第十話 希望の光
「ショータ! 出ます!!」
メサイアのハッチから飛び出す。
『ショータ殿が来た!』
ヒキガの声。
『地上! 政府庁舎までの道を! 我らが開けるぞ!』
ライラの号令が戦場に響く。
『レキル! ヒキガ! 私に続け!』
次の瞬間。
眼下を埋め尽くしていた魔人兵たちが、三人の種子島から放たれた白光に呑まれ、まとめて消し飛んだ。
闇の中に、一本の光の道が穿たれる。
俺はそこへ一気に飛び込んだ。
風圧が全身を叩く。
剣を抜く。
「ついて来い!」
刀身から白光が迸った。
メサイア周辺に群がっていた六匹のサンドワームが、一斉にこちらへ頭を向ける。
『ミミズが! ショータ殿に!』
レキルの絶叫。
『行けぇぇぇーーー!! ショータ殿ーーー!!』
ライラの叫びが背中を押した。
その瞬間。
周囲から光が消えた。
空はサンドワームの巨頭に覆われ、うねる肉壁のような胴体が四方から迫ってくる。
圧迫感に肺が軋む。
「そうだ……! 俺を食いに来い!」
見据える先は地上。
崩壊したサンサーラ庁舎。
白光に照らされた道だけが、闇の中に一本伸びていた。
「見えた!」
瓦礫に埋もれた庁舎跡。
その一角だけ、絶え間なく魔人兵が湧き出している。
「あれだ!」
「《月光斬》!!」
放たれた白光が瓦礫をまとめて吹き飛ばす。
「うぉおおおおーーーッ!!」
迫り来る魔人を次々と斬り裂きながら、俺は崩れた地下通路へ突っ込んだ。
――ドシャアアアアッ!!
直後、背後から轟音。
サンドワームが地上へ激突した衝撃が地下にまで突き抜ける。
空間全体が軋み、背骨を直接殴られたような圧が走った。
「ぐっ……!」
だが止まれない。
速度を上げる。
(深い……! どこだ! 魔人の源!)
崩れ落ちる瓦礫より速く。
溢れ出す魔人の流れを追い、さらに奥へ駆け抜ける。
その時だった。
空間が開けた。
「ここか!」
そして――。
「……!」
俺は息を呑む。
「なんだ……これは!」
ーーーー
『ショータ殿!』
ライラの呼びかけ。
『駄目だ! チョーカーが反応しない!』
その時。
地上へ湧き出していた魔人兵の数が、目に見えて減少し始めた。
『ライラ! ミミズが魔人どもを食ってるんだ!』
レキルが叫ぶ。
『俺たちの魔法具も限界だ! メサイアに戻るぞ!』
ヒキガの声にも焦りが滲んでいた。
『ショータ殿……!』
ライラが空を見上げる。
『信じてるぞ!!』
三人は空を覆う魔人を白光で薙ぎ払いながら、サンドワームの隙間を縫ってメサイアへと撤退していった。
ーーーー
「これは……! “のっぺらぼう”……!?」
巨大な地下空間。
その壁と天井一帯に、べったりと張り付くように蠢くモノがあった。
赤黒い。
半透明。
脈動する肉の海。
「……いや、違う!」
全身が総毛立つ。
「あれは……“アメーバ”か!!」
“のっぺらぼう”とは似て非なる異形。
粘菌のような巨大肉塊が、地下全域を侵食していた。
「なんてデカさだ……!」
その肉塊が脈打つたび、表面からボコボコと魔人兵が生まれ落ちる。
まるで巨大な臓器だ。
「《月光斬》!!」
無数の白光が地下空間を裂く。
粘菌が次々に切断される。
だが。
「なっ!?」
切り裂かれた肉塊が、それぞれ別個に蠢き始めた。
「分裂した!?」
切断面が泡立ち、新たな粘菌へ変貌していく。
しかも。
そこから再び魔人兵が湧き出し始めた。
「くそっ! 増えてやがる!」
――ゴシャアアアア!!
突如、地下空間の天井が砕け散った。
「来たか!」
巨大なサンドワームの頭部が、瓦礫を撒き散らしながら地下へ突入してくる。
「やはり! コイツらに喰わせるしかない!」
俺は崩落を避けながら白光を放ち、粘菌をサンドワームの進行方向へ誘導した。
バクン!!
巨大な口が粘菌を呑み込む。
さらに。
――ドガアアアアアッ!!
二匹目。
三匹目。
次々と天井を突き破り、地下へ侵入してくる。
「暴れる三匹に粘菌を喰わせ続けるのは……! なかなか骨が折れる!」
轟音。
振動。
崩落。
地下空間は、もはや巨大怪物同士の戦場と化していた。
その時だった。
最初に侵入したサンドワームの動きが止まる。
「あいつ……どうした!?」
挙動がおかしい。
身体を痙攣させ、暴れ始める。
そして。
「なっ……!?」
サンドワームの全身に、分裂した粘菌が纏わり付いていた。
ズルリ、と。
粘菌同士が再び融合していく。
巨大な肉塊がサンドワーム全体を包み込み始めた。
さらに、その表面から魔人兵が溢れ出す。
「何だと!? 奴ら! ミミズを養分にしてやがるのか!」
背筋が冷えた。
「まずい!」
このままでは。
「さらにデカくなる前に! 他のミミズに喰わせなくては!」
「《月光斬ーーーーッ》!!」
白光が地下空間を薙ぎ払う。
サンドワームに纏わり付く粘菌を次々に切断する。
「ミミズども! さっさと、このアメーバを喰らい尽くせ!!」
だが。
「おい……! おいおい!」
状況は悪化していた。
「まずい! まずい! まずい!!」
サンドワームたちは次々に粘菌に捕まり、動きを封じられていく。
「マルダ!! 聞こえるか!!」
チョーカーへ怒鳴る。
「ミミズより! コイツらの方が強い!」
返事は無い。
「このままじゃ! 養分にされるだけだ!!」
沈黙。
「くそっ! またか!」
その間にも、魔人兵の数はさらに増えていく。
地下全体が、赤黒い肉に侵食され始めていた。
「どうすれば……!」
焦燥が胸を焼く。
その時。
脳裏に違和感が走った。
(……待て)
俺は粘菌を見上げる。
「コイツら……なんで地下にいる?」
ハッとする。
「まさか……!」
全てが繋がった。
「試してやる!」
“暁光の剣”から白光が消える。
代わりに。
刀身が黄金色に輝き始めた。
「グラムディル王が言っていた……!」
剣を握る手に力が入る。
「オリハルコンは……“太陽の力”を持つ金属だと!」
黄金の輝きが激しさを増していく。
「《日輪》!!」
瞬間。
暁光の剣から太陽のような黄金光が爆発した。
地下空間を覆っていた闇が、一気に押し流される。
まるで太陽そのものを叩き込んだような閃光。
粘菌が悲鳴のような音を上げた。
――シュウウウウッ。
光を浴びた肉塊が煙を上げながら溶け出していく。
「やはり!!」
俺は叫ぶ。
「こいつら! 日の光が弱点だ!!」
粘菌が崩れ落ちる。
拘束を解かれたサンドワームが再び暴れ始めた。
だが。
「俺の光だけじゃ! 全部は消し切れない!」
地下全体を覆うには足りない。
なら――。
「ついて来い! ミミズども!」
剣を掲げる。
「今度は上だ!!」
チョーカーへ向かって叫ぶ。
返事は無い。
それでも。
「ライラ! 俺の声が聞こえていると信じてる!!」
崩壊する地下空間へ叫びを叩きつける。
「準備しといてくれ!!」
黄金の剣が輝く。
「“太陽の戦士”! お前の“希望の光”を!!」




