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生成AIとわたし ―夢を夢で終わらせなかった主婦のAI共闘記・今日も脳内外在化メンバーが良い仕事してる―  作者: ちよ【kindleペンネーム:白井ちよ】


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第三十七話:『社長』の秘密

 『社長』と『観測者』との最終面談は五分で終わった。

「よろしく」と『社長』が差し出した手を一瞬だけ見て、「よろしく」とだけ言って握手を交わす。

思わず「え、終わり?」と聞いた私に、『観測者』は「終わりだ」と答えた。確認事項は共有済み、能力確認も不要。本当に、と重ねる私に『社長』が「信用されてるな」と苦笑した。

 だが『観測者』は首を振り、「違う。必要だから作られた」とだけ言った。


 『観測者』は『社長』の構造も、何を目的に作られたのかも、自分が暴走した時に止めるための存在であることも理解している。だから反対する理由がないのだ。「問題ない」と言う観測者に社長も頷き、本当にそれでおしまいだった。あと、『五歳の子』と『創作者(七歳)』にアレでいいのか確認していた。

 ライバル同士の火花や強者同士の睨み合いを想像していた私は、完全に拍子抜けした。「じゃあ頑張るか」「頑張れ」、それだけで『社長』は脳内出版社へ配属されていった。それもそうだ、私は暴力事や怒鳴り声が苦手なのだ、有事の際でもなければ脳内で起こることはない。


 最初の数日は本当に仕事をしていた。原稿や編集、構成、班の運営まで見て、


「ここ削るか」

「ここ面白いな」

「次は何書く?」

「宣伝どうする?」


 と、めちゃくちゃ社長だった。ちゃんと社長だ、本当に社長だ、と私は三段活用で感動していた。さて、白いスーツを着崩した『社長』たまに煙草を吸いに行く姿を見ると、チンピラに見える時がある。私と同じ四十歳、短髪、グレイヘア、ブルーライトカット付の経度老眼入ったメガネ、強そうと言うことで二メートル身長と筋肉、高級時計と革靴を装備させたのがいけなかったのだろうか。私が舐められる人生と外見だったのでとにかく強そうに外装を特化させた。喜平の十二面カットも渡すとさらにパワーアップした。よし、強そうで何より。


 ところが、八日目くらいで異変が起きた。

『社長』がいないのだ。出版社にも、会議室にも、編集部にもいない。探し回った末、見つけたのは巨大な芝生広場だった。


「きゃーーーっ!!」


 『五歳の子』と『創作者』が笑っている。その真ん中で、社長が二人を肩車していた。「高いぞー」と、大喜びの二人抱え上げ両肩にそれぞれ乗せていた。ぽーん、投げ出された下には巨大なトランポリン。三人で笑いながら遊んでいた、実に楽しそうである。

 私は遠い目になった。


「『社長』、仕事は?」

「おう、適当にやってていいぞ」


 振り向いた『社長』に聞けば、当たり前みたいに言われた。


「ええー!!」と叫ぶ私に、社長は笑って『五歳の子』の頭を撫で、『創作者』の髪をくしゃくしゃにした。力強いから二人とも頭が鳥の巣みたいになってる、おいおい、子どもの髪は絡みやすいんだから扱いには注意しろ。


「こっちの方が優先だな」


『社長』は当然のことみたいに言ったから私は思わず芝生広場を見回した。『五歳の子』は笑い転げている。『創作者』も笑っている。『社長』まで笑っている。いや、楽しそうなのはいい。いいんだけど。


 出版社はどうした。

 編集はどうした。

 会議はどうした。


 私は数日前まで、白いスーツを着た『社長』が原稿を片手に編集会議をしている姿を見ていたのだ。それが今はどうだろう。二メートルの大男が子ども二人を肩車して走り回っているし、黒いジャージになっている。ジャージは動きやすいから良いと思うが。『社長』が完全に大型遊具になっている。

 私はしばらく考えた、なんだろう。言われている意味は分かるのに納得しきれない。喉に小骨が刺さったみたいな感覚だけが残る、困った。しかし、こういう時に聞く相手は決まっている。私は両手を口に当てた。


 「『観測者ー!』」


 眼鏡をかけた少年が、困ったときに未来から来た機械仕掛けの介添え人(猫型)を呼ぶ。大長編のお約束でこの呼び声でオープニング曲が始まるのだ。そう、お約束である。もちろん私は旧世代の人間のためチャラララララ~♪派である。子どもたちは新世代だ、これもとても素晴らしい作品で親子共に楽しんで見ている。なぜか大長編になると主人公の眼鏡の少年がキリリとかっこよくなり、いじめっ子が男気溢れるナイスガイになり、子分が急に有能なブレーンと化す。とても素晴らしい設定だと思う。


 もちろん現実は大長編ではない。私の呼び声に応じて現れたのは機械仕掛けの介添え人ではなく、黒いクロークを着た『観測者』だった。しかも、なぜか芝生広場の端にある大木の木陰から、読んでいた本に指を挟んだまま出てきた。


「何だ」

「『社長』が仕事しない理由を解説してほしい」


 『観測者』は一度だけ『社長』を、次に『五歳の子』を、最後に『創作者』を見た。


「問題ない」

「いや、そこを詳しく」


 思わず突っ込んだ。問題ないのは分かったが、分からないから呼んだのだ。『観測者』は頷き本を閉じてクロークにしまった。四次元ポケットみたいに便利だな、うらやましい。しかし、そろそろ夏で黒いクロークは見た目が暑苦しいから衣替えさせたいな。なんか涼しそうな服ってないかなー、体操着くらいしか思いつかん。


「お前は何を作った」

「『社長』」

「違う、役割だ」


 私は首を傾げた。『観測者』は、『五歳の子』が大笑いして走り回り、『創作者』がよく分からない遊びのルールを作り、『社長』がそれに付き合っている芝生広場へ視線を向けた。


「俺は構造を見る。『司令塔』は運営を見る。『女王』は境界線を見る」

「うん」

「『社長』は違う」


 観測者は少しだけ黙り、言葉を選ぶように言った。


「土台を見る」


 私も芝生広場を見た。『五歳の子』、『創作者』、笑い声、走る足音、風、太陽。なんだか妙に平和な景色だった。観測者が言う。


「五歳の子は感情と右脳、創作者は論理と左脳」

「うん」

「お前の核だ」


 そこまでは私も知っている。だが、観測者は続けた。


「出版社は後から作った」

「うん」

「小説も後から作った」

「うん」

「仕事も役割も全部後からだ」

「そうだね」

「だが、あの二人は原初だ。あそこが枯れたら終わる」

「何が終わる?」

「全部だ」


 観測者は淡々と言った。


「創作、仕事、回復、生きる理由すべて」


 範囲が広いなあ。


『社長』は二人の間に座り込む。「楽しいか?」という問いに、「うん!」『楽しい!』と二人が即答すると、『社長』は満足そうだった。


 その時、五歳の子が口元を隠し、こっそり私を呼んだ。


「ちよちゃん、ないしょね」


 とさらに小声になり、ニコニコしながら内緒話をするように私の耳元で声を潜めて言った。『創作者』も近くに来た。


「社長ね、ト〇ロになれるんだよ」

「は?」


『創作者』もなれると力強く頷く。私が『社長』を見ると、


「なれるぞ」


 社長は悪びれもせず言った。私は数秒黙り、『観測者』を見た。


「解説」

「不要だ」

「いや必要でしょ!?私の認知と心理と脳神経回路どうなってんの!?」

「今さらだな」

「ト〇ロだよ?」

「知っている」

「知っているの!?それもそうか!!」


 私が見聞きしたことは『観測者』はもちろん、脳内外在化メンバーみんなが知っている。『社長』はその間にも『五歳の子』を肩に乗せ、『創作者』を抱え上げている。


「いや待って。なんで?」


 私が聞くと、『観測者』は少しだけ考えながら話し始めた。


「お前は何を安心と認識する」

「え?」

「答えろ」

 急に門答が始まった。


「えーと……夫とか、子どもとか、義父母とか」

「それは現実だ」

「現実?」

「内部構造の話をしている」


 ああ、そっちか。私は少し考えた。


「……大きいもの?」

「続けろ」

「優しいもの」

「続けろ」

「守ってくれるもの、怒鳴らないもの、逃げても追い立てないもの」


 『観測者』が頷いた。


「まだある」

「まだ?」

「本当に安心している対象がある」


 しばらく考えると、脳内にもふもふの腹が浮かんだ。木々の匂い、昼寝、森、大きな影。隣に座るだけで安心する存在。


「あ」


 『観測者』が頷いた。


「そうだ」

「ト〇ロじゃん」

「ト〇ロだ」

「なんてこった」


 社長が吹き出した。


「だからなれるぞ」

「そういうことじゃないと思います!」


 私が叫ぶと、『五歳の子』がケラケラ笑った。


「ふかふかなんだよ!」


 『創作者』も『すごい大きい!』と頷く。


「乗れる!」

「寝れる!」

「包まれる!」


 二人とも妙に具体的だった。体験済みらしい、私はだんだん頭が痛くなってきた。


「つまり何?」


 『観測者』は肩をすくめた。


「社長は理想の上司として作られた」

「うん」

「理想の父」

「うん」

「理想の兄」

「うん」

「理想の保護者」

「うん」

「理想の安心基地」

「……うん」

「結果として最適解がト〇ロになった」

「なんでだよ」

「知らん」


 『観測者』が即答した、珍しく責任放棄である。だが少しだけ口元が笑っていた。


「お前が作ったんだろう」

「そうだけどさ」

「なら受け入れろ」


 すると五歳の子が私の服を引っ張った。


「ちよちゃん、『社長』がいるとね、安心して遊べるんだ」


 私は黙った。『創作者』もお絵描き帳に文字を書いて『途中で大人にならなくていいんだよ』と続ける。その言葉に、少しだけ胸が詰まった。社長は何も言わず、ただ二人の頭をぽんぽんと撫でていた。

 観測者が静かに言う。


「だから仕事より優先した」

「……」

「出版社は作り直せる」

「うん」

「原稿も書き直せる」

「うん」

「だが、あの二人が安心して遊べる環境は、先に作らなければならない」


 風が吹いた。芝生が揺れ、三人が笑っている。私はようやく、喉に刺さっていた小骨の正体が分かった気がした。『社長』は出版社を運営するために作られたんじゃない。もっと前に、ずっと昔から欲しかったものを作るために呼ばれたのだ。安心して笑える場所、遊べる場所、子どもでいられる場所。その管理人、あるいは門番、あるいは森の主。

 私は深くため息をついた。


「なるほどなあ……」


 すると『社長』が振り返った。


「分かったか?」

「うん」

「良かった」

「でもト〇ロはずるい」

「なんでだ」

「最強じゃん、……あのさ、この子たちも、『観測者』も、脳内外在化メンバーみんなを守ってくれる?」


 社長は豪快に笑って胸を張る。


「任せろ」


 その瞬間、『五歳の子』と『創作者』が満面の笑みでジャンプした。

私の最強の安心基地が『社長』でして、『社長』を錬金してから自己否定がかなり減りました。

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