9、透明な氷は水晶と見間違う(後半)
魔法の授業、後半です。
「お嬢さまはもう軽い氷結ならばお手の物なのでしたね?」
「はい。これくらいなら」
手を重ね、全身の魔力を掌に込めていく。手の中から冷気が漏れだしている。
手を開くとそこには拳サイズの氷の塊が生まれていた。
水晶と見間違う程の透明度、そして研磨されたダイヤのような形を持ったその結晶に、アガットは一瞬息を飲み目を奪われた。
「……これを、軽い氷結と呼ぶんですか。貴方は」
「え、でも先生が拳程度の氷結なら一瞬で出来ないとって」
「それは不透明で形も不揃いな氷の話です!」
アガットは机に置かれた氷を拾い上げマジマジと眺めた。そしてため息を吐き「確かに氷ですね……」と呟く。その間にも、シャルロッテは暇つぶしとばかりにもうひとつ氷塊を作り、手のひらの上で転がしていた。
「お嬢さま、自習はどれくらいしています?」
「教材は毎日読み返していますよ」
「座学も熱心なのは良いことですが、そちらではなく。実技の方です」
「ああ、それでしたら」
手当り次第、倒れない程度に氷を作ってみています。笑顔でそう報告したシャルロッテを見て、アガットは一瞬明後日を見上げた。
魔法を使えるか否かは天から授かる才能だが、それを使いこなせるかは本人次第である。魔法を使うために必要な魔力の量、発動スピード、そして制御能力はある程度鍛錬によって磨くことができるのだ。
しかし鍛錬にかなりの継続と根性が必要とされるため、大抵の貴族はそこでつまずくのだが、シャルロッテはその氷塊を見る限り相当の制御能力を身に着けていると思われる。しかもほとんど独学で。
アガットが持っている生徒の中で氷属性なのはシャルロッテだけではない。オドラン侯爵令嬢を筆頭に何人か実技も指導しているが、シャルロッテの実力は圧倒的すぎる。
自習を嫌がり拳サイズの氷結ですら危うい問題児がいる反面、こんなに熱心な生徒がいるのは喜ぶべきなのだろうが。これは少し、いやかなり、アガットの想定を超えていた。
「でもまだこれより複雑な形だとか、大きいものは時間と魔力を使ってもなかなか難しくて」
「……わかりました。シャルロッテお嬢さまの熱意は伝わりましたよ」
「?」
「外に出ましょう」
「えっ。でも暫くは座学と」
「そんなもの、ページ数を指定するので自習の時間に読んでおいてください。それで十分です」
雰囲気が一変して、何故だか爽やかな笑顔に変貌したアガットに少し圧倒されながらシャルロッテは侍女を呼んだ。外に出る準備をさせるためだ。
予定になかった事態に慌ただしく働き出す侍女たちをアガットは微笑みながら眺めていた。その微笑みの裏で「受けて立ってやろうじゃないの」という炎が如き決意を燃え上がらせながら。
実際、魔法の使える機会に恵まれたら日本人はどんな人も滅茶苦茶張り切りそうですよね。
それこそ、現地人が引くほどに。




