2.オレクさん
お昼前くらいに今日一番の難所を抜けたみたいで、少し道幅が広くなった道を進んでいった。
思った以上に距離を稼げたみたいで、いつの間にか山をほとんど下っていた。
どこで禁域の方にいくんだろうって思っていたら、山を下りきる前にいわれないと気がつかないくらいの脇道があって、ルークはそっちにためらいなく入っていく。
「これ、道?」
「抜け道の一つだ」
「へぇぇ」
驚いていると、ルークがちょっとためらって口を開いた。
「このあたりは、よく来てたからな」
「そっか」
その後黙ってしまったルークの後をついて行く。
気がつくと、再び道が険しくなっていた。
火山の手前にある山の方に入ったみたいだ。
この山のどこかにルークの家もあるんだろうな。
考え事をしながら歩いていると、ルークが立ち止まった。
どうしたのかなって思いながら、黙ってルークの判断を待つ。
これまでの道中で、何かあればルークが教えてくれていた。
神域も近いし、何か予想外のことが起きたのかもしれない。
きっとまずいことが起きてるんだろうと思えるくらいには、この二週間で信頼を深めていた。
じっと息を殺していると、ルークが肩の力を抜いた。
「わるい」
「どうしたの?」
「見つかったみたいだ」
「見つかった?」
「俺がいたときにはいなかったのに。見張りが立ってたみたいだ」
「えええ」
そんなの全然気がつかなかった。
どうやって見つけたんだろう。
「巨人族って目がいいの?」
「目っていうか、この辺は巨人族の縄張りだし、風を読んだんだろうな」
「むむ……?」
一体どういう意味なんだろう。考えていると、私の倍はありそうな壮年の男の人が前からやってきた。
「やはりお前か」
「オレクさん……」
「戻ったということは、わかっているな」
「はい」
オレクさんは無言のまましばらくルークをにらみつけていたけれど、ふいにわたしの方を見た。
「子供……?」
「違います! ちょっと身長は低いですが、人族で、ちゃんと十五になってます」
そう見えるのは仕方ないかもしれないけれど、一応抗議はしておく。
「人族、か。それが何の用だ」
巨人族の村によるつもりはなかったから、表向きの理由なんて決めていなかった。
なので、嘘にならない程度に話をする。
「ルークと一緒に女神様にお言葉を授かったので、あちらの火山を目指しています」
「女神というと」
「ヴォルーヴァさまです」
知の女神様のお名前をいうと、オレクさんも知っていたようで顔をしかめた。
「訪れるものに知恵を授けるに足る試練を科すという、あの女神か」
オレクさんがわたしを上から下まで眺める。
「お前のような小さいものに、女神の科す試練を超えられるとは思えぬが」
オレクさんも馬鹿にするつもりはないんだろうけれど、あんまりな言い方にむっとして言い返す。
「こう見えて、わたしはローギウスさまの加護をいただいています!」
「ほう」
オレクさんが少し見直したように胸を張るわたしを見ている。
「なら、二人とも村に来てもらおう」
「え」
「そっちのルークは、村の禁を犯し、逃亡している。
裁きを受け、処罰を受けてもらわねばならぬ。
そして、お前だ。
本来なら追い返すところだが、ローギウス様の加護をいただき、ヴォルーヴァ様にお言葉を授かってここに来ていると自分で主張しただろう。
私にはお前の言葉が真実かどうかはわからん。
が、嘘と断じて真実であった場合に取り返しがつかんからな。
真実なら、気まぐれな変化の神の思し召しを妨げると、こちらにどんな返しが来るかわからん。
だから一応村へは連れて行く。来い」
いうだけいうと、オレクさんは背を向けて歩き出した。
どうなるのだろうか。
ルークをみると渋い顔をしているからあまりいいことではないんだろう。
小声でルークが言う。
「リリ、隙を見て逃げろ」
「え、なんで」
「村に行ってもろくなことにならない。リリだけでも逃げた方がいい」
「逃げて、どうするの?」
「それは……」
答えられないルークにいう。
「せっかくここまで来たんだし、村も見てみたいから大丈夫」
「村を見てみたいって、観光なんかするどころじゃないと思うぞ」
「わかってるよ」
話していると、オレクさんが振り向いた。
「おい、来ないのか? こっちは縛って運んでもいいんだぞ」
「え、あ、はい!」
そして、ルークと共に急いでオレクさんの後を追った。




