9.ダンジョンの入り口
ガケの上までは、ルークの後をついてのぼった。
先に進むルークが足場を見つけて教えてくれるんだけど、ルークとわたしでは一歩の大きさが違う。
せっかく見つけてもらった安全な足場だけど、そこまで届かないこととかあって、わたしはわたしでゆっくり進んだ。
そうしてひたすらガケを登り、とうとうルークがガケの上に到着した。
休む前にあたりを見渡して、誰も居ないことを確認している。
「大丈夫そうだ」
「うん」
急ぐ必要がないのはありがたい。
わたしもなんとかガケの上に這い上がって、息を整える。
普段使わないところに力が入って、体がこわばっていた。
ガケのすぐ上に、張り出したような岩場があって、遠くからでも見つからなさそうだ。
けど、ここであんまりゆっくり休んでいる時間はない。
できるだけ早くダンジョンに入りたいのだ。
「それで、入り口はどっち?」
「あっちだけど、もう大丈夫なのか?」
「うん。今は、急いだ方がいいと思うから」
「ありがたいが、今無理して後でへばるなよ」
「まかせて!」
「どういう意味だよ」
ルークは脱力したように肩を落とすと、それでも、駆け足に近い早足で進み始めた。
岩場の陰をぬうように進み、とうとう、ダンジョンの入り口が見えてきたところで、唐突にルークが立ち止まった。
「遅かったか」
「誰も、いないように見えるけど」
「あっちとあっちに、いる」
言われたところをじっと見たけれど、わたしには見つからない。
でもルークがいるというなら誰かがいるのだろう。
「どうする?」
「あいつらも、ダンジョンの中までは追ってこないはずだ」
「てことは、強行突破?」
「しかないな」
頷いたルークと軽く打ち合わせをして、方針を決める。
「もう、ここは、思いっきり行こう」
「ええ!? そんな、いいのかな?」
とんでもなく過激な計画を話すルークに、わたしの方が戸惑ってしまう。
「そのくらいしないと、振り切れない。それに、どうせ、中でリリが暴れたら、一緒だろ」
「そんなことないよ?」
「けどやることは一緒だ」
「まぁ、そうだね」
頷くと、わたしはひとまず準備を始めた。
* * *
詠唱を終えたところで、ルークに頷く。
加護を抑えるアクセサリーは一時的にしまっているから、これで、なにが起きても大丈夫なはずだ。
「それじゃ、始めよう」
そうして、ルークは前に飛び出した。
「いたぞ!」
「やっぱりこっちに来やがった」
「早く捕まえろ!」
岩陰から五人の男の人が飛び出してくる。
それを押しとどめるよう、手を上げてルークは言う。
「俺はもうあの村に戻らないし、俺のことは見なかったことにして戻ってくれないか?
あんたらの大事な掟を破ったのは悪いと思っているが、禁域は侵した報いはこの身に受けている。
正直、もう放っておいてほしい」
「何を勝手なことを」
「恥を知れ!」
一応話してみるといっていたけれど、これはわかり合えそうにない。
ルークたちが言い合いをしている間にも、待機している魔法がしみ出すように漏れ出して、足下を撫でるように風が舞っていた。
大技だし、制御は完璧じゃないとルークには伝えていたけど、待機させておくのもそろそろ限界かもしれない。
「一応、俺の言葉は伝えた。
止めるなら、無理にでも行くまでだ。
待たせて悪い、リリ、もう大丈夫だ」
ルークの言葉に、とどめておいたものを解放する。
「――――、全てを薙ぎ払い、我が敵を払いたまえ! 《風ノ嵐》」
わたしを中心に、風が渦を巻いていく。
急いでルークを渦の中に取り込むと、風をまとわせながらダンジョンの入り口に走る。
そよ風だったものがしだいに強風となり、ルークの追っ手も近づけないようだ。
「なっ」
「俺らをここで殺すつもりか!」
「そこまで、落ちたか……」
「そんなことしないよ!?」
風越しに勝手なことを言っている人たちに、聞こえるかはわからないけど、言い返すだけ言い返す。
そして、ダンジョンの入り口の目と鼻の先で、小さな竜巻ほどに育った《風ノ嵐》をダンジョンの壁に向かってたたきつける。
「いっけーー!」
中に入らないといけないから、入り口にはぶつけられなかったけれど、わたしは今加護を抑える装飾品を全て取り外しているから被害は甚大みたい。
「はぁ!? ダンジョンの壁がえぐれただと」
「今の竜巻で、岩場が崩れそうです」
「早く待避を!」
外の大混乱は聞こえたけれど、それにはかまわず、わたしはルークと共にダンジョンの中に入り込んだ。




