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幕間 いつかどこかの

 某年某月。避暑地としても知られる地方の、南の果て。

 町の外れの、緑生い茂る涼しげな空間に建つ、大きな屋敷。その前で、二人の男が言い争いをしている。一人は貴族然とした伊達男、もう一人は貫頭衣と一枚布――つまり魔術師風の恰好をした、どこか擦れた風貌をした男である。


「だからと言って、何も告げずに行くのはあんまりだろう」


「告げる必要はない」


「必要不必要の話ではない」


「ではどこに告げることを強いる法があるのだ? 自然も倫理も、それを良しとはしない。それとも、聖教徒であるお前が、古の神々を引き合いに出すのか?」


 時刻は明朝。鳥も鳴き出す前の、うっすらと靄が掛かったような頃だから、二人を除いて起きているものは、屋敷の使用人が少しといった程度。彼らには、次期当主たる男とその友人の、もう何度目かも分からない喧嘩に口を挟むことはおろか、聞き耳を立てることすら許されないから、言葉は激しさを増すばかり。


「貴様は屁理屈で彼女を悲しませるのか!」


「屁理屈ではない。それに、魔術師としての私が、一か所に留まることができないことを、彼女は承知している」


「だからといって!」


「くどい。お前とて分かるだろう。ヘレンを悲しませない方法、そんなものはどこにもないのだ。だからこそ、私はお前に……」


「だから私も、彼女のために言っているのだ!」


 せめて、と貴族の男は縋るように続けた。


「せめて、悲しみを流すだけの涙を、彼女に許してはくれまいか」


 魔術師の男が言葉に詰まる。

 沈黙を破ったのは、森のどこかから聞こえてきた、朝を告げる鳥の声だ。


「悪いが、私は行く」


「友よ!」


「それも今日までだ。二人とも、私など忘れて善く生きるがいい」


 男が歩き出す。友よと訴えた男は、成す術もなく立ち尽くすしかない。

それは、いつかどこかの、別れの朝だ。

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