14.火山のダンジョン5
今度は、ルークが三つ頭の狼に向かって駆けていく。
援護のために、《風刃》で狼の動きをけん制するけれど、三つ頭の狼はわたしの牽制を気にした風もなく前足を振り上げる。
ルークを踏み潰そうと狙ってのものに、すかさず特大の魔法を撃ち込む。
「《風刃》!」
たくさん魔力をこめたおかげか、伸びきった前足を《風刃》が傷つけていく。
切断まではできなかったけれど、それでも、体重をかけることができなくなった前足に、三つ頭の狼が態勢を崩した。
そこに、ルークが飛び込んでいき、左前足と右前足の間、おそらくは心臓のある場所を狙って胸を貫く。
絶叫。
これまでにない声量に、とうとうやったのかと、詠唱を唱えながら狼の方を見る。
すると、狼は目に強い憎悪の光を宿し、ルークに目を向けた。
けれど、そこまでだった。
追撃が来るかと緊迫した空気の中、三つの頭それぞれが遠吠えのような声を上げ、地面に崩れ落ちる。
「やった、の……?」
三つ頭の狼は微動だにしない。
仕留めた三つ頭の狼を貫いた剣を抜こうとしているルークに近寄ろうと、わたしも土砂の山を登ろうと足をかけた。
その時だった。
「じ、地震!?」
地面が揺れる。
最初は小さい揺れだったものが、脈動するように大きくなってくる。
ルークのうめく声が聞こえた。
どうしたんだろうと目を向けると、ルークは先ほどと同様、剣を握ったまま三つ頭の狼のそばにいた。
それだけじゃない。
三つ頭の狼から出た黒い炎が、ルークの右腕を這っていく。
「ルーク!?」
あわてて土砂の山を駆けあがり、ルークのそばにいく。
「いたっ」
けれど、いつの間にかルークと三つ頭の狼を黒い炎が包むように囲っていて近寄ることもできない。
無理に入ろうとしても、弾かれてしまう。
そうしている間にも黒い炎はルークを焼き、炎が這った場所には、右腕にあったような文様が刻まれていく。
「っ、――!」
「ルーク! ルーク!!」
呼びかけても、ルークの返事はない。
わたしが何もできない間に、黒い炎はルークの全身を包んで、不意に消失した。
「ルーク! 大丈夫!?」
駆け寄るとルークはぐったりして意識がない。
ひとまず、呼吸はある。けれど、ひどく苦しそうだ。
地面の揺れも続いているから、そのまま寝かせるのは不安だけれど、わたしにルークを抱えるだけの力もないから、なんとか呼吸が楽な姿勢にする。
地面も、とうとう立っていられない程の揺れになり、轟音とともにダンジョンの床が割れた。
地の底から、何かが出てくる。
それは、黒く、鱗を持った一匹の龍だった。
一瞬、龍と目が合った。
龍は金色の瞳孔を細めると、にやりと笑い、わたしとルークが倒した三つ頭の狼を一口でその口に飲み込んだ。
そして、わたしが崩した天井をさらに突き破って外へ出ていく。
ずず、ずず……、という鱗がダンジョンの壁を削る音が、地響きと共にひどく長く続いている。
その胴のあまりの長さに、体の震えが止まらない。
静寂の中、響く不吉な音に、不安で、ついルークの服をにぎりしめる。
ルークの意識はまだ戻らない。
不意に、光が射した。
龍の胴が細くなりその隙間から日差しが射しこんだのだ。
そうしている間に龍の尾が見え、龍は外に出ていった。
「どう、しよう」
呟いた声に、返事はない。
意識のないルークに、ダンジョンの奥から出てきた黒い巨大な龍。
何か、重大な間違いを犯してしまった気がする。
不安を振り払って、ルークに今できることがないか探す。
「そうだ。回復薬、ためして――」
言いかけたところでルークが目を開けた。
怪我などしていないかのように、すくっと立ち上がる。
「ルーク! 目が覚めたの!?」
ルークの返事はない。
不思議そうにわたしを見た後、自分の手や体を確認している。
服の上から見える範囲は、あの黒い炎に寄って文様が刻まれてしまった。
それを気にしてのことかとおもったけれど、そうではないようだ。
「どうしたの? どこか、痛い?」
心配して声をかけるけれど、ルークはまるでわたしのことが見えていないみたいに、天井に開いた穴を見上げる。
そして、まったくの無詠唱で転移魔法を発動し、姿を消した。




