7、真面目な人間ほど苦労する
「ジョン!」
晴れて正式に騎士となったジョンは笑いながら手をひらひらと振っていた。どうやら見回りを交代したところらしい。
「とりあえず剣を持ってみるってんだったら俺と先輩とで見ていてやるよ。団長に初めから見せるのは……まあ、お勧めしないぜ、クロード様」
シャルルがふとジョンの後ろを見やると、顔色の悪い騎士がだばだばと走って来ていた。確か、ジョンとよくつるんでいる人だ。ジョン程ではないがかなり若く、それでいて弓の名手だったはずだ。顔色が悪いのはジョンが思いっきりシャルルやクロードにタメ口で話しかけたからだろう。
「ジョンッ! お前は! また!!」
「いいよな、先輩?」
「いやいや、俺たちが勝手にクロード様に剣を持たせたって団長や奥様に知れたら……!」
「だ、だめなのか?」
口論に(一方的に)なりかけた騎士2人の会話を、クロードの声が遮った。捨てられた子犬のような、哀しげな瞳がジョンを止めていた騎士の良心に刺さる。「う゛っ」と声を漏らしていたので彼が落ちるのは確定だろう。
「じゃあ決まりな。俺はジョン。姉君の騎士だぜ」
「またお前はそんな大それたことを……。私はフェリクス・ロイド。ロイド男爵家の三男です」
フェリクスと名乗った薄茶髪の騎士はクロードに対ししっかりと騎士の礼を取った。ジョンと対照的に真面目な性格なのだろう。故にジョンのお目付け役として苦労しているようだ。
どこか緊張した面持ちで背筋を伸ばすクロード。彼ら3人の様子が微笑ましくて、シャルルはくすくすと笑った。
「じゃあ先輩方、クロード様をよろしく」
「おう姫さ……あーいや、シャルル」
「お前、今度は呼びすてを……ッあ、あれ? いい……のか……?」
頭を抱えるフェリクスに申し訳ない思いをしながらシャルルは頬をかいた。シャルロッテはともかく、シャルルは騎士団入りたての見習い騎士である。実家の爵位が高かったとしても騎士団内での序列は圧倒的に下なのだ。
(まあこれで、やんわりとクロードにも伝わるだろう)
ガラドスの鬼畜指導より幾分マシだと、クロードをジョンとフェリクスに預けてシャルルは踵を返した。
「シャルルは見なくていいのか?」
「えーと、ほら、そろそろお嬢さまが魔法の授業の時間だから」
「ああ……シャルロッテ様も大変ですね……」
剣の鍛錬に魔法の授業。令嬢としての立ち振る舞いから基本的な座学までと、シャルロッテが受けるべき教育は多岐にわたる。
魔法の才覚があるシャルロッテは15歳で魔法学園に入らなければならない。魔法学園といえど、通うのはほとんどが貴族である空間だ。そこはただの学問施設ではない。
一言で表せば、そこは社交界の縮図。純粋に魔法を学びに来ているのは一部の者のみだ。ささやかでも魔法が使えれば次世代の貴族たちと交流することが出来る学園は、人脈作りには最高の場所である。
プレイヤーだった頃は知りえない事情だが、シャルロッテとしては必ず知っていなければいけない情報。
シャルロッテは長い歴史を持つ侯爵家に連なる者だ。つまりは、擦り寄られる側である。そしてそちら側の人間はそれに見合うだけの実力を持たねば顔が立たない。
「じゃあ行ってきます」
「あっちょっと待ってくれ」
シャルルはジョンの声に足を止め、体を捻って振り向いた。フェリクスとクロードを置いてジョンが走り寄ってくる。
「その……そんなに強くならなくたって、姫様の剣はここにいるんだからな」
とんとん、と拳で自分の胸を打つジョンを見てシャルルは数度瞬きし、意味を理解して破顔した。
「大丈夫、お嬢さまもちゃんと分かっていますよ。ジョン先輩が誰よりも頼りになる剣であるということは」
「そうかよ」と言いながら照れくさそうに頭をかく黒髪の騎士を見ながら銀髪の見習い騎士は微笑んだ。前世の記憶があるシャルロッテからしてみると歳上であるはずのジョンが可愛くて仕方がなかった。
よ、40ブックマーク突破?!
おどろいて嵌め直したはずの目玉がまた飛び出ましたよ(;゜Д゜)
読んでいただき、本当にありがとうございます。
10話までは毎日19時更新予定となります!




