5.ルークを助けるには
淹れてもらったお茶は、お湯があつすぎてまだ飲めそうになかったから、冷めるのを待っている間に話を聞くことにする。
「わたしも、ルークを助けたいです。けど、明日なにがあるのかとか、どうしてルークが村長のおじさんに素直についていったのかとか、わたしにはわからないことばっかりです。だから、ルークを助けるためにもどうしてルークを助けた後、すぐにダンジョンに向かった方がいいのかとか、理由を教えてください」
勢いのままにいうと、ルークのお母さんも覚悟を決めた顔で教えてくれた。
「息子への罰は、おそらくはムコルタ山の火口への身投げになります」
「えぇっ」
火口ってあれだよね。あの、天辺の火を噴いているところ。あそこに落ちたら死んじゃうよ!?
「神域を犯した罰、ですから」
「なんでルークは抵抗せずにつれてかれちゃったの」
しばらくの沈黙の後、ジャンナさんは後悔をにじませた顔で口を開いた。
「……きっと、私がここをの離れようとしなかったせいです。今まで、何度もここを離れるタイミングはあったのに」
そっか。お母さんがずっとここで生きていくって思ったら、簡単に掟は破れないよね。だからって、簡単に諦めようとしたのは許せないけど、お母さんをルークなりに守ろうとしたんだって思ったら、なんだかちょっとわかる気はした。
そこまで考えて、はっと気がつく。
「わたしがルークを助けてしまったら、ジャンナさんは……?」
ジャンナさんは何も言わずに肩を落とした。
広場で、ジャンナさんがわたしに声をかけたのを、見ていた人たちはいた。
さすがに、わたしがルークを助けたら、きっとジャンナさんに頼まれたんじゃないかって思われるだろうし、そうすると罰を受けるのがジャンナさんになってしまうかもしれない。
そんな状況で助けに行っても、ルークもきっと素直に助けられてくれない。
「諦めちゃだめですからね!」
「でも、たとえ今からここを離れたとしても、きっとすぐに追っ手につかまってしまうわ」
「それは、きっとなんとかなります。今、大事なのは、ジャンナさんの気持ちです」
「気持ち……?」
「ルークを助けるためには、この家を離れて、知らないところにいってもらう必要がありますが、できますか?」
ジャンナさんは、ルークを助けるためなら、と頷いた。
「持ち物のすべてを、持ち出すことはできませんし、もう、ここには戻ってこれなくなりますよ?」
念を押すと、ジャンナさんは微笑みを浮かべる。
「大丈夫よ。ここを、離れられなかったのは、いつかあの子の、ルークの父親がここを思い出して戻ってきてくれるかもしれないって思っていたから。でも、そのためにあの子が死んでは、意味がないから」
「わかりました。それじゃ、持てるだけの貴重品を集めてください。ちなみに、ジャンナさんは戦闘経験は?」
「狩りはするけど、あまりうまくないわ。普段は薬草採取中心に仕事をしているから、正直、リリさんについていって、ルークを助けてムコルタ山のダンジョンに向かったとしたら、きっと足手まといにしかならないでしょう」
「そうですか。それじゃ、今までいったところで、ここから一番離れているところは?」
「聖サルバティア法国の端の町かしら。若い頃に一度、出かけたことがあるわ」
町の名前を聞くと、ここに来るまでに通ってきた町だ。
「なら、大丈夫かな。本当は、サンストナ国に行ったことがあれば一番よかったんだけど、それでも十分。そこから二、三日歩きますが、聖サルバティア法国の首都までいってもらえますか?
知り合いがいるんです。手紙を書くので、わたしたちが帰るまで、そこで保護してもらってください」
「……わかったわ」
ジャンナさんは何かを言いかけて、わかったと言い直した。
そこまで逃げ切れるかわからないといいたいのだろう。当然、ルークをわたしが助けたら、騒ぎになって、ジャンナさんのところにも人がやってくるだろうし、ここにいなければジャンナさんを探すはずだ。なら、その人たちに捕まらないところに事前に逃げておいてもらえばいい。
「ふふふ、実は、わたし、こう見えて冒険者でして」
「ええ、それは、最初に伺ったわ」
「だから、こんな便利な道具も持ってきているのです」
そして、上着の一番下のボタンを取る。飾りボタンの刺繍に込められている魔法は、もちろん《旅人の気まぐれ》。
以前、岩山のダンジョンで使った後、またいつか使うかもしれないと思ってミアに作ってもらっていたのだ。
備えあれば憂いなしって師匠がよくいってるもんね。
「これは?」
「これを握って、発動呪文をいうとその時思い浮かべた行ったことのある場所まで転移できます」
「まぁ!」
「なので、荷造り、お願いします。着替えとかももっていったほうがいいです。わたしは、法国の首都でジャンナさんを保護してもらうつもりの人たちにお手紙書くので。ゲオルクさんとニコラスさんっていう冒険者で、ルークのことも知ってるし、大丈夫です。本当はわたしの師匠のところが一番安心できますが、彼らも星四つの冒険者なので、すごく頼りになりますから!」
「こんなにしてくれて、ありがとう」
目に涙を浮かべているジャンナさんに、わたしはいう。
「わたしはルークを助けます。だから、ジャンナさんは何があっても生き延びてくださいね」
「わかったわ」
そして、二人で慌ただしく準備を始めた。




