18.裏・試練の道3(ゲオルク視点)
「おい」
「ひっ」
顔を俯けて歩いていた子供はゲオルクの顔を見て固まった。
悲鳴を上げないだけ見どころがある、とゲオルクは内心思った。
「穏やかでない話が聞こえたが、お前の兄がいなくなったのか?」
「あんたには関係ない」
言い切る子供に、確かに、と頷くも、ゲオルクも声をかけてしまった以上、見捨てるのは忍びなかった。
服の下にしまっている冒険証のタグを取り出し、子供に見せる。
近づいてわかったが、子供は少年のようにふるまっているが、どうやら少女のようだった。
「ほら。見ろ。俺は冒険者だ」
「え、星が、四つ……」
「そうだ。だから、何か力になれることもあるだろう。だからまず、話を聞かせてくれないか」
「え。でも。お礼なんか」
「謝礼が目当てなら、高ランクの依頼に行く。純粋に気になったから声をかけたまでだ。不要なら、もう行くが」
「ま、待って」
言いつつ、少女がゲオルクの服の裾を掴む。
「兄ちゃん、兄ちゃんを助けてください」
そう言いながら子供は泣き出してしまう。
「ああ、おい。くそっ」
それでも泣くなとは言わないゲオルクに、子供はすがりついてさらに泣いた。
* * *
「落ち着いたか」
すがりつく子供を抱え、広場に移動した。
蜂蜜入りの暖かなレモネードを露店で買い渡すと、少女は戸惑ったようにゲオルクの顔を見上げた。
「こ、これ」
「おごりだから安心しろ」
「ありがとう、ございます」
ぎこちなく礼を言う少女の隣に座り、ゲオルクも自分の分へと購入した同じものに口をつける。
酸味とほのかな甘みが、鼻を抜けていった。
「俺はゲオルクだ」
「ルゥ、です」
「そうか。それでは、落ち着いたなら詳しい話を聞かせてもらえるか?」
そうして、聞いた話はこのような物だった。
もともとロイとルゥは兄妹で、神殿が経営する孤児院で暮らしていた。
だが、兄のロイが成人し、孤児院を出る際に、ルゥも一緒に孤児院を出て、今はルゥとロイと二人で暮らしているのだという。
ロイは冒険者として孤児院にいる間からギルドで依頼をこなしており、そこそこの腕もあり、ルゥも内職をしていて暮らしは安定している。
けれど、その兄が先程の男の指名依頼を受けた後に帰ってこない。
ギルドの方に聞きに行ったが、達成報告が済んでおり、それ以上のことはわからないと言われたようだ。
ルゥはロイが行きそうなところはすべて見て回って、もう、心当たりはあの男しかないという。
「それであの男の家の前にいたのか」
「あの人、孤児院にいた頃から人さらいだって噂があって。それで」
「なんでお前の兄はそんなやつの依頼を受けたんだ?」
「報酬が、すごくよかったんだ。いつも暮らしはギリギリだから、少しでも余裕もてるようにって」
「なるほどな」
少女の話を聞いたところ、確かにあの男が怪しいと頷く。
犯人があの男でない可能性もあるが、、一旦、あの男のことを調べた方が良いのは確かだろう。
そして、それはゲオルクだけで聞き込みをした方が都合がよい。
一旦、少女を家に送るため、ゲオルクとルゥは一緒に歩き出した。
「えっと、家はあそこです。あれ、誰だろ。お客さん……?」
案内されたのは、川の近くにあるあばら家が寄せ集まるように建っている区画だ。その家の前に、この区画には不似合いな格好の男が立っていた。見慣れた兎耳に、見たことのない帽子をかぶっている。先ほど分かれたはずのニコラスだった。
「うげぇ。なんでお前がここにいるんだよ」
ニコラスもゲオルクに気がついたようで、げんなりとした顔をしている。
「お前こそ、帽子屋はどうしたんだ」
「その帽子屋に教わってここにいるの。で、お前は? ついに犯罪に手を染めたんなら喜んでギルドに通報すっけど」
ゲオルクは、言い返そうとして、不安げにルゥが己を見上げているのに気がつき、罵倒ではなくどうしてニコラスがここにいるかを問うことにした。
「帽子屋がどうしてこの場所を教えたんだ」
「飾ってあった帽子の色違いが欲しくてな。色々注文つけてたら、もう直接話してくれってことでここを教えられたんだよ」
「はぁ?」
「ほら、この飾り、最高にイかすんだけどよ、オレには赤よりも青が似合うと思うわけ。けどさー、帽子屋はなかなかわかってくんなくってさ、赤でいいじゃんとか抜かすわけ。だから、いかにオレには青の飾りが似合うかを話してたら、ここを教えられたってわけよ」
ニコラスが自慢げに掲げる帽子は、大輪の赤い花の飾りがついている。
「あ、それ、わたしが作りました」
「まじで!」
ニコラスは破顔している。
「じゃ、これの青い飾りを作ってくんね!?」
「作るのはいいんですけど、あの、その、」
言い淀むルゥにニコラスが言い募る。
「ん、材料がたんねーの? なら、オレちょっとばかし取りに行ってもいいぜ」
「材料は、兄ちゃんがいつも取ってきてくれて、けど、兄ちゃんは今いなくて」
「ん、出かけてんの? オレ、その兄ちゃんが戻ってくるまで待つけど」
その様子に、ゲオルクは言う。
「その兄は、居場所がわからないそうだ。人買いにさらわれた可能性もあるらしく、俺は彼女の兄の捜索を頼まれたところだ」
「ならオレもその兄ちゃん探すの手伝うか。そしたら飾りを作ってくれるだろ」
「は、はい」
「よっし、そうと決まれば詳しい話を聞かせてもらおう」
「なんでお前が仕切るんだよ」
「お前がちんたらしてるからだろ。あ、ここ、あんたの家? なら、さっさと中に入ろうぜ」
言いあいながら、家に入るように促される。家主は誰だといいたいが、ルゥは文句も言わずに戸を開き、中にゲオルクたちを招き入れたのだった。




