表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希少属性(レアアトリビュート) ~特異属性で最強か最弱か分からない私と、正体を隠す彼の、嘘から始まる魔法恋愛譚~  作者: 鍼野ひびき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

第十二話「炎の訓練」


 図書館を後にして、私たちは夕日に照らされた廊下を並んで歩いていた。


 窓から差し込むオレンジ色の光が、床に長い影を作っている。


 放課後の静かな学校。


 生徒たちの声も、もうほとんど聞こえない。


 昇降口で、私は上履きからローファーに履き替えた。


 燈火くんも隣で、無言で靴を履き替えている。


 校門を出ると、夕暮れの街が広がっていた。


 私は燈火くんの隣に並んで、SAMAへと歩き出した。


 「如月先生、すごかったね」


 私が口を開いた。


 「あの特異属性……《転写と完全記憶》。本当に憧れる」


 「そうだな」


 燈火くんが頷いた。


 「記録として残せる能力は、戦闘には向かないかもしれないけど、すごく価値がある」


 「うん。それに……あの固有魔法も綺麗だった」


 空中に浮かび上がった本のページ。


 光で投影された、完璧な記憶。


 「私も、あんな風に……」


 言葉が続かなかった。


 自分にも、固有魔法が発現できるのだろうか。


 如月先生みたいに。


 燈火くんみたいに。


 不安が、胸に広がっていく。


 「美月も、遠くない将来、固有魔法を身につける」


 燈火くんが、前を向いたまま言った。


 断言するような、確信に満ちた口調。


 「本当に……?」


 「ああ。六つの属性を持ってるんだ。組み合わせ次第で、誰も見たことのない魔法が作れる」


 その言葉が嬉しかった。


 でも、同時に不安も残っていた。


 本当に、私にできるのだろうか。


 そんな私の表情を読み取ったのか、燈火くんが続けた。


 「俺もついてる。心配ない」


 クールな口調。


 でも、その中に温かさがあった。


 優しさが、滲んでいた。


 心が、じんわりと温かくなった。


 「ありがとう、燈火くん」


 「別に、当たり前のことだろ」


 燈火くんは少し照れたように、眼鏡の位置を直した。


 いつもの仕草。


 それを見て、私は微笑んだ。


 やがて、あの漆黒の建物が見えてきた。


 認識阻害の魔法が薄く感じる。


 もう、慣れたんだ。


 ここが、私の居場所のひとつになったから。


 扉を開けて中に入ると、藤崎さんが受付カウンターにいた。


 「お疲れ様、二人とも」


 「こんにちは」


 私たちは挨拶をした。


 「今日も訓練、頑張ってね」


 藤崎さんが微笑んだ。


 私たちはそれぞれの更衣室へと向かった。


 女性用更衣室に入り、鞄を置く。


 セーラー服のリボンを解き、上着を脱ぐ。


 ブラウスのボタンを外し、脱いでいく。


 スカートのホックを外し、下ろす。


 白いブラジャーと、ショーツだけになった。


 ロッカーから訓練着を取り出す。


 近未来的なボディスーツ。


 濃紺の生地に、銀色のラインが走っている。


 足を通し、腕を通し、背中のファスナーを上げていく。


 体にぴったりとフィットする。


 まるで、戦士になったような気分。


 鏡の前で、自分を確認する。


 ポニーテールが、この姿によく似合っている。


 深呼吸をして、更衣室を出た。


 廊下には、燈火くんが既に待っていた。


 彼も訓練着に着替えている。


 黒を基調としたボディスーツに、青いラインが走っている。


 眼鏡は外していて、その瞳が真っ直ぐに私を見ていた。


 「行こう」


 「うん」


 私たちは並んで廊下を歩き、訓練室へと向かった。


 扉を開けると――。


 柳瀬さんが、訓練室の中央で待っていた。


 今日はスーツではなく、白い訓練着のようなものを着ている。


 背筋がまっすぐで、その立ち姿には威厳があった。


 「いらっしゃい、二人とも」


 柳瀬さんが微笑んだ。


 「こんにちは、柳瀬さん」


 私たちは揃って挨拶をした。


 「では、今日の訓練を始めましょう」


 柳瀬さんが真剣な表情になった。


 「美月さん、今日は火属性の魔法を発現する訓練をしましょう」


 「火属性の魔法ですか!?」


 私は驚いて聞き返した。


 前回は風属性だった。


 今回は、火。


 「そうです」


 柳瀬さんが頷いた。


 「美月さんは六属性が発現できる希少属性の魔法使いなんです。全属性を発現できるように、訓練していきましょう」


 その眼差しは、真剣そのものだった。


 私も覚悟を決めた。


 「はい。お願いします」


 深く頭を下げた。


 「それでは」


 柳瀬さんが続けた。


 「風属性の時と同じように、掌に火を発現するイメージで魔力を集めていってください」


 私は頷いた。


 両掌を広げる。


 火のイメージ。


 燃える炎。


 温かい光。


 体の奥底から、魔力を引き出す。


 掌へ。


 掌へ。


 燈火くんが、私から少し離れた位置に移動した。


 彼の手には、既に水が滲み出している。


 万が一のための、準備。


 集中する。


 火を。


 掌に。


 魔力を開放――。


 ゴォォォッ!!


 掌から、猛烈な炎が噴き出した。


 「わっ!!わわわわわっ!!!」


 慌てた。


 炎が、止まらない。


 熱い。


 いや、熱くない?


 訓練着が、熱を遮断してくれているのか。


 でも、炎が――。


 ザアアアアッ!!


 水が降ってきた。


 燈火くんの《水鏡の盾》。


 それが、私の炎を包み込んで消化した。


 ジュウウウウ……。


 蒸気が上がる。


 炎が消えた。


 私は頭から水を被って、呆然と立ち尽くしていた。


 自分が発現した炎の威力に、放心状態だった。


 「美月さん」


 柳瀬さんの声で、我に返った。


 「今の炎は、何パーセントのイメージで発現しましたか?」


 「たぶん……」


 私は気を取り直して、顎から水を滴らせながら答えた。


 「32パーセントくらいだと思います」


 「あれで32パーセント……」


 柳瀬さんが顎に手を当てて、考え込んだ。


 「美月」


 燈火くんが近づいてきた。


 「試しに、16パーセントに絞って発現してみろ」


 私は頷いた。


 もう一度、両掌を広げる。


 今度は、もっと慎重に。


 16パーセント。


 最小限の出力。


 魔力を、掌へ。


 火をイメージする。


 でも、炎じゃない。


 小さな、火。


 ろうそくの火みたいな。


 魔力を開放――。


 パッ。


 掌の上に、火が灯った。


 炎じゃない。


 穏やかな、火。


 揺らめく、オレンジ色の光。


 「できた……」


 小さく呟いた。


 「柳瀬さん」


 燈火くんが言った。


 「さっきのは、火に風が加わって炎になったんじゃないですか?」


 「なるほど」


 柳瀬さんが頷いた。


 「二属性の同時発現ですか」


 「美月は、無意識のうちに風を纏ってる。だから、火を発現した時、自動的に風が加わって炎になった」


 燈火くんの分析が続く。


 「つまり、火だけを発現するには、風を抑制する必要がある」


 なるほど。


 だから、16パーセントだと火になったんだ。


 出力が低いから、風の影響が少なかった。


 「美月」


 燈火くんが私を見た。


 「掌を前に向けて、もう一回、32パーセントで火を発現してみろ」


 「分かった」


 私は掌を前方へ向けた。


 今度は、炎になってもいい。


 前方に向ければ、制御できるはず。


 魔力を集める。


 32パーセント。


 火のイメージ。


 でも、風も一緒に。


 炎になることを、受け入れて。


 魔力を開放――。


 ゴオオオオッ!!


 掌から、前方へ炎が噴き出した。


 ゴウゴウと音を立てて。


 まるで、火炎放射器みたいに。


 でも、今度は落ち着いていられた。


 前方に向けているから、安全。


 炎が、訓練室の壁に向かって伸びていく。


 「すごい……」


 感嘆の声が、自然と出た。


 これが、私の魔法。


 「美月さん」


 柳瀬さんの声が聞こえた。


 「今の状態に、風の魔法を16パーセント上乗せしてみてください」


 「はい」


 私は目を瞑った。


 集中する。


 吹き出している炎。


 そこに、風を。


 16パーセント。


 魔力を、さらに。


 風を――。


 ゴォォォォォッ!!


 炎の勢いが増した。


 一気に、倍の長さに延長される。


 火力が上がる。


 訓練室が、急激に熱くなっていく。


 汗が噴き出す。


 いや、これは汗じゃない。


 水だ。


 ザアアアアッ!


 燈火くんが《水鏡の盾》を発現した。


 範囲を広げて、訓練室全体を覆うように。


 水の膜が、熱を吸収していく。


 でも――。


 ジュウウウウウッ!!


 水が蒸発していく。


 炎の熱と、水の盾が反応して。


 訓練室が、蒸気で満たされていく。


 モウモウとした、白い霧。


 まるで、サウナのよう。


 「美月さん、魔法を止めてください」


 柳瀬さんの声が聞こえた。


 私は慌てて、魔力の流れを止めた。


 炎が消える。


 静寂が戻る。


 目を開けると――。


 訓練室が、蒸気で真っ白だった。


 何も見えない。


 「すごいことになったな」


 燈火くんの声が、すぐ近くで聞こえた。


 蒸気の中から、彼の姿が現れた。


 髪が濡れて、額に張り付いている。


 「魔法を発現するときは、16パーセントから始めた方がいい」


 優しい口調で、アドバイスをくれた。


 「ありがと」


 私は感謝を述べながら、自分の掌を見つめた。


 まだ、熱の残滓が感じられる。


 「私、火属性の魔法も発現できたよ」


 嬉しくて笑みがこぼれた。


 燈火くんも、小さく笑った。


 「ああ。よく頑張った」


 蒸気が、少しずつ晴れていく。


 柳瀬さんの姿が見えてきた。


 彼も、髪を濡らして立っていた。


 でも、その顔には満足そうな笑みがあった。


 「素晴らしい成果です、美月さん」


 柳瀬さんが言った。


 「火属性の発現。そして、風との複合。完璧でした」


 「ありがとうございます」


 私は深くお辞儀をした。


 「ただし」


 柳瀬さんが続けた。


 「出力の調整は、もっと練習が必要ですね」


 「はい……」


 反省した。


 いきなり32パーセントは、やりすぎだった。


 「でも、今日で分かりました」


 柳瀬さんが優しく言った。


 「美月さんの魔法は、無意識のうちに複数属性が混ざる。それをどう制御するかが、今後の課題です」


 「分かりました」


 私は真剣に頷いた。


 「次回は、水属性に挑戦しましょう」


 柳瀬さんが微笑んだ。


 「六属性全てを発現できるようになれば、固有魔法の開発も始められます」


 固有魔法。


 私だけの、魔法。


 胸が高鳴った。


 訓練が終わり、シャワーを浴びて着替える。


 応接室で、お茶を飲みながら休憩した。


 「今日は大変だったわね」


 藤崎さんが笑った。


 「訓練室、蒸気だらけだったって聞いたわよ」


 「すみません……」


 私は恥ずかしくなり、謝った。


 「いいのよ。それだけ力があるってことだから」


 藤崎さんが優しく言った。


 「美月さんの成長は、驚異的よ。このペースなら、すぐに全属性を習得できるわ」


 その言葉が、励みになった。


 SAMAを出て、燈火くんと並んで帰路についた。


 夜の街を歩きながら、私は言った。


 「今日も、ありがとう」


 「何が?」


 「アドバイス。すごく助かった」


 燈火くんは少し照れたように、前を向いたまま答えた。


 「当たり前のことしか言ってない」


 「でも、私には分からなかったこと」


 私は彼を見た。


 「燈火くんがいてくれるから、頑張れる」


 燈火くんが立ち止まった。


 そして、私の方を向いた。


 「俺も、美月がいるから頑張れる」


 小さな声で言った。


 「だから、一緒に強くなろう」


 その言葉に、胸が熱くなった。


 「うん」


 私は笑顔で頷いた。


 二人で、また歩き出した。


 夜空には、星が輝いていた。


 私の魔法は、まだまだ未熟。


 でも、少しずつ成長している。


 燈火くんと一緒に。


 この道を、進んでいく。



お読みくださり有難うございます!!

この作品を気に入ってもらえましたら、下にある☆☆☆☆☆やブックマーク、スタンプで応援いただけると大変励みになります!!

読者の皆様からの応援が次へのモチベーションになります!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ