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第九話  白光の航路

『メサイア! 聞こえるか!』

グラムディルから通信。


『聞こえます! 状況を!』

エルフィリアが応える。


『サンサーラに出現したミミズを外側から渦を巻くように集めて来た!』


『しかし!』


『ここからが大変だ! 範囲をさらに縮めていく! 魔人の攻撃も凄まじい!』


『メサイア! ワシらが戻るまで二十分!』

『堕ちるなよ!』


グラムディルのげきが飛ぶ。


『承知しました! グラムディル様!』

『通信はこのまま! 繋いでおきます!』


エルフィリアが強く応える。


『戦艦各艦! 後部主砲の白光出力を限界まで絞り切れ!』

螺旋らせんを描け! ミミズどもを目的地まで引き付けるぞ!』


怒号どごうのようなグラムディルの通信が、メサイア艦内に響き渡る。


『ドウエン! このグラムディルに続けい!』


御意ぎょい!』

『このドウエン! 必ずや、やり遂げてみせますぞ!』


「ドウエンも来てたのか!」


ライラが窓際へ駆け寄る。


暗黒の空を、二隻の巨大戦艦が旋回せんかいしていた。


後部主砲から放たれる白光は、

尾を引く彗星すいせいのように空を裂いていく。


その光へ――


喰らいつく。


サンドワーム。


巨大なあぎとを開き、

白光そのものを喰うように追いすがってくる。


「……来た」


ショータが低く呟く。


グラムディル艦に五匹。

ドウエン艦にも五匹。


十を超える巨大生物が、

空を埋め尽くすようにうごめいていた。


『よし……!』

『そのまま喰らいついて来い、化け物ども!』


だが――


『くそっ!』

『ミミズ同士で白光を奪い合い始めやがった!』


『おい! そっちへ行くな!』

『隊列を乱すんじゃねぇ!』


巨大な肉の柱同士が激突する。


空気が震え、

衝撃がメサイアにまで伝わってきた。


『グラムディル様!』

『サンドワームは、なるべく大きな個体を誘導してください!』


マルダが通信を飛ばす。


『小さい奴らは振り切って構いません!』


『マルダめ! 簡単に言いおるわ!』


グラムディルが吠える。


『ドウエン! お前も苦戦しておるな!』


『当然ですぞ!』

『こやつら、まるで制御出来ません!』


魔人兵の白光にも反応し、

戦艦の白光をも奪い合う。


まるで飢えた獣の群れだった。


『だったら俺たちが道を作ってやる!』


別の声が割り込む。


豪快な笑い声。


『おお! ギンロクかぁ!』


『へへっ!』

『グラムディル様から駆逐くちく艦隊を預かってるからなぁ!』


『退役軍人にこんなデカい舞台を任せてくれるたぁ、ありがてぇ話だぜ!』


『ギンロク!お前なら出来るだろう!』

『戦艦にたかる小蝿どもを蹴散らせい!』


グラムディルが指示を出す。


『ミミズどもの気が散って、真っ直ぐ誘導できん!』


『任せてくだせぇ!』


ギンロクの怒号。


『野郎ども! 行くぞぉ!!』


その瞬間。


無数の駆逐艦が、一斉に加速した。


白光を噴きながら、

戦艦の周囲を縦横無尽に飛び回る。


まるで巨大生物を追い立てる猟犬りょうけんだ。


『駆逐艦隊!』

『魔人兵を蹴散らせ!』


『邪魔な小ミミズどもも近づけるなぁ!!』


白と黒。


無数の閃光が、空を裂く。


魔人兵の白光。

駆逐艦の白光。


幾筋もの光線が戦場を縫い、

空そのものが燃えているようだった。


「すごい……」


ツムリが息を呑む。


その光へ引き寄せられ、

サンドワームたちが次々と軌道を変えていく。


『ギンロク! 助かるぞ!』


『礼は後だ!』

『ドウエン! 後ろを見ろ!』


ギンロクの声が鋭く変わる。


『三匹いるうちの一匹!』

『そいつ、デカい上に速ぇぞ!!』


『何――!?』


ドウエンが振り返る。


来る。


一匹だけ、

異様な速度で迫るサンドワーム。


巨体とは思えない。


空間を食い破るような速さだった。


『うぬう! まずい!』

『追いつかれる!!』


次の瞬間――


――ギシィイイイイイ!!


金属がきしみ砕ける音。


戦場全体を震わせるような不快音だった。


『ドウエン!!』


グラムディルの怒声。


『あ……あぁ……!』


ドウエンの声が震える。


『ギンロクーーーーーーッ!!』


窓の外。


サンドワームの巨大な口。


その牙の奥に――


一隻の駆逐艦が、

半分、飲み込まれていた。


『ギンロク! 脱出しろ!』


応答はない。


艦体が、煙を上げながら溶けていく。


『ギンロクーーーッ!!』


『……うるせぇぞ、ドウエン』


ノイズ混じりの声。


だが――笑っていた。


『ギンロク!』

『生きているのか!』


『残念だが……もう無理だ』


その言葉で。


艦内の空気が、一瞬で凍りついた。


『こいつの腹ん中……』

『鋼鉄の船が、あっという間に溶けやがる……』


『ギンロク……』


ドウエンの声がかすれる。


だが――


『前を向けぇ!! ドウエン!!』


グラムディルの咆哮ほうこう


『ギンロクが繋いだ道を無駄にするな!』

『今は使命を果たせい!!』


沈黙。


そのあと。


『……へへっ』


ギンロクが笑った。


『さすがは……グラムディル様だ……』


グラムディルはすぐに答えなかった。


だが。


その声は、震えていた。


『ギンロク……』

『お前の勇気! ドワーフの誇りとして永遠に語り継ぐ!!』


『ドウエン! 行けぇぇぇぇ!!』


飲み込まれながら。


ギンロクは最後まで笑っていた。


『あの世に来る時はよぉ!』

『美味い酒、持って来い!!』


通信が、途切れる。


そこにはもう、

駆逐艦の姿は無かった。


『……ああ』


ドウエンの震える声。


『またな……ギンロク……』



時間が経つほど、

戦況はさらに悪化していった。


魔人兵の白光が、

雨のようにメサイアへ降り注ぐ。


轟音。


衝撃。


艦が悲鳴のように軋む。


『ハク様!』

『結界出力、急速低下!!』


メーガンの叫び。


『分かってる!!』


ハクが歯を食いしばる。


『でも……数が減らない!!』


窓の外。


無数の魔人。


そのさらに向こうで、

グラムディル艦隊がなおもサンドワームを誘導していた。


白光を喰らい続け、

化け物たちはさらに巨大化していく。


『このミミズども……!』


グラムディルの声。


『魔人を喰い!』

『我らの白光をも喰らい!』


『底なしの胃袋か!! なあ!マルダよ!!』


轟音。


結界が、大きくきしむ。


『グラムディル様!』

『目的地まで、あとどれくらいですか!?』


マルダが問う。


『あと五分!!』


「ありがとうございます!」


マルダが拳を握る。


「グラムディル様! こちらも準備します!」


『了解だ!!』

『必ずデカいミミズを連れて行く!!』


あと少し。


だが、その五分が――遠い。


「ショータさん」


マルダが静かに手を握る。


「ここまで来れたのは、あなたのおかげです」


震えていた。


それでも、真っ直ぐに見つめてくる。


「私は……」

「あなたが創る未来を、信じています」


「……マルダ」


ショータは頷く。


「行ってくる」


もう分かっている。


進むしかない。


ハッチに向かう。


「ショータ殿!」

「最後までお供しますぞ!」


ヒキガが前へ出る。


「ハクからの贈り物です」


レキルが背中を見せた。


「これで我らも空へ出られる!」


背中には、小型の飛行魔法具。


「“グラムディル産の魔法石”を使っています」

ハクが説明する。


「ですが、長時間はちません!」


『あと一分だ!!』

『メサイア! 耐えろぉ!!』


外の衝撃が、

メサイア全体を激しく揺らした。


『ショータさん!』

『ハッチを開きます!!』


メーガンの声。


警報音が艦内に鳴り響く。


『結界の再構築が追いつかない!!』

『外は最前線です!!』


『ショータさん! 気をつけて!!』


「メーガン、了解した!」


――ドガァァァン!!


凄まじい衝撃。


艦内が傾く。


『左舷被弾!!』

『結界、一部突破されました!!』


『メサイア!!』

『あと三十秒!!』

『何としても耐えろ!!』


誰もが限界だった。


だが。


誰一人、諦めていない。


「ショータ! ご武運を!」

エルフィリアが叫ぶ。


ハッチが開く。


赤いランプが――緑へ変わった。


その瞬間。


視界に飛び込んでくる。


暴れ狂うサンドワーム。


空を埋める魔人兵。


なおも戦い続ける艦隊。


そしてーー

命を繋いだ、ギンロク。


拳を握る。


「……グラムディル様」


静かに。


だが、確かな声で。


「ありがとうございます……」


「ショータ! 出ます!!」

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