11.再会
お腹に穴を開けながらも平然としている男性の不気味さに、思わず駆け寄ろうとした足が止まる。
そんなわたしを男の人は無感動な目で眺めると、得心したようにつぶやいた。
「そうか。ローギウスの加護持ちか」
そして、続ける。
「奴め、裏切ったか……? いや、判断は早計か――。
しかし、これは邪魔だな。許す、排除せよ」
独り言かと思った。
けれど、そうではない。
よく見ると、壮年の男性の後ろには、どこかで見たような人影が二つある。
男性の言葉に、人影が飛び出してきた。
大きな斧を持った男の人の攻撃を避けたところで、もう一人が剣でしかけてくる攻撃を地面を転がって避ける。
わたしは、そのまま一回転して距離を取り立ち上がった。
振り向くと、どこかで見た覚えのある長い金髪が光をはじいた。
金色の髪が、記憶の中の姿と重なる。
え、うそ。
そんな馬鹿なと思うけれど、口から出てくる言葉は止められなかった。
「おかあ、さん……? ……おとう、さん?」
思わずこぼれたつぶやきに、二人の反応はない。
でも、わたしには確信できる。
間違いなく二人はわたしの両親だ。
どうして、こんなことになってるのかわからないけど、そっか。
お母さんは、お父さんを見つけたんだね。
「二人に、何をしたの?」
壮年の男に問うと、男は興味深いとでも言うように、一つ頷き、わたしに飛びかかろうとしていた二人を止めた。
「ほう、これらの子か。
興味深い個体だったので、我が手駒としたまで」
男は、わたしのことを見通すように見つめてくる。
「これらは特筆すべき個体だったが、子の方はそれほどまでもないな。
父母が我の役に立つこと光栄に思うがよい」
そして、再び二人に攻撃開始とでもいうように手を振る。
再び飛びかかってきた二人から、わたしは逃げるしかできない。
「なんで、こんなひどいことするの!」
「さて。我に人の感情などわからん。わかる必要があるとも思わん」
「っ……!」
あふれる思いが言葉にならない。
両親の顔色は青白く、おそらくは地上で闘った不死者と同じような存在にされているのだと思う。
二人を、こんな風に操るなんて。
人のことをなんだと思っているのだろう。
許せなかった。
「このっ!」
壮年の男に《火炎撃》を打ち込むも、男に届く前にかき消える。
その上《火炎撃》を放った後の隙を両親は見逃さず、攻撃してくる。
避けることはできたけれど、おかげで男と必要以上に距離を取ることになってしまった。
強い。
そして、これまでの誰よりも戦いにくい。
あの男が亡くなっている両親をセナのように操っているなら、きっと何か操るための道具をもっているはずだ。
それを壊せば希望はあるはず。
このまま長期戦に持ち込んで――。
「無駄に時間をかけるな」
男の声に二人の攻撃の苛烈さが増した。
攻撃する隙を、と思うものの、避け、耐えるだけで隙なんてみつからない。
どうしよう、と考える時間もなく、斧を振り上げるお父さんの向こうに、剣に雷光をまとわせるお母さんの姿が見えた。
防ぐために、どうすればよいのかもわからない。
このまま、終わるのかな――。
誰も、助けることができずに終わるのだろうか。
覚悟を決めたときだった。
わたしと両親の間に風の障壁が現れた。
もちろん、わたしが出したものではない。
両親はそのまま攻撃してくるけれど、お父さんの攻撃は障壁にはじかれ、お母さんの攻撃は障壁がまとっている風に雷を散らされる。
「リリ。いつもの調子はどこに忘れてきたんだい」
聞き慣れた声に振りかえると、紅蓮の髪の毛が目に入る。
いつもの輝きはなく、一戦どころか何戦もした後のようにくたびれているが、そこにいたのは紛れもなく師匠だった。
「師匠……!」
安堵のあまりこんな時だというのに膝から力が抜けたわたしに、師匠は近寄ると手を貸してくれる。
傷だらけの師匠の手をそっと握ると、師匠は強く握り返してくれた。
あたたかい、手。
わたしはその手を支えに立ち上がった。
「あ、ありがとうございます。師匠、無事、だったんですね…!」
「リリのおかげだよ」
「へ!?」
「正確には、リリが魔力を込めた魔鉱石のおかげだけど、ね。
それは置いておいて、いいかい、リリ、よくお聞き」
「は、はい!」
「ここは私がなんとかする。だから、リリには先に奥に進んでほしい。
このダンジョンの底の底で、ルークと黒龍が戦っているから、どうにかしてその戦いを止めるんだ。
地面の揺れは、戦いの余波だ。
このダンジョンは特別でね。奥に、全ての始まりの神が眠っている。
始まりの神が目覚めたら、どうやら世界が滅びるらしい」
「え……師匠は、どうしてそれを知っているんですか?」
「詳しく話すのは、それはこれを生き残ってからがいいだろね。
それに、この障壁はもうすぐ消える。
向こうもそんなに待ってくれないらしいみたいだ」
「え!?」
みると、障壁の外で、両親を下がらせた壮年の男性が前に進み出ていた。
「さぁ、あいつに破壊される前に、障壁を解くよ。
障壁が消えたら、行くんだ、いいね!」
「……はい!」
「幸運を祈ってる」
「師匠も!」
師匠はただ障壁を消すだけではなく、障壁にしていた風をまとめあげるようにして男にぶつける。
わたしはその風に背中を押されるようにして、障壁が消えると共に走り出した。




