21 .裏・試練の道6(ゲオルク視点)
二人は倉庫を出た後、ギルドに走った。
Aランクのタグを見せギルド長を呼び出してもらっている間に、職員に事の次第を伝え、ロイと思しき子供の手当てを任せる。
「睡眠の魔術がかけられているだけだな。だが、放っておくとずっとこのままだ。栄養を取れずに死んでしまうぞ。無理やりにでも目を覚まさせないとまずい」
「できるか?」
「ああ。時間はかかるが、解除はできそうだ」
職員の言葉にほっと息を吐く。
「だが、この子のような状態のものが何人もいるのか。場合によっては栄養失調になっている者もいるかもしれないな」
子供の状態を見て、手当てに当たった職員もまずいと思ったようだ。そうしている間にギルド長もやってくる。サンストナ国のギルド長が筋肉質だったが、こちらはやや文官よりの人物のようだ。
「至急だと聞いたが」
「あんたがここのギルド長か。Aランクのゲオルクと、こっちはニコラスだ。町はずれの倉庫にこの少年と同じような状態の人がたくさんいる。
犯人は彼らを商品と言っていた。現場に居たものについては、その場に縛ってきている。あんたには、彼らを助ける協力をして欲しい」
「は!?」
ギルド長は突然の話に驚きを隠せない様子だったが、ゲオルクとニコラスのタグを確認すると、頷いた。
「君たちの話を信じよう。それで、協力とは?」
「助かる。俺らはよそ者だ。現場の指揮もすべてそちらにまかせる。場所は――」
ゲオルクの説明で、倉庫の場所もわかったようだ。
少し考えた後、ギルド長は手が空いている奴はいるか、という声かけでギルドの建物内にいる冒険者を集めると、ただちに職員と共に倉庫に人を遣わした。
「それで、君たちはどうするのかね」
「現場にはオルディナ神の神官もいた。俺はそっちの神殿も見に行ってくる。ニコラスは?」
「ま、オレがこっちにいても仕方ないだろうしな。お前と一緒に行くつもりだ」
「オルディナ神の神殿――いや、私はそれを聞かなかった。止めはしないから、行くなら黙っていきなさい」
ギルド長は驚いているが、すぐに脳内で今後必要になる駆け引きを考えたようだ。
「わかった。あと、その少年については、後で迎えに来る。それまで預かってもらっていいか」
「この子もこのギルドで面倒を見ている冒険者の一人だ。それくらいは構わん」
「それじゃ任せた」
そうして、オルディナ神の神殿を聞くと、ギルドを飛び出す。詳しい話はまた後日する必要があるだろうが、今必要なことは終えたはずだ。
オルディナ神は、もともと信仰の対象として人気がない神である。
教えられた神殿にやってきたが、あまり人のいない静かな神殿だった。
出入り自由な外門をくぐり、中を見渡すが人がいない。参詣者向けに案内板が立っているが、それを無視して神殿の奥の方に入る。不用心なことに、神殿に付属する建物の中にも誰もいなかった。
階段の前に辿り着き、どちらに行くか迷いニコラスに尋ねる。
「どっちだと思う?」
「地下。物音がする」
「さすが耳がいいな」
「兎人族の実力舐めんなよ」
軽口を言い合いながらニコラスの指示する方向に進むと、怪しげな扉がある。
「あれか?」
「そうだ」
ここは慎重に行きたいところだ。
わかっているだろうかとニコラスに視線を向けると、ニコラスは頷いた。
「っしゃ。まかせろ」
言うなり、そのまま助走をつけて扉を蹴破った。
「いや、そういう意味じゃねーんだが」
「は!? どういうこと!?」
振り返るニコラスに、中から雷撃が飛んでくる。
それをゲオルクは槍に仕込んだ障壁魔法を発動させ防いでやるが、帰って来たのは舌打ちだった。
「っち、余計な世話だ!」
「そうか」
さらに何か言おうとするニコラスを遮るように、雷撃を飛ばした神官が叫ぶ。
「貴様らっ神聖な儀式の間に入り込むとは、覚悟はいいのだろうな」
「おまえらの方こそ、町の人間を攫ってどんな儀式をしてたんだか」
「なんだ、バレたのか」
老年の神官はにやりと口元を歪ませる。
「すべてオルディナ神の指示による。これもすべて、世界の救済のためよ」
「救済ねぇ」
「時がくればわかること。最近、質が下がっていると我が主はお嘆きだった。なんせ、ちょっと腕のいいやつは既に送ってしまったからな。貴様らなら、満足されるだろう」
「へぇ」
ニコラスが目を細める。ゲオルクは気になったことを尋ねた。
「送った人間はどうなるんだ」
「自分で試してみるがよいだろう」
「お断りだ」
再び雷撃が飛んでくるのを、同じく、槍に仕込んだ障壁で防ぐ。
「それはさっき見たぞ」
言って、暴風が予期していない方向からゲオルクを襲い、とっさに避けるも、不安定な態勢で体が風に吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
まずはゲオルクに狙いを絞ったのか、身動きできない所に雷撃が追撃され、ゲオルクの体をしびれるような痛みが走った。
とどめを刺されることを覚悟したが、神官は何を思ったのか戦闘態勢を維持しているニコラスの方を振り向く。
「ふん、手間をかけさせる。さて、残りはお前ひとりだが」
その言葉に、神官がゲオルクが戦闘不能に陥っているのだと思っているのだとわかった。
ゲオルクの体表の鱗は人族よりも魔法防御力が高い。そのため、先ほどの雷撃が神官の思っているほど効いていないようだった。
おそらくこの神官は竜人族と戦ったことなどないのだろう。そもそも、戦闘職でもないのだ。そこまで別種族の特性に詳しくないのは納得できた。
「おー怖。オレ、あんまりオルディナ神について知らないんだけど」
「不信心者め。後でとくと聞かせてやるわ」
ニコラスはそこに気がついているのかいないのか、神官を挑発している。
「できたらな。あんたが捕まってるかもだろ?」
「はっオルディナ神の加護がある私がか」
神官はニコラスに対して先程ゲオルクを襲った暴風の魔法を連発し、態勢を崩すタイミングを狙っているようだ。
だが、ニコラスも俊敏性では負けていない。
逃げ回って、完全にゲオルクが視界から外れたタイミングで、ゲオルクは体を起こすと神官の背後を取る。
「なんとっまだ動けたのか」
「あぁ。後でゆっくり、オルディナ神が何を考えてもらうか聞かせてもらうぜ」
ゲオルクは神官の意識を刈り取るために、手刃を落とす。
「その程度でか」
だが、神官は咄嗟に障壁を張り、ゲオルクの手刃は止められてしまう。
そのまま、障壁が風と雷の気配を纏い回転していく。
「ちっ」
止めないとまずい。
後始末が大変になってしまうが仕方がないと、ゲオルクが魔術の発動のための呪文を唱えようとした時だった。
ニコラスが先程扉を蹴破った時と同様、助走をつけて飛びかかってくる。
先程と違うのは、足の先に風が集まっているところだ。
「お前にばっかりいいところ持って行かせるかよ」
一瞬、神官の障壁とニコラスの集めた風が拮抗した。
だが、次の瞬間、神官の障壁は破れ、爆風が辺りを襲う。
風から顔を庇いながら、ゲオルクはニコラスの蹴りが神官の腹部に入るのを見た。
纏っていた風はほぼ障壁と相殺されていたが、それでも神官には大ダメージだったようだ。
血の混じった咳を吐き出すと、神官は今度こそ意識を失った。
神殿は、がれきの山に変わっていた。
一部天井も崩れ、青空も覗いていた。
ここまでするつもりはなかったのだが、言い訳は聞いてもらえるだろうか。
ま、なんとかなるだろう。
楽観し、神官を縛り終わると、ゲオルクはニコラスの方を振り向いた。
何をしているのかと思ったら、ニコラスはその辺のがれきをひっくり返して、散らばった書籍や書付を見ているようだった。
ギルドの職員が到着するまでに証拠になるようなものを探そうと、ゲオルクもがれきの塊に手をつけた。




