8、女教師といえばだいたい眼鏡で巨乳(前半)
「では、前回の振り返りから始めますよ」
分厚い教材を開きながら、眼鏡を掛けた女家庭教師がパチンと指を鳴らした。すると突然そよ風が吹き、2人の教材のページをペラペラと捲った。
(何度見ても慣れないなぁ)
女家庭教師____本名、アガット・レフィスが使ったのは紛れもなく“魔法”だ。ピタリと該当ページで止めて開ける辺り手慣れている。
本来、女家庭教師という職業は陰で“余り女”などと言われて冷遇される仕事である。貴族出身でありながら結婚せず、自ら働く女性である彼女たちは、結婚するのが当たり前と捉えられている貴族社会にとっては余り物なのである。
しかし魔法が使えるとなれば、話は別だ。魔法を教えられる存在はとてつもなく貴重である。
魔法が使えるということは高位の貴族ということ。その貴族が結婚しないという選択をするのは珍しく、結果として数が減る。
魔法が使えれば爵位を継ぐ順位が入れ替わることも珍しくない社会だ、男性の教師なんて望むべくもない。
つまり、アガットのような存在はとにかく重用される。高給取りで、多忙だ。アガットも住み込みではなく自分の屋敷を持ち、複数の家に通っているらしい。
「魔法の属性はそれぞれ神話の神々から考え出されました。お嬢さまは氷属性なのでシャンデラ様の加護を受けていることになりますね」
属性は全部で5種類。簡単に言ってしまえば、光・闇・炎・氷・風の5つ。これらにはそれぞれ対応する神がおり、階級も大まかに分けられる。
世界を初めに想像したとされる光のリュイエを頂点に、その妻闇のノアリーヌが続く。彼らはそれぞれ昼と夜を守護し、朝と夕暮れ時に夫婦の時間を過ごすとされている。
炎・氷・風の3柱は光と闇の2柱より下に位置づけられている。リュイエの弟神、炎のフライエは戦いの果て氷のシャンデラを娶り、2人の仲人をした風のヴァニエンは旅人のような風貌で描かれる。
この世界の神話はどちらかと言うと地球のギリシア神話に近い。この5柱に纏わる神話は数多くあり、元日本人であるシャルロッテにとっては馴染みやすい宗教だった。
「……ま、神に関しては教養程度に知っていれば問題ありません。魔法の善し悪しには関係ありませんし」
そのためか、この国において宗教の絶対感は薄い。このアガットのように冷めた思考で捉えている民がほとんどだ。
「でも、それぞれの神様が司るものくらいは覚えておいてください。魔法に関わることもあるので」
まあ滅多なことでは関係ありませんが。そう付け加えながらアガットはシャルロッテに答えるよう求めた。
魔法や神話の勉強を楽しんでいるシャルロッテは即座に口を開く。
「光は創造。魔法においては珍しい癒し手。
闇は知識。闇の魔法持ちは予知夢を見ると言われています」
炎は生命。身体能力が優れると言われ騎士になる者が多い。
氷は停止。かつて死を与えるほどの魔法を使う者が現れたという。
風は時間。静止したものを歩ませ、悪しきものを吹き飛ばすと言われている。
「完璧ですね。流石です」
「先生の教え方が良いのですよ」
「おや、口まで上手くなってきましたか」
アガットは当然風属性の魔法持ちだ。これは俗説だが、神に倣って風属性には変わり者が多いとされている。アガットを見ていると的を射ている気がしてくる俗説だ。
優秀な人ってどの分野でも変わり者が多い気がします。




