13.再戦2(マヤ視点)
戦闘開始から何度かの攻防の後。
マヤはこの戦いの分の悪さを感じていた。
マヤの攻撃はオルディナに通らず、エリサとバルクの援護で、マヤの方が押され気味だ。
生まれそうになる諦めの気持ちを無理矢理に沈め、マヤは冷静に、と頭の中で繰り返して攻撃を繰り出す。
マヤは、自身の攻撃をオルディナが払うと思っていた。
その隙に次の手を撃とうとしていたが、実際にはオルディナはマヤの攻撃を受け止めると、一気にマヤに距離を詰めてくる。
「我を相手に温存しようなどと、ぬるいな。この程度で我をわずらわせるな」
至近距離での言葉と共に、オルディナはその神力をマヤにぶつけてくる。
マヤは咄嗟に自身の魔力をぶつけ攻撃を相殺しようとするが、マヤの魔力は、オルディナの力にたやすく飲み込まれていく。
――しまった!
急ぎリリの魔鉱石の力を引き出すと、襲い来るオルディナの攻撃を切り裂くように《氷刃》を放つ。
《氷刃》はオルディナの神力を引き裂き、オルディナに迫ったが、エリサが飛び出してきてマヤの攻撃をその剣で薙ぎ払う。
薙ぎ払われた《氷刃》は、ダンジョンの壁に突き刺さり、その周囲を凍らせていく。
「その力、ローギウスのものか。そうか。お前も――。だが、加護は受けていないようだが?」
「答える義理はないよ」
そうマヤは答えたが、オルディナはじっとマヤを見つめてくる。
見透かすような視線に、マヤは内心悪態をついた。
オルディナが本格的にマヤの攻撃を見切りだしている上に、奥の手を引き出された。
けれど、マヤの方には打開策がない。
その上、どう考えてもオルディナを倒すどころか、エリサとバルクを助ける手立てすら思い浮かばなかった。
――これが、限界ってやつかねぇ。
エリサとバルクと共にダンジョンに挑んでいたときには限界なんて感じることはなかったと思う。
――このまま、ここでこいつに利用されるくらいなら。
最終手段は、あった。
むしろ、最終手段しか打てる手立てがない気がする。
オルディナが考え事を為ている間も、エリサとバルクは攻撃を継続している。
マヤがその攻撃を避けながら手の中の魔鉱石を握りしめたときだった。
「マヤさん!」
声が聞こえたと思うと、ゲオルクとニコラスが地上側から降りてきていた。
そのまま走り寄ってくると、攻めあぐねているマヤの援護に入る。
「マヤさんが苦戦してるなんて珍しいな」
バルクの斧を双剣でさばきながらニコラスが憎まれ口をたたく。
「ダンジョンに潜ったっきり戻ってこないって聞いて心配した」
エリサの魔法剣をかわし、槍で牽制しながらゲオルクがいう。
「二人とも……、法国に行ってたんじゃないのかい」
思わぬ助っ人に、マヤはそんな言葉しか出てこなかった。
「モーゼスさんに呼び戻されてな」
「マヤさんが居ない間に地上も大変だったんだよ」
「それは後で話を聞かせてもわないとだねぇ」
マヤは、二人のおかげで生まれた余裕で戦略を組み立て直しながら、ゲオルクとニコラスに援護を飛ばした。
攻めるばかりだったエリサとバルクが、一旦マヤたちから距離を取る。
ゲオルクとニコラスが、一息ついたとばかりにマヤに問う。
「「で、勝算は?」」
二人が、マヤの勝ちを心から信じている様子に、思わずマヤは声を出して笑っていた。
「あんたたちが来てくれたから、なんとかなりそうだよ」
「はぁ!?」
「そんなに危なかったのか」
ニコラスが驚きの声を上げ、ゲオルクは何かかみしめるように言っている。
二人の声には答えず、マヤは続ける。
「それじゃ、二人にはエリサとバルクを止めておいてもらいたい」
「わかった」とゲオルク。
「おう」とニコラス。
それぞれ答える二人の姿を頼もしく思いながら、マヤはオルディナを詠唱を始めた。
「我が魔力を糧に、ここに雪原の女神の降臨を希う。
卑小なる身に、その力の偉大さを示したまえ。
求めるは、大いなる慈悲のひとかけら」
発動に必要な魔力を練りながら、マヤは己の魔力にリリの魔鉱石一つ分の魔力を混ぜる。
「偉大なる御手の導きに従い、一面を白銀世界に塗り替えたまえ! 《雪原降臨》」
大規模な魔術の発動のために、魔力がごっそりと持っていかれ、眩暈にもにた感覚がマヤを襲うが、マヤは踏みとどまり、魔術を顕現させる。
広域魔法でダンジョンのなかが雪と氷で覆われる。
突然のことに、ゲオルクとニコラスが驚いた声をあげた。
「うぉっ」
「いきなりかよ!?」
一方、オルディナに慌てた様子はない。
「人間にしてはなかなかやるが、それだけだ」
言いながら、オルディナはマヤに対して、神力をぶつけてくる。
マヤはオルディナの攻撃を避けながら、言い返す。
「これは、下準備さ」
「ほう――」
「《吹雪》」
雪原を召喚したことで、マヤの発動させた吹雪の威力が上がる。
正面から吹き付ける氷雪に、オルディナは不快そうに顔を歪めた。
マヤはオルディナに大ダメージは入れられないと知りつつ、満足だった。
オルディナは気がついていないが、彼の足はマヤの発動させた吹雪で地面に凍り付こうとしていた。
マヤにオルディナを傷つけることはできないが、ローギウス神の力の宿った雪を使えば、できることは増える。
「確かに不快だが、これがやりたかったのか?」
自身に起きていることに気がついたオルディナに対し、マヤは畳みかけるように次の魔術の発動呪文を唱えていた。
「あまねく世界、作りしものよ。
あまねく理、定めしものよ
与えられし力の全てで、我ここに、定められし理をゆがめし彼のものを滅ぼさんと欲す」
オルディナは、マヤが何を発動させようとしているかわかったのか、顔色を変えた。
マヤを止めに行こうとするが、足元は先ほどの吹雪で地面に凍り付いている。
悪態と共に、オルディナが足元の氷を破壊する。
マヤには、その一瞬で十分だった。
「《魔素崩壊》」
オルディナの周囲に六つの黒い柱が突き刺さる。
黒い柱は不気味な共鳴音を鳴らすと、マヤが召喚した雪原を一瞬で溶かした。
雪が溶けるのと同時に、空気中に魔力が解放され、大量の魔力は黒い柱が一気に取り込み、柱を繋ぐように渦を巻く。
「人間にしてはなかなかやるが、我を消滅させられるなどと思わないことだな」
「さて、それはどうかねぇ」
「なっ」
柱を経由した魔力の回転はどんどん早くなっていく。
魔力の回転がある一定の速さに達した時、渦の中にいるオルディナに不思議なことが起こった。
オルディナの手の先が端から微粒子に変わり、さらさらと崩れていくのだ。
微粒子は、渦に取り込まれていく。
オルディナはその光景を見て、驚愕した。
マヤは発動させた魔術がオルディナに効いたことに、内心安堵していた。
魔素崩壊。
それは物質に宿る魔力を暴走させ、その力で対象を破壊する魔術だ。
最悪オルディナには効かないことも覚悟していたが、どうやら発動時にローギウス神の力を混ぜたために、効果があったようだ。
「なんだ、これは――」
「さすがに、これは効いたようだね」
右腕の先を失くしたオルディナに、マヤは答えになっていない答えを返す。
これが効かなければ、マヤの方でも他に手の打ちようがなかった。
オルディナの身が削れ支配が緩んだのか、遠くで戦っていたエリサとバルクの体が糸が切れたように倒れたのが見えた。
「何故、我が人間などに――!」
怒るオルディナは、マヤの魔術に対抗するべく、己の体を、純粋な神力で包む。
マヤの出した魔術は、ローギウス神の力を混ぜているとはいえ、大半はマヤの魔力で発動している。
オルディナの神気すら飲み込み、なんとか神力を削っていくが、その速度はだんだん弱まっていった。
そして、オルディナの片腕と大半の神力を削っただけで最後には消えてしまった。
「ローギウスの力が尽きたか」
じゃり、と片腕を失くしたオルディナが一歩踏み出す。
リリの魔鉱石はもう残っていない。
これ以上、抵抗する術は残っていなかった。
マヤが、覚悟を決めた時、一際大きく地面が揺れた。
それまでとの揺れとは比較にならない長く大きな揺れだった。
何が起きたのかとマヤが周りを見渡すと、マヤの方に駆けつけようとするゲオルクとニコラスの姿が見えた。
二人が何かした様子はない。
一方で、オルディナの方には心当たりがあるようだった。
「時が、来たか――」
そう言い残すと、オルディナはマヤ達と、力を失い倒れたエリサとバルクを残して姿を消した。




