8.セナ戦
《風刃》を不死者に向かって連発する。
不死者は、倒しても、いつの間にか起き上がって次から次へと近寄ってくる。
それを繰り返しながらわたしは叫んだ。
「セナ、やめて!」
「後悔しないでと言いました。嫌なら、諦めてください」
セナが言う。
どっちも、選べるようなものじゃない。
わたしは、考える時間を作ろうと思いついたことを叫ぶ。
「なんで、オルディナ様はセナにこんなことさせるの?」
「私にはオルディナ様の考えはわかりません。でも、理由を知らされなくとも、オルディナ様の言葉になら、わたしは従います」
「セナはそれでいいの!?」
「……それが、わたしに与えられた役目ですから」
一瞬、セナに動揺が見えた。
同時に、不死者たちの動きも一瞬止まった。
やはりセナの意思で不死者を操っているみたいだ。
媒介は、おそらく水晶の首飾り。
あれを、どうにかすれば――。
もう少し考える時間がほしくて、他にセナを動揺させるようなことを探す。
「ルークが、行方不明なの」
「……そうですか」
「ルークを探すのに、師匠の助けがいるの! だから――」
「残念ですね」
けれど、それはセナの表情を固くするだけで、動揺を引き出すことはできなかった。
「リリ、わたし、言いました。諦めるつもりがないなら、後悔しないでくださいと」
セナの言葉に、わたしの方が動揺し、《風刃》の方向がぶれてしまう。
不死者への攻撃がはずれ、慌てて距離を取る。
「その程度の覚悟で来たのですね」
セナの言葉に、わたしは言い返す。
「その程度なんて、言わないで!」
「だってそうでしょう?
私すら倒せなくて、願いを叶えることなんてできないです。
今ここで諦めた方がいいと思います」
その言葉に、わたしの中の何かが熱くなる。
確かに、ここでつまずいているようなら、これから師匠に会ってルークを助けるなんてことできるわけない。けどーー。
わたしは、覚悟を改めて、ひとつの呪文を口にする。
「彼方より来たりて、彼方へと去りしものよ。
我ここにこいねがう
しばしの間、そなたからの解放をもたらさん」
「その呪文は……?」
これは、セナの前では使ったことがなかったはずだ。
「《加速》」
これで、だめなら本当に諦めることになる。
わたしはセナに向けて、でも、当てないように《風刃》を連発した。
「その程度っ――」
セナがさらに力を水晶に込めたのか、水晶は強く輝き、不死者が勢いを増して近づいてくる。
それを無視して、わたしはセナに迫る。
――つかまえた!
そして、セナの首元から水晶の首飾りを奪い取ると、距離を空けた。
「リリ!?」
セナは驚いたようにわたしの顔を見ている。
水晶が持ち主の手から離れたためか、激しく明滅して、後ろから不死者はせまってくるのがわかる。
だから、そのまま呪文を紡いだ。
「《風刃》!」
けれど、首飾りは澄んだ音をさせ《風刃》を弾く。
弾かれた《風刃》は、霧散した。
「えぇ!?」
「神器を人が壊すなんてできるわけないでしょう」
迫り来る不死者の群れから距離を置きながらセナが言う。
「大変なことになる前に早くそれを返して!」
「イヤ!」
悪あがきかもしれないけれど、人の手で壊せないというのなら、ローギウス神の加護に頼るだけだ。
手元の魔道具を外し、直接神器に魔力を込める。
首飾りはさらに明滅を早める。
一瞬、出来ないかもという思いがよぎったけれど、ここでやらなきゃ、そもそもルークを助けるなんてこともできるわけがない。
わたしは、全力で力を込めた。
首飾りの水晶が、紫を帯びていた光に、透き通る緑が混じる。
その変化に、これが無駄ではないのだと、さらに力を込めた。
みしり、と水晶が嫌な音をたてた。
よし、いける!
後ろから不死者たちが迫っているのも忘れてわたしは力を注ぎ続け、そしてついにその時が訪れた。
「そんな!?」
セナの悲鳴のような声が聞こえる。
水晶が、一つ割れる。
そして、それに続くようにすべての水晶玉は割れていった。
すべて割れてしまう頃には、あたりを照らしていた光が消え、すぐ背後まで迫っていたはずの不死者も姿を消していた。




