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第十一話 衝突

 学院の敷地は人の割に広いから、どうしても死角が生まれる。

 死角、つまり滅多に人の立ち入らない空間だ。


 郊外に向けて広がる森への入り口、研究棟の裏はまさにそういった場所の一つで、ノエルはここに連れられてきた時点で、ろくな用事でないことを確信していた。やがて、知らない男が木剣二本を後生大事に抱えて到着し、一本をこちらに投げて渡した。


「稽古だよ稽古。ほら、俺もお前も、帝国剣術って苦手だろ?」


 ノエルをここまで連れて来た張本人、アーなんとかは、木剣の感触を確かめるように素振りをしながら、そう目的を説明した。アーなんとか。同じ後期課程の生徒で、どこか陰険な切れ長の瞳が特徴的な男だった。名前を憶えていないのは、まともに会話をしたことがないからだ。嫌味を言われることは多々あるのだけれど。


「構えろよ」


「でも、僕とやっても稽古にならないと思うんだけど」


 魔術以上に苦手なのだ。もはや藁人形に打ち込んだ方が稽古としてはマシなはずである。精一杯の抵抗は、もちろん、アーには届かない。


「いいんだよ。俺も苦手だから」


 アーが構える。言葉の割に、その構えは中々のもの。


――どうして急に、こんなことになるんだ?


 確かに今までも、小突かれたりすることはあった。しかし、こんな風に、目に見える形で暴力を振るわれるのは初めてだった。彼もまた貴族の子息であり、ゆえに体面というものを酷く気にする性質、だったはずなのだけれど。


 ただでさえ首飾りの件で手一杯なのに。


 とはいえ、こうなってしまった以上、二、三の打撲は避けられないだろう。これも落ちこぼれに対する罰、運命の課した試練、そう思うしかない。先日、比喩ではなく殺されかけたノエルは、仕方なしと割り切って木剣を構える。


 すると、アーは苛立った様子を見せた。「それだよ」


「え?」


「その何でもないって態度、何様のつもりなんだ?」


 突然豹変したアーに、ノエルは戸惑いながらも、


「だって、構えろって君が言うから」


「構えろって言ったら構えるのか? じゃあ死ねといえば死ぬのか?」


 そんな子供みたいな理屈――思うけれど声に出せない。


「昨日もそうだった。てめえのような落ちこぼれに見下される理由が俺にあるのか? おい、ノエル。答えてみろよ」


「昨日?」


 昨日といえば、ラッセルと昼食を取った以外は、図書館にこもって調べ物をしていたはずである。アーとは会っていないし、もちろん言葉を交わした記憶もない。


「ちょ、ちょっと待ってよ」


 さすがに身に覚えのない罪に払うには、二、三の痣といえども高過ぎる。


「昨日は僕、ずっと図書館にいたんだけど!」


「ふざけやがって。だから図書館での話だろうが」


「いや、でも君には会ってないし……」


 そこでアーの堪忍袋の緒が切れた。彼は一息で距離を詰めると、振り上げた木剣をノエルに向かって下ろした。

 弁解に夢中になっていたこともあって、ノエルは全く反応できなかった。


「ばかやり過ぎ!」


 目睫に木剣が迫る。


『阿呆めが』


どこかで声が聞こえた。

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