第二十一話 二人で作った
道人は腕をまくり直して戦闘モードに入ったものの、おぼつかない手つきで揉んでおはぎを作っていく。
とりあえず、二人はあんこが外のと中の二種をそれぞれ丸めると、見比べた。
「…………」
「…………」
まず、両者には大きな差が開いた。
「俺のは一個、百五十円てカンジだな。たぬ子ちゃんのは二百円で売らなきゃ元の値が取れねぇ」
「わたくし、欲張り過ぎましたでしょうか?」
顔を赤くして恥ずかしがるたぬ子の体が肯定するようにグゥと鳴り、ますます赤くなった。つられる様にそれを上回る大きさで道人の腹も鳴る。病院でバタバタしていたために、お昼を食べ損ねていた。道人はお腹を押さえ、
「見てくれはともかく、肝心は味だ!」
無意識にたぬ子が丸めたでっかい方を手に取ってかぶりつく。たぬ子も大きく口を開けて頬張った。
「できたて、美味しいでふぅ」
モッチモッチと口を動かしながら、たぬ子は至福に目を細める。手作りの出来立てがそうそう不味いはずはなかった。問題は〝売り物〟としての価値があるかどうか。道人は冷静に見極める。
「決して悪くはない。うちは餅屋じゃねぇから、そこは妥協が許される。けど、ばぁちゃんの作るおはぎとはやっぱ違うんだよなぁ」
「おばあさまのおはぎは、おばあさましか作れない味なんだと思います。逆を言えば、このおはぎは、店主さんにしか作れませんよ! 店主さんのおはぎ、美味しいです!」
「いや、これは……」
一緒に二人で作った。と言おうとして、どことなく恥ずかしい気分で道人は口ごもった。そのままモゴモゴともう一種のおはぎを食べる。
「……よっし、決めた。試験販売してみっか!」
岩じぃに! と、心で挑戦状を叩きつける。
「はい! やりましょう! 絶対、成功します!」
口をあんこときな粉まみれに、たぬ子は握り拳を上げた。
これで出汁も再現できれば、『道道』は本来の姿に復活だ。そう遠くはない目指すべきゴールが目前に見えてくる。道人はまた一歩また一歩と進んで行く。
──その夜
歩はおはぎをバクバクと口に放り込んでいた。
まるで大食い選手権のようだ。きっと優勝する。間違いない。道人はそう思いながら、妹の食いっぷりを少し戦々恐々としながら見つめる。
「どうだ?」
祖母のおはぎなら歩の方がよく食べていた。感想を求める。
「ふくりふぎっほ」
作り過ぎっしょ。と言った。確かに、成功するかどうかも分からないのに、いつも祖母が作る量で、もち米を一升も炊いてしまった。おおよそ、大きいのが四十個分になる。一パック二個で二十パック限定で販売していた。レジに一番近いカウンターの上に置いておくとすぐに客の手は伸びてくれる。お彼岸などには口約束で注文さえ入っていた、仏壇のお供え物としてだ。もちろん、鳴瀬家の仏壇にもいつも供えられている。
「んー甘味、もうちょい控え目に。うちのはデカいけど甘すぎないから食べれんのよね」
と、兄の作ったいつもより甘いおはぎを難なく口に詰める姿は説得力がない。歩に限っては甘さは関係なく食べられる。
確かに、子供の頃の夏休み中に昼ご飯としておはぎを食べていた記憶があるが、よく考えれば信じられずに怖い。
「明日、病院行くついでに岩じぃに食わせに持ってってやるかぁ」
親切心からではなく、もう食べきれないからだ。たぬ子も協力して食べてくれたが、まだまだ残っている。
「ばぁちゃんは手術が無事に終わるまで食べられないんだよね?」
「あぁ、術後もおかゆからだろうな」
祖母の話が出ると途端、歩の口の動きがみるみるペースダウンしていった。
「ばぁちゃんなら、大丈夫だ。おはぎ、退院したら作って、いっぱい食べさせてあげような」
「うん!」
歩は精をつけるかのように再び口の動きを加速させていく。
道人はファンヒーターの前に毎日鎮座しているタヌキがいないのに気づき、「タヌキは?」と聞くと、歩はこたつ布団をはぐった。
「あっ、こいつコタツを覚えやがった!」と、中でこっそり息を潜めていたタヌキを引っ張り出す。
「ほら、おまえもおはぎ食え! 好きだろ?」
童話では泣いているハゲさんは〝御鏡三つで、だあまった〟だが、どうしても道人の記憶はおはぎ三つだ。祖父母か両親の替え歌に違いない。おかげで皆の前で恥をかかされた。
タヌキは遠慮がちに顔を背ける。
「なんだよ? 食えよ」
「その子、今日エサ食べないの。外で何か食べたんだと思う。だってほら、お腹パンパン」と、歩がタヌキを仰向けに抱っこをして、その太鼓腹をポコンと叩く。
「何食ったんだよ? 近所の畑、荒らしたりしてねぇだろうな?」
言われようのない咎めを受けてか、タヌキは一口、おはぎにかぶりつくと苦しそうに目をつむった。おはぎ三つで泣き止むどころか、余計に泣きそうだった。
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