。最後にいなかったからってお説教か? 今日終わるだなんて分からな── 」
「ありがとう!」
その言葉は、いつかにもらった時よりも一層身に染み渡った。手を握ってブンブンと振り回し喜ぶ委員長にたじろぎながらも、すぐに落ち着きを取り戻す。
「別に、たまたま気が向いただけだ」
照れ隠しに思われただろうか。まぁ構わないか。
死んだ俺は生き返らない。だったら過去の自分に騙された今の俺で、今まで通り生きていこうじゃないか。




