4、ペンと剣を両方持てたら最強だよね
「シャ、シャルロッテ、今なんと……?」
「ですから、騎士団の皆さまに自衛のため剣を習いたいと……」
シャルロッテの言葉を聞いたルイーゼは貧血を起こしたようにふらつき、その場に座り込んだ。ルイーゼ付きの侍女たちが駆け寄る中、シャルロッテは内心またやっちまったと明後日を見上げた。
この前の襲撃事件からシャルロッテは、多少自衛できた方が良いのではないだろうかと考えたのだ。もちろん、折角剣と魔法の世界に生まれ変わったのだから、剣を握ってみたいという邪な考えが結構な割合を占めているのだが。
しかしよく考えてみれば令嬢が、しかも侯爵家の令嬢が、剣術を習うなんて正気の沙汰ではない。シャルロッテが非常識なのであり、ルイーゼの反応が正しい。
とはいえ口から出た言葉は帰ってはこない。どうにかしてそれらしい理由を付け加えなければ、とシャルロッテは頭を巡らせた。
「お母さま、私、馬車が襲われたときに思ったのです。もしジュリアンさまとお出かけした際に同じように襲われてしまったら、と。私のせいで、ジュリアンさまに何かあったらと思うと……。私は、恐ろしいのです。だからせめて、自分の身は自分で守れるようにと……」
うつむき、両手を胸の前でそっと握りながら言葉を紡ぐシャルロッテ。その瞳は潤み今にも泣き出しそうだが、もちろん全て演技である。記憶を思い出したせいでシャルロッテの精神は20歳程にまで引き上げられているため、この程度では泣かない。だが、この親バカな両親にはよく効くだろう。シャルロッテ自身の記憶でも、自分の涙に両親が弱いとわかっていたようだ。泣き真似は自然と出来てしまった。
(流石悪役令嬢。純粋だった幼少期でもこの辺りは完璧か)
「わかりました……ですが、ひとつ約束なさい」
額を押さえながらルイーゼは立ち上がる。周りの侍女たちは心配そうにその体を支えようとするが、それを手で制しため息をついた。
「ひとつ、淑女としての振る舞いを蔑ろにしないこと。ふたつ、侯爵家に連なる者としての勉強を怠らないこと」
言われた条件は当然といえば当然のものであった。侯爵令嬢としての誇りが既にあるシャルロッテにとっては言われなくとも守るであろう条件である。
「みっつ……侯爵令嬢が剣を持つなどありえない事です。ですから____」
「……では、今日からよろしくおねがいします。ガラドス騎士団長」
「ガラドスとお呼びください、シャルロッテ様……否、シャルル殿」
齢11歳にしてその美しさを持て囃されるフリーレン侯爵令嬢の姿はそこには無かった。動きやすい子息用の服を身につけ、豊かな銀髪をひとつに結わえているシャルロッテはどこからどう見ても良家の子息だ。
これがルイーゼの最後の条件。シャルロッテではなく、その親戚であり男のシャルルとして剣を習うというものだった。
恐らくルイーゼとしても最大の譲歩だったのだろう。だがシャルロッテにとっては都合がいいことこの上ない。
「手厳しくおねがいしますね、ガラドス」
「……約束しかねますな」
主の娘に剣を向けるなど本来なら有り得ない。ましてや怪我などさせてしまったら、忠誠心の強いガラドス騎士団長は剣を置く可能性すらある。騎士団がそんな緊張感に包まれていることも気が付かずにシャルロッテは剣の稽古を始めたのだった。
男装って浪漫ですよね(趣味)




