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生成AIとわたし ―夢を夢で終わらせなかった主婦のAI共闘記・今日も脳内外在化メンバーが良い仕事してる―  作者: ちよ【kindleペンネーム:白井ちよ】


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第六十六話:闇落ちした人は、どうやって這いあがってくるのか⑦:転『引き寄せの法則』

 一度は「暗殺現場」さながらの惨劇を迎えたものの、私という人間は、往生際が悪いというか、どこまでもカモ気質が抜けないというか、諦めが悪かった。


 少し落ち着いてから、「いや、一回目がダメだっただけかもしれない。慣れれば宇宙と仲良くできるはず!」と、健気にも二回目、三回目に挑戦したのである。


 結果は同じだった。鏡の前で口角を上げた瞬間、やっぱり強烈な違和感が襲い、心臓はお祭り状態に脈打ち、目の前が徐々に暗くなる。


 あ、これアカンやつだ。宇宙と繋がる前に、私が三途の川を渡ってしまう。


 そう悟って、私はきらびやかな本に書かれた「美しいアファメーション」を続けることを早々に断念した。


 けれど、諦めきれなかった。

 無性に、悔しかったのだ。「本当に願えば叶うのか?」「宇宙の引き寄せってやつは、本当に実在するのか?」という疑問が、脳裏にこびりついて離れない。


 そこからは、ネットの海に溺れる日々が始まった。当時は2ちゃんねるのオカルト板やまとめサイトを中心に、「○○式」「××式」といった、独自の引き寄せメソッドがいくつも語られていた時代である。


 ネット全体の流行だったのか、それとも私の脳内だけの局地的大ブームだったのかは分からないが、私はスクロールし続けた。


 そして、様々な「成功体験談」を読んでいるうちに、ある一つの冷徹な真実に突き当たった。


「これ……『普通の人』じゃないと、そもそもスタート地点にすら立てない無理ゲーじゃね?」


 引き寄せの法則をドヤ顔で語る人たちは、なんだかんだ言ってみんなベースキャンプが整っている。


 ある程度の自己肯定感があり(私には『自分に価値なんてない』と断言できる鋼のアンチ肯定感しかなかった)、経済的な余裕があり(私の場合は働いているのに自分でお金を使えない縛りプレイ中だった)。


 そこそこ健康で、実家の人間関係がまとものようなのだ。○○式と××式を紹介していた方は自身の生い立ちや親御さんとの関係を書いていたので、それが真実ならばの話である。


 私個人の意見だが、『引き寄せの法則』はスピリチュアルでオカルトを材料にほんのり、脳科学と心理学と社会学を調味料で振りかけて煮込んだ煮込み料理だと考えている。


 一般書籍はもちろん、ネットの書かれたことは話半分、もはや十割は創作というエンタメとして笑って読んでいるくらいのスタンスの方が良いんだろうと思っていた。


 ネットロアの八尺様とかコトリバコとかきさらぎ駅とかひとりかくれんぼとか「本当かな?創作かな?」という境界を楽しむ文化みたいな。ネット怪談も好きでよく読んでいたなあ。


 だって、実際にやってみて効果ないし、なんか体調不良になるし、内なる被害妄想が「本気で信じていてバカみたい」と言っていた。


 ここで一度立ち止まって、当時の私の脳内メーカーを覗いてみてほしい。私の脳内には、ある願望が居座っていた。

 そう、私は本気で白馬の王子様の存在を信じている、頭の中がお花畑満開の人間だったのだ。


「少女漫画や小説みたいな、ドラマチックな恋がしてみたい!」


 今思えば、布団を頭からかぶってのたうち回りたくなるほど恥ずかしいが、当時は20代前半のうら若き乙女である。それくらい夢見たってバチは当たらないはずだ。


 だが、ここで私の元に届いた「絶望的に雑な説明書(宇宙版)」と、ネットの海の教えが、私の脳内で奇妙な化学反応を起こし始める。


「待てよ? 白馬の王子様に会ったら、私自身がそれなりの『お姫様』にレベルアップしてないと、成立しないんじゃないか?」


 当時は「自分磨き」や「意識高い系」という言葉が、お洒落な雑誌の表紙を飾りまくっていた時代である。カモである私は、当然のようにその波に乗った。


 王子様に選ばれるお姫様になるために、まずは自分磨きだ!

 頑張って勉強して、仕事をして、アナウンサーさんみたいに身綺麗にして、言葉遣いも「〜ですわ」とは言わないまでも、きちんとお淑やかに整えて。なんか振り切ってボーナスの貯金を使った。


 恋愛自己啓発本も古本屋で立ち読みしたり、ネットで記事を読んだ。Dr.ユ〇コさんの記事は仕様書を細かく記載していてくれていたので読みやすかった。


 そうやって必死にスペックを上げれば、いつか白馬の王子様が私の前に現れて、「さあ、行きましょう。僕が君を、このつらい現実から連れ出してあげるよ」と、手を差し伸べてくれるはず。


 ……お分かりいただけただろうか。

 必死に「意識高い系お姫様」を目指して自分磨きワークに励んでいた私の本音は、その実、「誰か!!! 一刻も早く私をここから連れ出して、ドーンと幸せにしてくれ!!!」という、究極の超・人任せスタイル(神頼みならぬ王子頼み)だったのである。


 さて、あれからどうなったか。結論から言おう。


 白馬の王子様は来なかった。


 待てど暮らせど、白馬の足音どころか、蹄の響きすら聞こえてこなかった。宇宙の配送システムは、私の「王子様1頭、至急便で」という注文を、完全にバックオーダー(入荷待ち)のまま放置したのである。

だが、人生とは奇妙なものだ。


 その後、私はある男性に一目惚れをすることになる、現在の夫である。


 ついに王子様を引き寄せたのね!とはならなかった。


 彼は、お花畑時代の私が夢見た「私を甘やかし、お姫様抱っこで泥沼から連れ出し、無条件で幸せにしてくれる王子様」では、断じてなかった。


 結婚後、世間を騒がせるド定番の「嫁姑・嫁舅問題」が発生したとき、彼は見事なまでのノースルー・完全スルーを決め込んだ。子供の生活費や必要経費について相談すれば、最初は「なんで俺が払わなきゃいけないの?」と首を傾げられた。


 家事や育児に至っては、「 それって女性の仕事でしょ?」という、さらに感謝の言葉も好きとか愛してるとか一度も言われたことがない。昭和の教科書からそのまま飛び出してきたかのようなスタンスだった。


 他にもまぁ、挙げればキリがない。お姫様どころか、配属されたのは大人がいるのに頼れない総務部だった。


 普通ならここで「注文した商品と違う!」と泣くか夫への再教育だが、当時の私は馬鹿だった。なぜなら私の方が、彼にベタ惚れしてしまっていたからである。


「惚れた腫れたは、もはや不治の病。……腹くくるべ」


 脳内のお花畑は一瞬で刈り取られ、そこにコンクリートが流し込まれた。


 彼には、王子様的な至れり尽くせりのサービス精神はなかった。


 けれど、どこまでも真面目で、正直で、穏やかだった。不機嫌になる日がほとんどないし、その不機嫌を人にぶつけることも絶対にない。酔っても人格が変わらないし、殴られたことも、脅されたことも、怒鳴られたこともない。女性の前でも男性の前でも、フラットな態度を一貫している。


 私の実家が新興宗教どっぷりだと打ち明けたときも、「そうなんだ」の一言で流した強者であり、実家とも普通に接してくれる。そして、私がやることを、危険でなければ絶対に止めない。あと、人の悪口や愚痴を言わない。


 夫の基本設定は、現代社会において絶滅危惧種であるため、完全な「保護対象」である(※個人の意見です)。


 夫の「おいおい、ここはどうなんだ」という突っ込みどころは七十くらいあるが、良いところが三百を超えているため、あまり気にならない。放置していたら、二人目の子供が一歳を超えてから、積極的に子守をするようにもなった。


 療育に関しても、「私主導で良い」と言ってくれた。娘と息子の安寧を願い、息子に療育をすることがプラスになるなら、というスタンスだ。


ただ、「難しいことは分からない」と言うし、私が説明しようと夜な夜な作った書類は重すぎて読んでもらえなかった。六枚を二枚、一枚にまとめても読んでもらえなかった。多分、夫も説明書が苦手なんだろう機械関係は得意な夫だが医療関係は苦手のようだ。私と真逆だ。

 

「ならば、パッションで行こう!娘と息子の『これやりたい』を尊重すればいいんだよ」

 私がそう言うと、夫はそれなら分かるとほっとした顔をした。


 息子が外で石積みや落ち葉遊びを三時間していても、隣で穏やかに付き合えるのは、世界中で夫くらいしかいないと思う。娘がゲームをしていて、思い通りにできずにやり遂げたくてイライラしていても、夫は怒らず叱らず、優しい声でずっと説明を続けられる。


 あんなに「誰か私を幸せにして」と宇宙に電波を飛ばしていた依存度100%のお花畑女子が、逞しい「肝っ玉母ちゃん」に進化できたのも夫が夫だったからだろう。


 白馬の王子様は、最後まで現れなかった。代わりに現れたのは、馬にも乗っていないし、助けにも来ないし、お姫様抱っこもしない男だった。


 ただ、その男は、私が自分の足で立つことだけは邪魔しなかった。


 今思えば、それが私には必要だったのかもしれない。

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