6.救出に向かった先で
朝日が、寝不足の目に痛いくらいに輝いている。
わたしは山の中をジャンナさんに教えてもらったとおりに進んでいた。
このルートはジャンナさんとルークしかしらないらしく、獣道にすらなっていないけれど、おかげで誰にも知られずにルークたちの先回りができる。
朝一でジャンナさんは出発した。
本当は昨日の夜に旅立ってもらいたかったけれど、ジャンナさんの荷造りを手伝っているうちにかなりの時間がたってしまって、気がついたら夜になっていた。
暗闇のなか町についても不審者でしかないからせめて日が昇ってから旅立つことにしたのだ。
わたしの方も、暗闇では絶対に迷うからと朝になってからの出発となった。
急がないとという思いはあったけれど、今は助言を聞いていて正解だったと思う。
息は切れるし、はんぱじゃなく木が生い茂っていて、これはとてもじゃないけれど、夜に来ることはできなかった。
茂みをかき分けると、崖の縁に出た。
下を見るとただ暗闇が広がっている。
噴火の時にできた亀裂みたいで、少し離れたところに吊り橋がかかっている。
崖の向こう側は、岩ばかりの斜面になっていて木なんて一本も生えていない。
こちらとは、正反対の様子だった。
「着いた!」
ジャンナさんから聞いていた通りの様子に、少し肩の力を抜く。
村から火口に行くため、ルークたちはこの吊り橋を渡る必要があるらしい。
吊り橋は両岸の杭をロープで結んだ簡単なものだけれど、重要なものだそうだ。
ここ以外の道は亀裂を回り込む必要があるから、村からだと相当回り道をする必要があるんだって。
橋を渡ってしまえば火口まで一直線のため、ここで確実にルークを助ける必要がある。
「よっし、準備開始!」
そしていつルークたちが来るかわからなかったから、急いで準備を始めた。
* * *
ルークたちがやってきたのは、お昼近くだった。
思ったより来るのが遅くて、わたしの方はへとへとだ。
鳥だったり、獣だったりが茂みを揺らす音に、来たかもしれないと毎回気を張っていたから、思った以上に神経を使ってしまった。
でも、あのざわめきは間違いなくルークたちだと思う。
騒いでいるわけではないのに、鳥や獣とは違う明らかに人間の集団が近づいているという気配に、静かに《気断》の魔法を発動させ、橋に向かう道の側で息を殺す。
疲れているけれど、失敗は許されない。
息を詰めて見守っていると、葉の陰からルークたちの姿を確認できた。
屈強そうな男の人とオレクさんでルークをはさんで歩いている。
ルークは背中で手を縛られていて、歩きにくそうだ。
だから、ここまで来るのが遅かったのかもしれない。
時々ルークはつまづいているけれど、二人はそんなルークを特に助けることもない。
なんだか腹が立つ光景だった。
彼らが十分近づいてから、行動を起こした。
「ルーク! 助けに来たよ!」
ルークが何かを言う前に、ルークをオレクさんともう一名につないでいる縄を切り、ルークをつかむ。
「リリ!?」
ルークは何が起きたか理解できていないみたいだけど、わたしが来たということだけはわかったみたい。
そのまま、風魔術を発動させる。
一瞬後、突風に背中を押され、橋の途中まで直線的に移動していた。
戦闘時に緊急回避で使われる魔術だった。
「あっ」
本当なら、これで橋の向こう岸にいるはずだった。
けれど、一人で使う魔術をルークをつかんだまま発動させたからか、橋の途中までしか進めていない。
「くそっあいつらを逃がすな!」
「ルーク、逃亡は重罪だぞ!」
振り切れなかった二人が、声を上げながら追いかけてくる。
ルークの手を縛るロープは、まだそのままだ。
ルークは、絶望したような顔をしている。
「どうすんだよこれ!」
「あっちに渡るのが先!」
何か言おうとするルークを急かす。
「俺の邪魔をするな!」
「ジャンナさんなら大丈夫だから!」
けど、お母さんのことがあるからか、ルークも素直にいうことを聞いてくれない。
「くそっあとでちゃんと話を聞かせてもらうからな!」
ジャンナさんの名前を出したことで、ようやくルークが足を踏み出す。
「わかってるから、急いで!」
けれど、言い合いをしたのがよくなかったからか、オレクさんたちが吊り橋の橋に足をかけてしまった。
「追いつかれちゃうよ!」
急かすけれど、揺れる不安定な足場を、縛られたままの状態ではルークも速度を出せない。
追いかけてくる二人のせいで不安定な足場がさらに揺れた。
不揃いな板をつないだだけの吊り橋をそう走って渡ることはできないみたいだけれど確実に一歩一歩進んでくる。
「ルーク! 今ならまだ許してやる。そこでじっとしていろ」
「ジャンナがどうなってもいいのか!」
びくりとルークの肩が揺れる。
答えられないルークに変わってわたしが叫び返す。
「いうこと聞いたからって、ルークの罰は減刑されるの?」
「どうしてそうなる! 罰は罰だ!」
オレクさんが強く踏みだし、吊り橋が今までになく大きく揺れた。
その反動で、ルークがふらつき、咄嗟にその服をつかむ。
「わっ」
ルークは、咄嗟にロープをつかもうとした。
けれど、手は縛られている。一瞬、ロープがルークの体を受け止めてたわんだ。
すべてがゆっくりと動いていく。
ロープのおかげで大丈夫かもしれないと思ったけれど、やっぱり大丈夫じゃなくって、ロープ一本でバランスを崩したルークを受け止めきれるはずもなく、ルークの体は空中に投げ出された。
わたしの手は、まだルークの服をつかんでいる。
けれど、勢いのついた、しかも全然体格の違うルークを捕まえて引っ張りあげるなんて、できるわけがないし、このままだとルークの服から手が離れてしまう。
なら、結論は一つだ。
迷うこともなく、わたしは吊り橋から身を投げた。




