10.衝突
わたしは真っ暗なダンジョンの中を《灯光》の明りを頼りに降りていた。
セナは不死者を操っていた首飾りが壊れたことで戦う意思が折れたみたいで、呆然と座り込んでいた。
ショックを受けているセナのことも心配だったけれど、先を急ぎたい気持ちも大きくて、一瞬悩んだけれどわたしは先を進むことを選んだ。
暗い虚空に明りが飲み込まれ、いつも通り《灯光》を発動したのに、なんだかちょっといつもより暗い気がする。
光に照らされたダンジョンの中は、嵐でも通り過ぎたみたいにボロボロだった。
壁が破れ、巨大な何者かが進んだ跡が残っている。
その壊れ具合は、火山のダンジョンで見た黒龍が出て行った跡に似ていた。
黒龍が常闇のダンジョンに吸い込まれたという噂が思い出される。
もしかしたら、噂は本当かもしれない。
なら、もしかして、ルークも――。
わたしは、期待しそうになる気持ちを抑えて、思い直す。
ルークがもしここにいるのなら探したいけれど、まずは確実にここにいることがわかっている師匠を探す方が先だ。
わたしは、《灯光》を頼りに暗闇に足を進めた。
* * *
オルディナは、気配を殺して目の前で繰り広げられる戦いを見下ろしていた。
ローギウス神の子の黒龍が戦っているのは、オルディナの眷属を二度にわたりほふりしものだ。
器は人間のものだが、人の身にてオルディナの力を分けた眷属を傷つけた咎により、呪いが全身を覆っている。
今は呪いの成就により、オルディナの眷属がその体に入り支配していた。
肉の体はいつか朽ちる。
全てが落ち着けばその働きにふさわしい体を用意すればよいだろう。
そうして見守っていたときだった。
かすかな違和感にオルディナは眉を寄せた。
自ら志願し巫女となった子供に与えた神具が壊れたのだろう。
――見所があると思ったが、案外役に立たない。
神具を壊すなど、ただの人にできるわけがない。
ここまで来て、邪魔が入るのは許されることではない。
様子を見るため、関わっている神は誰だろうと黙考しながら地上へ向かった。
* * *
わたしは、前方から近づいてくる何者かの気配に、足を止めた。
休憩を挟みながらだが、だいぶん常闇のダンジョンの中を下っている。
これまでここのダンジョンの魔獣と一戦も戦闘をしていない。
ダンジョンを崩しながら進んだ何者かに巻き込まれなかった魔獣が、わたしの方に向かっているのなら、きっとそれはとても強い個体だろう。
わたしは《灯光》の光が届かない彼方を見据えて、戦闘態勢を整えた。
狙いは出会い頭。
息を整え、事前詠唱を終えておく。
相手に私の存在を伝えてしまう《灯光》も消した。
後は気配を頼りに攻撃するだけ。
狩の時のように呼吸も抑え、その時を待った。
ーー来た。
出口に向かい、駆けてくるものに向かって発動呪文を唱える。
「《氷柱撃》」
氷の柱が床と並行に放たれ、出口に向かっていたものを貫くどすんという鈍い音がする。
続けて、《火炎撃》を無詠唱で発動――。
「なんだ……?」
「え、人!?」
もしかして、人を攻撃してしまった!?
慌てて発動寸前だった《火炎撃》を打ち消し、あかりをともす。
「《灯光》!」
そこには、腹部に穴を開けながら平然と立つ、壮年の男性がいた。




