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第十四話 首飾りの正体と共存

『おいおいおいおいやめろやめろやめろ!』


「いやだ!! 今すぐ粉砕する!!!!!!!」


『人でなし! 人殺し!!』


「人でなしも人殺しもお前じゃないか!!!!」


『そ、そうだった! 待て、待て待て。な、早まるな。確かに大罪と言ったが、すべては四百年前の出来事だ。それに、ほら、私はお前の命の恩人だぞ!?』


「ならばお前を殺して僕も死ぬ!!」


『お前のような貧弱な男と心中などしたくはないわ!!!!』


 翌朝である。告げられた名の恐ろしさに気絶してしまったのは昨日の話。目覚めたノエルは、すべてが夢でなかったことを悟ると、金貨一枚の執心も捨て去って、首飾りを破壊することをすっぱりと決めた。寮棟の裏手。鎖を持ち、ぶんぶんぶんと振り回して、あとはむき出しになった、固い石造りの壁に叩きつけるのみ。


『くそ、意志が強過ぎて乗っ取れん! 変な所で覚悟を決めるな!!』


「さらばサイモン・クロウリー!!!!!!!!!!」


『あああああ待て待て待て本当に待ってあそうだそうだ交渉交渉交渉しよう』


「交渉など!!!!!!!!」


『論文だ。あれを手伝ってやろう!!!!!!!!!!!!!』


 ぴた、とノエルの手が止まった。


「論文」


『ああ論文だ。聞けば貴様、論文が進まず泣くほど困っているそうじゃないか』


「まあ、泣くほどかはともかく……困ってますけど」


 ちなみにノエルがわざわざ声を出しているのは、そうしないとサイモンに届かないからである。このある種の精神感応、脳内発声は、どうにも一方通行らしいのだ。


『私は確かに大罪人かもしれない。だが、そう呼ばれる以前は名の知れた魔術師だったのだ。論文程度、造作もないぞ』


「いや、大罪人としてしか歴史に名前残ってませんけど」


『何!?』


「見ます? 大罪魔術師図鑑とか詳しく載ってましたけど、悪いことする以前の記述は全くありませんでしたよ。人によってはちゃんとあるのに」


『書いた奴が歴史に明るくなかったのだろうよ』


「大家ですよ、歴史学の」


 ちなみに『大罪魔術師図鑑』は、サイモン・クロウリーの犯した罪を以下のように挙げている。

 詐欺。

 窃盗。

 人体実験。

 司祭暗殺。

 教皇暗殺未遂。


『うわあ、全部身に覚えある』


「世界平和よ!!!!!!!」


『うわああ振り回すな大体世界平和より論文の方が大切だろう!! 期限は!』


 ぴたり。


「明後日です」


『物振り回して遊んでる場合か!!!!!!』


 その通りだった。


『ちなみに内容は』


「魔具に関する歴史的考察」


『なんだ。得意分野ではないか、私の』


「あー、そういえばこれ作ったんでしたっけー」


『投げやりに語尾を伸ばすな。そうだ。世にも珍しい人格の籠った魔具だぞ?』


 頷きかけて、ノエルは不審な点に気付いた。


「なんで知ってるんです?」


『ん?』


「そういった魔具が珍しいって。四百年経ってるんですよ?」


 サイモンはしばらく沈黙していたが、


『お前の記憶からサルベージした』


「絶対嘘だ。じゃあ僕の姉の名前を当ててください」


『……ヘレナ』


「残念でした。僕に姉はいません。あの二回の他に、僕の身体使いましたね?」


『……一度だけな? 一度だけだぞ?』


「やっぱりだ。それで人に喧嘩売りましたよね? 自分で火をつけて消化するなんて詐欺ですよ詐欺」


『だってペテン師サイモンぞ?』


「はい粉砕―!」


『分かった! ちょっと現代の知識が知りたくなっただけなんだ! 知的好奇心! これからは無断ではやらん! 命の危機以外は許可取るから!』


 一言前に詐欺師を自称した男の言葉を信じたものか、ノエルは悩む。けれど、最初の一度は確実に、自分の失態から招いた危機を助けてくれたわけで、勢いが冷めてしまうと、それを無視して叩き壊してしまうことは躊躇われた。


『お、悩んどる悩んどる』


「分かるんですか?」


『はっきりとは分からんが、喜怒哀楽のどれに属するかくらいなら分かる』


 サイモンはため息を吐いて、


『というか、実際マジな話な、私はお前の身体で悪さをする気はないし、お前に迷惑を掛ける気もないのだ。確かに読書中に声を掛けられてぞんざいな扱いをしてしまったことは謝る。が、いつかの連中にしろ、昨日のバカ共にしろ、ちゃんと手加減をして、殺すどころか後に残るような傷も残らんようにしたし、そこは信じてもらいたいものだな』


「うーん」


『煮え切らん奴だな。大体、壊したところでお前に利点はあるまい?』


 それはまあ、とノエルはお茶を濁す。


「壊したら危機が去るわけでもないですしね」


『だろうな。連中の目的は知らんが、あれはちょっとした執念だった』


「知らないんですか?」


『ああ。それどころか、お前に出会うまでの記憶はほとんどない。たぶん、影響は与えていたのだろうが、完全に乗っ取れたのはお前が初めてだ』


「嬉しくない初めてだ」


『気持ち悪いことを言うな』


「いや、だってそれって、僕の意思がそれだけ弱かったってことでしょう?」


 サイモンは真面目な声音で否定した。


『最初に乗っ取る寸前、お前は気絶していた。意識がないなら意思も糞もない。そして、人が眠る以上、そういった状況は以前にもあったはずだ。にもかかわらず、私の覚醒はお前が初めてだった。そう考えると、素養か、あるいは相性という条件を満たしたのがお前だけだったと推論できる』


「素養と相性」


『相性はともかく、素養に関しては腐っても学院生だしな』


「落ちこぼれですけどね」


 サイモンは呆れたような口調で、


『そういうところが良くないと私は思うがな。魔術とは規定するもの、魔術師とは規定する存在だ。自らの在り方とは、まさにそういったものだろう』


「……知り合いにも似たようなことを言われました」


『中々に魔術に対する理解ある御仁だな。ともかく、そういう理由で私にはお前が必要だ。だからお前の不利益になるようなことは慎む。その上で、私の見立てではお前には私の力が必要だ。そうであろう?」


 もはや寝起きほど彼を消滅させようという気概はなく、おそらくは乗っ取ろうと思えば乗っ取れる程度の意思しかないはずだった。にもかかわらず、サイモンがあくまで交渉と契約によって折り合いを付けようとするのは、そうできる見込みや確信があるからに違いなかった。悔しいかな、その通りだった。


「……しばらくのあいだお世話になります。ノエルです」

『サイモンだ。大船に乗った気でいたまえ』

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