7.常闇のダンジョンの入り口前で
いつ抜け出そうかと、わからないながらも様子を伺っていると、夜になってしまった。
不死者の襲撃が始まったのか、ざわついていたギルドの周りが静かになり、城門の方がぼんやりと明るくなり、喧騒が聞こえてきた。
窓に顔をひっつけて目をこらすと、伝令っぽい人がギルドに駆けこんだり、ギルドから走って出て行ったりしているのが見える。
「出るなら、今、だよね」
扉は鍵がかけられているから、嵌め殺しになっている窓をできるだけ音を立てないよう割った。
二階だけど、このくらいの高さなら大丈夫。
魔法を使って着地の衝撃を和らげ、わたしは閉じ込められていた部屋を抜け出した。
城門はこの時間開いていないし、外には不死者たちとの戦いのために人がたくさんいる。
だから城門と離れたあまり人目のない場所で乗り越えられそうな場所を探して走った。
そして、丁度いい場所を見つけると、今度は風魔法を使って壁を越えた。
いけないことをしている、という気持ちはある。
それでも、わたしは、待っているだけは、イヤ――。
王都の北にある常闇のダンジョンを目指して、壁から離れすぎないようにして走り続ける。
暗くて走りにくいけれど、壁の側で《灯光》なんて使うわけにはいかない。
そのまま壁沿いに走って、森の奥に入り、ダンジョンの入り口に近づいたところで、思い切って《灯光》を小さく灯し、先に進んだ。
広場みたいになった空間に巨石が円を描くように九つ並んでいた。
ここが、話に聞いたことがある、常闇のダンジョンの入り口なのだろう。
もともとは、石の階段があったのだと思うけれど、何か大きなものが通り過ぎたかのように、入り口は無理矢理こじあけられ、石の残骸が土砂に混じって転がっている。
そして、驚くことに、暗い穴の前に、一人の少女が立っていた。
見覚えのある人影に、ありえないと思いながらわたしは声を掛けた。
「セナ……?」
セナはまっすぐな淡い金髪を背の後ろで一つに結び、以前あったときと同じような神官服を着ていた。
違うところは、鈍く紫に光る水晶の玉が連なった首飾りを身に着けていることだろうか。
水晶から、禍々しい気配を感じる。
「なんで、リリがここにいるのです……?」
「セナこそ、ペトラのダンジョンの方にいったんじゃ……?」
「そう。そして、オルディナ様に出会うことができたのです。
だから、リリには感謝しています。
なのに、どうして、リリはここに来たのですか?」
「師匠がこの中に入って帰ってこないの」
「……だから、探しに来たのですね」
「うん」
だから、通して、といおうとしたところで、セナは悲しそうな顔をした。
「なら、もう手遅れでしょう」
「え! なんでそんなことを言うの!?」
「オルディナ様も中にいらっしゃいます。
だから、もう、その方のことは諦めた方がいいと思います。
それに私は、オルディナ様にここを誰も通さないようにと、入り口を任されたのです。
「セナ?」
「リリ、だから、たとえ、あなたであっても、ここを通すことはできません」
セナは、緊張した顔でわたしを見ている。
確か、セナは回復魔法しか使えなかったはずだ。
なら、きっと、わたしを止める方法を何かオルディナ神からもらっているのかもしれない。
けど、わたしの出す答えはひとつだ。
「わたしも、あきらめたくないの」
言うと、セナが泣きそうに顔をゆがめた。
「わかりました。なら、後悔はしないでくださいね」
そういうと、セナが首にかけている水晶の首飾りの光が強くなる。
首飾りの光に呼応するように、白いもやが空中に集まって、いくつもの形を作る。
白いもやは、昨晩、山ほど相手にした不死者たちに変化していった。
「不死者……セナが、操っているの?」
「ええ。オルディナ様が、私に力をくださいました」
セナが言い終わるや、最初に形を取った不死者が襲いかかってくる。
わたしは、それを《風刃》で薙ぎ払った。




