7.ガケ下で
「ルーク!」
「は!? リリ!?」
驚愕しているルークの服の裾をつかむ。そして叫ぶようにして魔法を発動する。
「《風牢》!」
わたしとルークを包み込むように風が繭のように包み込む。本来なら、複数の魔獣と戦う際に魔獣を分断したり、戦闘中に安全に回復をしたりするのに使う魔法だ。今回は、この《風牢》を下向きに張ることで、地面との衝突の衝撃を和らげられないかなぁと思っている。
もちろん、ぶっつけ本番だ。でも、不思議と失敗する気はしなかった。
「っく!」
「っ!!!」
強い衝撃の後《風牢》がたわみ、はじけるようにして魔法が解ける。
殺しきれない衝撃のまま、地面に転がっていく。
前後左右わからなくなりながら転がっていると、途中で衝撃がやわらいで、やがて横転は止まった。
世界が回らなくなって、体から力を抜く。
すると、体の下からうめき声が聞こえた。
「うぅ」
「!?」
慌てて確認すると、ルークがわたしの体の下にいた。
「わ、ごめん!」
急いで立ち上がろうとするけど、しっかりとルークの手がわたしを包み込むように抱きしめていた。
「えぇ!?」
思わず驚きの声をあげてしまったけど、これ、わたしが少しでも痛くないようにルークが守ろうとしてくれたんだよね。
なんだか声を上げたことの方が恥ずかしく感じて、顔に血が上るのを感じた。
「いてて」
ルークはそれどころではないのだろう。
わたしの挙動不審な行動を気にすることもなく、腕をゆるめてくれた。
まだ立ち上がれるほど回復はしていないみたいで、わたしがどいた後も仰向けに寝転がっている。
今襲われても、動けるのはわたしだけと思った方がいいだろう。
慌てて、わたし自身が何か怪我をしていないか、装備が壊れていないかを確認する。
うん、わたしの方は、なんとか大丈夫みたい。
「ルーク、大丈夫?」
「……俺、生きてる、よな」
ルークに声をかけると、そんなことを言っている。
「なんとかね」
「死ぬかと、思った」
「うん」
「でも、生きてる……」
「そうだね」
わたしの返しにルークは小さく笑うと、いてぇ!とルークはうめき声を上げている。
外傷だけではなく、どこか内蔵も痛めたのかもしれない。
「待って、わたし回復薬持ってる」
そうして、アイテムバッグの中を漁って師匠のところで作ってきたやつを渡した。
「わりぃ」
「わたしの方こそ、かばってくれてありがとう」
ルークはわたしのお礼に少し固まっていたけど、ぼそぼそと小さな声でお礼が返ってきた。
「リリの方こそ、助けに来てくれてありがとな」
「うん」
ルークは、回復薬を一口飲むと、うめいてお腹を抑えた。
怪我が大きすぎると、回復薬を飲んだときに回復痛が出ることがある。
回復痛か、腹部の怪我か、どっちだろう。
「大丈夫!?」
「回復痛っぽい」
「そっか」
「うん」
それだけ、怪我がひどいと言うことだ。
わたしはほぼ無傷に近い。今回はルークの方に負担がいったようだった。
ルークは、まずは傷を治すことにしたのか、ちびちびと回復薬に口をつけてはうめいている。
その姿を見て、ルークが気になっているだろうことを今のうちに伝えておくことにした。
「そうだ。飲みながら聞いて。
ルークのお母さんだけど《旅人の気まぐれ》を使ってもらって、今まで言ったことのある一番遠い町に飛んでもらった。
法国の外れの町だったから、そのまま首都まで行ってもらってゲオルクさんとニコラスさんと合流してもらうように伝えてある。
だから、あの村長さんたちが」
「そうか」
ルークは、あの村からお母さんが逃げたと知って、ほっとしたみたいだった。
「何から何まで、ありがとうな」
「わたしはルークを助けるって決めたもん。だから、最後まで助けるよ」
そう言うと、はっとしたようにルークは目を見張って、うつむいた。
長い沈黙の後、ルークは口を開いた。
「俺は、あそこで諦めたのに」
「それは、お母さんのためを思ってのことじゃないの? ジャンナさん、そう言ってたよ」
「そう、だな」
「うん。だから、今度は諦めなきゃ大丈夫!」
ルークは、うつむいたまま小さく頷いた。
そのまま回復薬が空になるまで、お互いに黙ったままだった。




