19.裏・試練の道4(ゲオルク視点)
自己紹介を終え、ルゥがゲオルクに話した内容をもう一度繰り返す。それをゲオルクは黙って聞いていた。
「それ、その依頼を出した奴があやしーじゃん」
一通り話を聞いたニコラスが、ルゥに無駄に希望をもたせまいと、敢えてゲオルクが黙っていたことを言い、ゲオルクは思わずニコラスを睨みつけた。
「ならっ」
「けど証拠もなしには突っ込めねぇ」
案の定、ルゥは希望を覗かせてニコラスを見てたが、続くニコラスの言葉に、あからさまにルゥはしょげかえった。
「ちなみに、ルゥの兄ちゃんはいつから帰ってきてねぇんだ」
「昨日、帰ってくるはずだった」
思うところがあるのか、ニコラスはへぇと頷き言葉を続けた。
「ちなみに、その黒いのとはどうして知り合ったのかまだ聞いてなかったな」
「ルゥがへこみながら歩いているところを、俺が声をかけたんだよ」
「へぇ、お前がねぇ」
ゲオルクが言うと、ニコラスはその耳をピクリと動かし、面白い物を見たという顔をしている。
「なんだ?」
「いいとこあんじゃん」
「は? 俺は今、お前に喧嘩を売られているのか?」
ニコラスを不機嫌に睨むゲオルクだったが、ルゥがおろおろしているのが目に入り、殺気を抑えた。
「事情はわかったろう。他に聞きたいことがないなら、俺は一旦寄りたいところがあるんだが」
「え、じゃ、ルゥも」
再び出かけようとする少女を見て、ゲオルクはいう。
「ルゥはロイがもし帰ってきた時のために家にいて欲しい」
「でも、兄ちゃんのこと、ゲオルクさんわからないんじゃ」
「ルゥの兄ちゃんなら、オレがいるから大丈夫だよ。兎人族の鼻はいいんだ」
本当だろうかと迷い、ゲオルクを見上げるルゥにゲオルクは一つ頷く。
「そんな特技があるとは聞いたことがなかったが、確かに、こいつは人族よりは鼻がいい」
「おい、余計なことは言うなよ」
ゲオルクの言葉を聞いて安心したように、ルゥも頭を下げる。
「兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」
「おう、頼まれた。ルゥの兄ちゃんはオレとこいつが探すから、ルゥは安心して家で待ってろ」
「そうだな」
ゲオルクの言葉に、ルゥは頷いた。
そのまま顔を俯けていたが、しばらくの間の後、弱音がこぼれた。
「兄ちゃん、帰って、くるかな」
「探してみせるさ」
「だな」
ルゥは自分のズボンをぎゅっと握った。
「……わかった」
「んじゃ、オレたちは行く。見つかっても見つからなくても明日、またここに来るから」
「うん」
そしてゲオルクとニコラスはルゥの家を後にした。
角を曲がり、見送りに家の前に立つルゥが見えなくなったタイミングで、ニコラスはゲオルクが、聞き取れるかどうかの微かな声で異変を告げた。
「なんかあの子も見張られてるみたいなんだけど」
「あぁ、ルゥと広場で話していた時くらいから気配はしていた」
「放置かよ」
「その方が都合がいいだろう」
「で、どうすんの?」
「俺らかあの子か、狙いをはっきりさせてから話を聞く」
「うっわ、その顔、極悪」
そんな顔をしていただろうかと思いながらゲオルクはニコラスを見たが、珍しくニコラスは余計なことを言わなかった。
しばらく適当に歩き、監視していたものがゲオルクたちではなく、ルゥの方が狙いとわかったところで二手に分かれ、監視者に気がつかれないよう引き返す。
監視していた男たちは、合計三人。
ゲオルクたちに存在に気付かれているとは思いもよらなかったのか、あっさりと捕まえることができた。
「で、お前たち、なんなわけ?」
「なっ、俺たちにこんなことして許されると思うなよ」
「そうだそうだ」
「ビルさんが黙っちゃいないんだからな」
ビル、と言うのは、ルゥの兄に最後に依頼をした男の名でもあった。
「へぇ、ちょっとお話した方がいいのかな」
ニコラスが笑顔でこぶしを握る。
捕まる際にひと悶着あり、ニコラスの実力を身をもって知っている男たちは、おびえたように身を縮める。
「ひっ、俺たちはちょっとビルさんのところにあのガキを連れてくるよう頼まれただけで」
「子供一人連れてくのに大人三人ねぇ」
「貧民街のガキなんて多少強引に連れて行こうが誰も気にしねぇよ」
「面倒がなくていいだろう」
「ならその男のところに案内してもらおうか」
ゲオルクがすごむと、男たちはあっさりと二人をルゥを連れて行くはずだったという場所に案内した。




