9.見守るモノ達
地の底で、黒龍の尾が跳ねた。
巨大な黒龍の跳ねた尾が壁に当たり、地面が大きく揺れる。
苦悶を示してのたうちまわる黒龍の外傷はない。
しかし、時々黒龍の腹がぼこんと中から衝撃を伝えているため、何者かがその腹の中にいるのだろう。
その静かな戦いを、気配と神気を隠して一柱の神と眷属が見ていた。
ヴヴスナは、美しい人の姿を取る父にその体を巻き付け、体を安定させていた。
「ほら、見て。ヴヴスナには何が起きているかわかるかな?」
「ヴヴスナ、ワカラナイ。デモ、シッテル」
「何をだい?」
「タオレたホウが、ヴヴスナとテテサマのショクジ」
「よくわかっているじゃないか。ヴヴスナは賢いね。
ヴヴスナはどちらが食べたい?」
「ワカラナイ。デモ、ドチラモオイシイ」
「そうだね。どちらも滅多に食べられない大物だ」
ご機嫌な声が抑えたような笑い声をあげる。
「人の身でオルディナの眷属に成り変わった人間か、ローギウスの子か。一体、どんな味がするのだろうね」
戦いに身を投じる黒龍達にとっては、ヴヴスナ達の存在はちっぽけなものだ。
戦えば一瞬で負けるほどには、実力に差がある。
それでもこうして勝負を見守るのは、勝負がつき、どちらかの息の根が止まる瞬間を逃さないためだ。
「早く決着がつくと良い」
今までも、ずっと、こうしてきた。
周りのもの達からは死体あさりとあざ笑われてきたが、ヴヴスナ達はそうして力を得てきたのだ。
だから、早く決着がつかないかと、その戦いを見守るのだった。
* * *
長い白髪を肩口で一つに束ねた、赤い瞳の青年が、その戦いを静かに見つめていた。
人からはローギウス神と呼ばれ祀られる神だった。
彼の子の一人が、彼の子を封じたオルディナ神の眷属と戦っている。
彼のもう一人の子である大狼は、未だ封じられたままであり、オルディナ神の監視もついたままだ。
「――世界なんてどうでもいいんだけどね」
流転し、姿を変えていく世界こそが、本来あるべきものだろう。
どのように世界が姿を変えようと、それを愛でることができるのが、彼の本質であり権能だった。
オルディナに記憶を奪われていたことすらも、まぁよいかと流すおおらかさが彼にはあった。
だが、変化を愛するが故に、放任のきらいもある。
復讐に荒れ狂う我が子が、これからするであろうことが破滅へと続く道であろうと、止めようとは考えていなかった。
あるがままの流れがどんな変化をもたらすのか、それこそが彼の見たいモノだから、極力助力を控えていた。
地上からこちらへと向かってくる光に意識を向ける。
気まぐれで加護を与えただけなのに、彼女が、ああも己の加護と相性が良いと思わなかった。
神である彼ですら予想がつかないことを色々しでかし、今もまたオルディナのシナリオを狂わせ始めている。
一体、これから何が起きるのだろうか。
彼女の起こすことを考えると、これから起こるであろう未曾有の変化に心が浮き立つのを感じていた。




