第二十一話:創作と現実の交差
「何から始めたらいいんだろうね」
「行ってこい」
その声は、いつもより少しだけ低かった。
「どこに?」
「聖女のところだ。凍結して、地下の最下層に隔離してある」
私は思わず眉をひそめた。
「いいの?」
「お前の目で見た方がいい。他の誰かを介さず、“お前自身の目”でだ」
観測者は、視線だけで部屋の隅を示した。
そこには、『五歳の子』が立っていた。その隣に、七歳の『創作者』が静かに佇んでいた。
「二人に頼んでおいた。手をつないで行け。道案内は二人がする」
『五歳の子』は、ぱっと笑って手を差し出した。『創作者』は言葉を持たない代わりに、静かにうなずいた。
私は二人の手を握った。なんだか、娘と息子の手に似ている。あったかい気がする。
「あなたたちが、アンカーなんだね。お願いね」
そう言った瞬間、足元の床がふっと消えた。歩くのかと思った。階段を降りるのかと思ったら、違った。
ただ、ゆっくりと“沈んでいく”。
こたつの前に座っている私の身体はそのままなのに、意識だけが、深い深い層へと落ちていく。
ぐらり、と揺れる。でも、二人がぎゅっと手を握ってくれているから怖くない。
ぼんやりしているうちに、最初のフロアに着いた。
目の前に広がったのは、精神病院の隔離区域のような冷たい空間ではなかった。
広いワンフロアを丸ごと改装した、二人のためだけの豪華マンションのような場所だった。
天井は高く、白い光が柔らかく降り注いでいる。
床は温かい木目で、空気は静かで、どこか懐かしい感じがした。
そして、どういう理屈か分からないけど。フロアの奥には空があった。
青い空。雲がゆっくり流れている。
その下には、庭があり、湖があり、花畑が広がっていた。
どこかで見たことがあるような、夢の中の風景だ。
私は思わずつぶやいた。
「よかった。いいとこだ」
その庭のベンチに、『悲劇のヒロイン』と『自己犠牲』が並んで座っていた。二人とも、疲れた顔をしていた。でも、私に気づくと、ゆっくりと手を振った。その笑顔が、胸に刺さった。
あれが一番やばい。あの“無理して笑ってる感じ”が。
『五歳の子』が私の手を引いた。
「行こう」
『創作者』も、静かにうなずいた。
私は二人に導かれ、花畑の横を通り抜け湖のほとりを歩き、再び沈む感覚に身を任せた。
次のフロアは、驚くほど明るかった。
テレビで見たスイートルームのように整えられ、清潔で、静かだ。
私は思わずきょろきょろと見回した。『五歳の子』が私の手を引っ張った。
「こっち」
『創作者』も、無言で同じ方向を指した。私は二人に導かれ、部屋の奥へ進んだ。
そこに、彼女がいた。
彼女は、背を向けて座っていた。長い衣。長い髪。かつて私の前に立ち、隣に座り、優しく微笑んでくれた『聖女』。
でも。青い。真っ青。陶器のように、つるりとしている。光を反射して、冷たく輝いている。
私は横からそっと覗いた。『聖女』は微笑んだまま固まっていた。彫刻のように。生命の気配がまったくない。
背中に、ぞわりと冷たいものが走った。『五歳の子』が、ぎゅっと手を握り返した。『創作者』は、私の背中を軽く押しながら彼女がいつも持っているスケッチブックに『戻ろう』と書かれていた。
私はうなずき、三人でゆっくりと上へ戻っていった。
管理区域に戻ると『観測者』が、腕を組んで立っていた。『隠者』『法王』『司令塔』もいる。
「見てきたな」
「青かった。固まってた。彫刻みたいだった。でも、……変だ。違うよ、……違う」
『司令塔』が『五歳の子』と『創作者』に声をかけて私から三人は離れていった。
義父とのやり取りを別小説にしてみました。ケーキ・シャンメリー代にしてみせます。【嫁いだ先が昭和完成型家族だったのでケース会議で運用保守しますー義父の昭和価値観を“解呪”するため脳内外在化メンバーが動いた話】




