2.王都の異変
わたしは、師匠の家を出て、今度はギルドを目指した。
さくっと山を降り街道に出る。
街道の様子が昼間と全く違って、少し不気味だ。
街道を進む人はまったくいないのだ。
なんだか少し怖くて、自然と進む足が速くなる。
小走りでしばらく進むと、すぐに城門が見えて来た。
そこには、結構な人数が城門の外に集まっていた。
しかもその大半は武装した冒険者たちだった。
城門を背に凸の字の隊形を組んでいて、その先端には知っている人が居た。
「ギルマスだよね……?」
わたしが気がつくと同時に、向こうも気がついたようだ。
モーゼスさんの表情が驚きに変わり、続いて何かに気がついたように焦った表情をする。
「リリ、急げ!」
モーゼスさんの焦った様子に、わたしはすぐにモーゼスさんたちに向かって駆けだした。
三百メルほどを全力疾走すると、さすがに息が切れた。
「間に合って良かった。よく帰ってきたな、リリ」
息を整えているわたしの上で、モーゼスさんがほっとしたようにつぶやく。
ルークのことに触れないのは、おそらく、今はゆっくり話をする時間の余裕がないのかもしれない。
だからわたしも、まず知るべきことを聞くことにした。
「なにが、起きて、るんですか」
モーゼスさんは、彼を見上げるわたしに、厳しい顔で頷いた後、前方の、街道の奥を見た。
「ここは、十日程前から、日没後に不死者がやってくるようになった」
「え、不死者、ですか……?」
不死者って、あの不死者だよね。
でもあいつらは不死者のダンジョンにしかいないんじゃなかったっけ?
状況がよくわからず、疑問符を浮かべていると、モーゼスさんが続ける。
「あいつらを城門内にいれるわけにはいかない。
まだ旅装のようだが、ここに来たのは運が悪かったと思って、手伝ってくれるか?」
「はい」
師匠のこととか気になったけど、一番事情を知ってそうなモーゼスさんがここにいるんじゃ、門の中に入っても仕方がない。
「それじゃ陽が沈み切るまでに戦闘準備をしておけ」
「わかりました!」
言われて、あわてて戦闘準備をする。
といっても、わたしの準備は、背負っている鞄をなくさないようにマジックバッグにしまい、回復薬をいくつかすぐ使える場所に出しておくくらいだ。
そうしているうちに、どこか遠くで、土を踏みしめる音がした。
ざりざりという音がやけに響き、辺りを見回す。
けれど、音の発信源はわからない。
その時、《灯光》の呪文が唱えられ、前方に明かりが浮かんだ。
後ろにいる冒険者たちの誰かが灯したようだ。
西の空を見ると、まだ明るさは残っているけれど、太陽は完全に沈んでいた。
前方に目を戻すと、街道の奥に何かうごめくものが見えた。
「よし、今日も気合い入れていくか」
そうして、モーゼスさんは振り返ると、大声を張る。
「今日も朝陽が昇るまでの持久戦だ!」
おう、と後ろの冒険者たちから轟くような声があがる。
「毎日、繰り返し言っているが、念のために今日も言っておく!
あいつらは、倒してもまたやってくる!
俺たちの勝利は、明日の朝まであいつらを城壁の中に入れないことだ!
貴様ら! 力の配分をよく考えろ! 途中で魔力切れなんざ起こすなよ!」
モーゼスさんの言葉に、それぞれの返事が返る。
そして、持久戦が始まった。
戦闘開始してすぐ、わたしもすぐに不死者との戦闘がどういうものか飲み込めた。
不死者に知能はないようだった。
不死者たちはただ闇雲に王都の中を目指して前進してくるので、一定の範囲を超えて近づいてきたら、排除する。
それだけだった。
それだけなのだが、不死者たちは、死なない。
剣士が切ると消えるし、魔術師が魔法を打ち込んでも消える。
そうして排除しても、排除したはずの不死者は、いつの間にか群れの中に復活してこっちにやってこようとするので、同じことを繰り返す。
倒したはずの不死者がまたやってくるなんて、何度も見間違いじゃないかと思ったけれど、特徴的な不死者を何度も倒して確かめたので、どうやら見間違いではないと飲み込めた。
その後、二刻ほど経った頃、城門の中から銅鑼が響いた。
すると、モーゼスさんの号令で集中砲火を行い、やってくる不死者を一時的に排除して時間を稼いだ後、最前線を二番手の人たちにゆずって、最後尾に移動した。
こうしてローテーションして、一晩なんとか保たせているようだった。




