10、ベッドと甘味は日々の癒し
「だはぁぁぁ……今日もキツかった……」
湯浴みを済ませネグリジェを着たシャルロッテは、ぐったりとしながら寝台へ倒れ込んだ。そんな主を、侍女のエメが心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫ですかお嬢さま……」
「だい、じょうぶ……」
「駄目そうですね。今日は……魔法でしたね」
「なにか軽いものをご用意します」と言い残してエメは部屋を出ていった。
シャルロッテ付きの侍女であるエメは、最も長い時間をシャルロッテと共に過ごす召使だ。シャルロッテが何も言わずとも大体のことは察することができる。
有能なエメだが実はジョンよりも年下である。彼女はシャルロッテの乳母、ユニスの子供だ。乳兄弟としてシャルロッテと共にいる時間は昔から多い。
しばらくして戻ったエメは盆の上にミルクと蜂蜜の瓶を載せていた。寝る前の贅沢にシャルロッテはぴょこんと飛び起きる。
「だ、駄目だよ、エメ。そんな、ホットミルクに蜂蜜だなんて!」
「ふふふ、お嬢さま。嬉しそうなお顔が隠せていませんよ……?」
「……ばあやに怒られない?」
「母だってお嬢さまの魔力切れは理解していますもの」
うふふ、と笑い合う姿は主従ではなく、仲のいい姉妹のようだった。
ここ1年ほど、シャルロッテはとても優雅とは言えない夜を過ごしていた。その理由は日によって変わる。
ある日はシャルルとして剣の鍛錬に明け暮れ筋肉痛となり、ある日はシャルロッテとして魔力切れにあえぐ。筋肉痛の方は予想ができていたし前世の知識で対応できるが、魔力切れの方は寝耳に水だった。
魔力切れするほど魔法を使うようになった理由は単純。アガットの授業があの日を境に突然厳しくなったためだ。
授業はほぼ実技。教材は分厚い魔導書になった。魔力切れになるまで魔法を使い、安定して使えるまでそれを繰り返す。おかげで実力はメキメキ付き、既に構えなくても氷柱を作れるまでに育った。
だがどう考えても教養の範囲を越えている。騎士団の魔導騎士にでもなるのかという鍛えっぷりである。当然シャルロッテを溺愛する両親はアガットに詰め寄ったが、シャルロッテが休憩している間に懐柔されていた。最近は何故か目を輝かせながら応援してくれている。
一体アガットが両親に何をしたのかは考えたくなかった。
「じゃあ、いただきます」
ほの甘いホットミルクを1口、2口と飲みながら、シャルロッテは顔を綻ばせた。その幸せそうな表情にエメも釣られて微笑んだ。
体内の魔力を使い過ぎると、強い倦怠感を覚え場合によっては目眩がする。症状が酷いと卒倒してしまうこともあるのだ。
魔法が使える者たちは、当然ながら魔力を生成することが出来る。睡眠や食事をすることで効率よく生成されるため、軽食をとって魔力切れの応急処置をする人が多い。
「あとはしっかり寝てくださいね。明日は大事な日なんですから」
「流石に忘れていないよ?」
「1年前は本気で忘れていたでしょう」
うっと息を詰まらせ、誤魔化すように笑うシャルロッテ。1年前は記憶が蘇ったばかりで混乱し忘れていたのだ。
明日は、シャルロッテの13歳の誕生日である。
次回から毎週金曜日19時投稿になります。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>




