4.常闇のダンジョン2(マヤ視点)
戦闘は、単調だった。
ルークが直線的な、次の手が読みやすい攻撃しかしてこないために、マヤは余裕を持って対処できる。
できるだけ体を気づ付けないよう、最初は麻痺の魔術を使ったが、効果はないようだった。
呪い状態を上書きできず、マヤの魔術は弾かれたようだったので、魔道具を使って物理でつかまえるべく方針を変えた。
ルークの攻撃を避けながら魔道具を取り出す。
そして正面から挑みかかるルークをかわし、ルークが大きく態勢を崩したところで、その背後から魔道具を放った。
魔道具は、単純な作りで、投げつけられた相手の体を縛り上げるというものだ。
自宅への侵入者対策で作った魔道具だが、使う機会がなかったものだった。
錬金術師として一流の腕を持つマヤの作った魔道具は、ルークをとらえ、しっかりと縛り上げる。
捕まえた人物が暴れないよう、気絶機能も付けていたが、そちらの方は無事効いたようで、ルークは縛られると同時に意識を失って倒れた。
「これで一段落かしらね」
後は、マヤが依頼を終えるまでルークを保護してもらわなければならない。
頼む人も決まっている。
こんなこと押しつけることができるのは、モーゼスくらいだろう。
それ以外だと、おそらくは対処も、保護も難しいだろうし、マヤに依頼を押し付けたのだからこれくらいは頼まれてもらわなくては困る。
「一筆書いて、貼り付けといたらいいかしら」
ルークの体は傷だらけだ。
戦闘中、あまり傷つけないよう気をつけたつもりだが、ルーク自身が己の傷を気にしていなかったのもあり、思った以上に傷だらけだ。沈みそうになる気持ちをこらえながら、見えるところの処置をして、モーゼスへの伝言を取り出した紙に書きつける。
その時だった。
マヤは、誰か、自分たち以外の気配を感じ、ゆっくりと立ち上がった。
「我が駒を一息に捕まえるか」
そこに居たのは、つばの広い帽子を身に着け、マントを羽織った旅装の、一見何の変哲もない壮年の男性だった。
町中にいれば、目立たない一人の男だと思っただろう。
だが、ここは、最難関ダンジョンである。
男の軽装は、マヤの目には異様に映った。
「手駒はもう十分と思ったが、予備として、コレクションに加えるか…?」
一人、何かぶつぶつ言っている男に、マヤは背筋を這いあがるものを感じながらも同様を抑え、呪文を高速で準備する。
「そう、そうだな。戦力はいくつあってもいい」
「何をわけをわからないことをごちゃごちゃと」
そして、男が動きを見せた瞬間に、マヤも用意していた魔術を放った。
「ふむ、判断力も素晴らしいな」
それを、男は手をかざすだけで無効化した。
「なんだって……!?」
針熊の群れを一撃で倒せるほどの威力がある魔法を、何の予備動作も見せずに、である。
そんなこと可能だろうか。
マヤは動揺しながらも、それを押し殺すと考えていた次の行動を、物理攻撃に切り替える。
だが、そうして剣を振りかぶったところで、男の後ろに、ありえないものを見た。
今日、こんな思いをするのは、二度目だった。
「そんな、まさか……」
動揺して、距離を取ったマヤに、男は動揺した様子もなく、淡々と話す。
「知り合いか、ならちょうどいいな。その前に、まず、それは返してもらう」
男が、指を鳴らすと、ルークを縛っていたはずのマヤの魔道具が壊れ、ルークが解放された。
ルークの体が男の方に跪こうとするのを、男は身振りで止めると、告げた。
「お前は、お前の為すべきことをしに行くがよい」
その一言に、ルークは、一礼するとダンジョンの奥に駆けて行った。
それを、マヤは何もできずに見守っていた。
体が金縛りになったように動かないのだ。
それ以上に、混乱していた。
男の背後には、信者が神に祈る時のように膝をついた二人分の人影があった。それは、マヤもよく知る人物だ。リリの両親であり、マヤのパーティメンバーでもある二人――。
「エリサ……、バルク……」
だが二人からは返事がない。
十年近い歳月の時の流れを感じさせない二人の様子に、マヤは元凶であろう、男に目を向ける。
「おまえは、何者、なんだ」
なんとか、言葉を絞り出したのに、男は不愉快気に鼻を鳴らした。
「不敬だな。名くらい聞いたことがあるだろう。オルディナだ」
「は……?」
告げられた神の名と、一瞬だが放出された神気に、マヤは呆然とする。
嘘だと思いたくとも、浴びせられた力は本物だと、本能でそう感じてしまったのだ。
呆然とするマヤを意に介した様子もなく続ける。
「さて、すぐに処置をしたいが、今は別のことで忙しいのだ。
終末は迫っている。
お前は世界が生まれ変わった後で、目覚めるがよい」
そして、マヤの意識は刈り取られた。
エリサ…リリ母
バルク…リリ父




