24.ニーベルグへ出発+α
男は特別だった。
神という権能ゆえか、こことは違う、別の次元での己と等価となる存在の生き様を知っていた。
その次元での己は世界の滅びを止めるため、魔術を得るために片目を代償として失った。
そうまでして止めようとしたのに、結局己は死し、世界はいったん終わりを迎えた。
新たな世界は始まったが、男のいない世界になんの意味があるというのだろう。
あんなにも尽力したというのに、古きものとして忘れ去れれていくだけの存在であることを、受け入れねばならぬのだろうか。
否。
男は、別の次元の己の運命を、変えうることができるものと捉えていた。
同じ行動をすれば、死が待ち受けるだろう。
そうならないためにどうすればよいのか、その行動の規範は別の次元の己が示している。
ならば、致命的な分岐点で同じ行動をとらねばよいのではないか。
そう仮定し行動することとした。
手始めに、別の次元の己が執拗に保護していた人間の保護に気を遣うことをやめた。
あいつらはたくましい。
見てきた世界と今の世を眺め、そうするだけの必要を感じなかった。
続いて、屠るはずだった原初の母神を、トドメを刺さぬよう気をつけて地に沈めた。
生き返られても困るので、母神の力を吸い取って、地に暮らす人間に恵みとして与える。
母神を生かさず殺さず、けれどあがなうべき罪科は人が背負うように。
ほかの神すら知らない原理で、ダンジョンと人が呼ぶシステムは作られた。
別の次元で、己の過ちは、母神の殺害から始まっていた。
ならば、殺めなければよいのではないかという単純な理由だ。
そして、別の次元で己を飲み込んだ大狼を封印し、男の片腕とも呼べる忠実な部下に監視をさせた。
これで大丈夫だとは思わない。
けれど、これでかなりの危険は減ったはずだ。
本当なら大狼は殺してやりたいくらいだが、少しずつ変わってきている世界で、殺した場合の影響が読めないので、殺すことは諦めた。
感覚としてわかっていることがある。
確定事項として、世界はいったん生まれ変わるのだろう。
つまり、世界はやはり、一度滅びの危機に瀕するということだ。
ならば、それに向かって準備を進めていくことこそが重要だった。
世界を放浪し、目についた優秀な人間を手勢としてコレクションしていく。
目的は、新しい世界での覇権。
別の次元の己は、この時期、世界の頂点に立ち栄華を誇っていた。
けれど、男はほろびるべき世界で一時だけの頂点にたつことに意味を見いだせなかった。
不可解なことに、何をしていなくとも、己をあがめ、ついてくる人は一定数いた。
便利ではあったから使っていたし、彼らが終末を乗り切れたのなら、新しい世界で下僕として迎え入れることに否やはない。
大分そろったコレクションを眺めながら、男は今後の予定を考える。
そう。記憶を封じたとはいえ、大狼の親、ローギウス神の様子がおかしい。
念のために、何か手を打っておいた方がよいだろうか。
さて、どうするのがよいだろうか。
男は思案に沈んだ。
* * *
その日もよく晴れていた。
「忘れ物はないか?」
「大丈夫。全部昨日確認したし、アイテムバックもあるからね!」
わたしの隣には、旅装を整えたルークがいる。
ギルドには昨日買い出しのついでに挨拶もしている。
ちょっと微妙そうな顔をしていたけれど、もし、しばらくたっても女神様がお目覚めにならなくて、試練の道が開かなかったら、また来ると伝えている。
すごく怖い顔で、絶対に死なないでくださいねと念を押された。
本当ならそんなに心配されるのは、うれしいことのはずなのにね。
すごく、その、危険を感じた。
一昨日聞いた通り、ゲオルクさんとニコラスさんはここでしばらく居残って、仕事が終わってからサルバティア王国に戻るらしい。
わたしの加護の件とルークのことについて、師匠に手紙も書いたし、ここに思い残すことはなかった。
「んじゃ行くか」
「そうだね!」
そして、わたしたちはルークの故郷、ニーベルグへと向かった。




