5.ギルドへ
リリ視点に戻ります。
ようやく朝になった。
酷い疲労状態だったけれど、なんとか重傷者を出さずに不死者たちとの戦いを終えた。
不死者たちは朝日が昇る少し前に撤退し、わたしたちは王都の中へと帰還した。
その場で解散が告げられ、怪我した人はギルドで治療、怪我がない人は今夜のために休息をとるようだ。
モーゼスさんはそちらの対応もあるので、少し休憩をして一刻程してからギルドへ来るように言われた。
一刻程度なら、師匠の家に戻るほどでもない。
ミアのところに顔を出すのも考えたけど、お店はまだ開いていないはずなので、先に朝ごはんを王都の中で済ませることにした。
そうして、朝から開いてる屋台を適当に見て回っていると、フル装備で今からダンジョンに行くって気合いの入った格好をしたヤっさんに声をかけられた。
「リリ! 帰ってたのか」
「ヤっさん! わたしは昨日の夕方帰ったとこ。こんな大変なことになってるなんて、びっくりしたよ」
「そうか。帰ってきてすぐあんなんに行きあったんじゃ、そりゃ災難だったなぁ」
ヤっさんはしみじみ頷いている。
「何が起きてるのか、知ってる?」
「いや。ギルドからは調査中ってことしか発表があってない。十日前くらいに、突然あいつらがやってくるようになったんだ。あ、でも、噂ではみんな好き放題言ってるな。誰かが禁忌の魔道具を開発しただの、天変地異の前触れだの、常闇のダンジョンが関係してるんじゃないかとか」
「常闇のダンジョン?」
「ちょうどあいつらが出始めるのと同じ時期に常闇のダンジョンに大きな黒い龍が突っ込んでったって言ってるやつがいるんだ。俺は見てないけどな。常闇のダンジョン関係はそれを見たやつらがいってるらしい」
「黒い龍……」
黒い龍という言葉に、どきりとする。
あの火山のダンジョンで地の底から出てきた黒い龍と関係があるのだろうか。
「なんでも、すげーでかかったらしくてさ。その調査にマヤさんがあたってるんじゃないかって噂もある。実際、王都がこんなんなってるのに、ずっと不在らしい」
「師匠が!」
「リリはマヤさんには?」
「会ってない……」
「そうか」
大変なことが起こっているんじゃないかという思いが強くなったが、詳しい話はギルドで聞くしかない。
そう思っていると、突然、地面が小さく揺れた。
「う、わっ」
「え、なに?」
「地震だ。最近、よくあるんだよな」
「そうなんだ!?」
地面が揺れるなんてびっくりしたけど、ヤっさんは焦った様子もないし、きっとそう変なことでもないんだろう。
ひとまず、わたしはもう一つ気になっていることを聞くことにした。
「ところで、すごく気合い入ってるけれど、ヤっさんも戦ったの?」
「いや、俺は補給担当」
「補給?」
「夜あんなんが来るからって、昼間の仕事が止まるわけじゃねぇ。
それに、誰もダンジョンに潜らなきゃ、食料やら武器防具の材料やらが足りなくなっちまう。
王都はほぼダンジョンから採って来たもので回ってるからな。
だから、冒険者には全員招集がかかってるが、商業ギルドと冒険者ギルドで協議して、夜の防衛線に出る奴と、補給担当のやつにわかれたんだ。で、これから潜るとこ」
「経験が生きるね」
「そういうこと」
そういうと、ヤっさんは少し不思議そうな顔をした。
「リリの相棒はどうしたよ。別行動か?」
「あー、まぁ、そんなこと」
「なんだ、喧嘩でもしたのか? まぁよくあることだ。あんま気にすんなよ」
本当のことを言いづらくて言葉を濁すと、ヤっさんもそれ以上に詳しく聞いては来なかった。
「そういえば、俺は見てないが、ちょっと前にどっかいってた星四つのゲオルクとニコラスも戻ってきてるらしいぞ」
「そうなんだ!」
「おう、西と東の門をそれぞれ担当してるって話だ。リリは知り合いだったよな。多分ギルドにいると思うぜ」
「教えてくれてありがとう!」
「それじゃ、引き留めて悪かったな」
「ヤっさんも、お仕事がんばってねー!」
「おうよ」
去って行くヤっさんを見送って、わたしは適当に朝食を食べてから、少し早いけどギルドに向かった。
* * *
「こんにちわー」
ドアベルを鳴らしながら中に入ると、怪我した人たちはみんな治療が終わったのか、ギルドの中にいる人はほとんどいない。
だから、すぐにその人達を見つけることができた。
ゲオルクさんとニコラスさんは、掲示板前のテーブルを囲んでそれぞれ椅子に座っていた。
ゲオルクさんは変わりないように見えるけど、ニコラスさんはちょっと疲れた様子だ。
「ゲオルクさん! ニコラスさん!」
「リリ、久しぶりだな!」
声を掛けると、ニコラスさんが笑顔になる。
「無事だったか」
ゲオルクさんはあまり表情の変化は読み取れなかったけれど、それでも少し雰囲気が柔らかくなった。
「お二人も、ご無事で何よりです」
そう言うと、ゲオルクさんは頷いているけど、ニコラスさんは「色々あったけどなんとかな」なんて言っている。
「ニコラスさん、それ新しい帽子ですか?」
ニコラスが頭に載せる帽子には大輪の青の花飾りがついている。
「お、気づいてくれた?」
「とってもお似合いですね!」
「おう、ありがとな。あっちで、あれからリリ達と別れた後に作ってもらったんだよ」
嬉しげに言うニコラスは、真面目な顔をした。
「ルークの母親――ジャンナさんにあったよ」
「!」
「手紙も読ませてもらった。聖サルバティア法国の首都で住むところと、仕事も見つかった。そこでルークとリリを待つそうだ」
「ありがとうございます」
「オレは頼まれたことをやっただけだ。それに、最後の方はこっちのギルドから帰還要請があってバタバタしてて、そんなにきっちりできたわけじゃないから、あんまり感謝されるようなことはしてないさ」
オレらはギルドノ要請があってほとんど入れ替わりでこっちに戻ったから、と付け加えると、ニコラスはルークの不在に気がついたようだ。
「ところで、ルークは?」
「色々あって、はぐれちゃいました。師匠に相談しようと思って戻ってきたんですけど、不在みたいで――」
何か知りませんか、と尋ねる前に、カウンターの中からモーゼスさんが姿を現した。
「おう、リリ、きたか」
「モーゼスさん!」
「こっちだ。何をやらかしてきたのか、話を聞かせてくれ」
そして、モーゼスさんに二階の応接室に連れて行かれ、一通りの経緯を話すこととなった。
タイトル少し変えました。




