7.トリウス神の神殿にて
宿舎は木造の長屋のような作りだった。
年季は入っているけど、丁寧に使われているようで痛みは少ない。
食事は出ないと言っていたけれど、簡単な調理場もついていて、長逗留するなら自炊もできそうな感じのところだった。
さすがに今日は全員、外に食べに行った。
翌日。
朝食は携帯食で済ませてギルドへ向かう。
ルークと二人で来るつもりだったが、ニコラスさんとゲオルクさんもギルドまではついてきてくれるそうだ。
なんでも、わたしたちの用事が終わるまでは暇な時間ができるから、ギルドでこの辺の依頼をうけるらしい。
ギルドにつくと、中で別れる。
二人は依頼が貼られている掲示板の方へ、わたしとルークは、昨日受付をしたカウンターへと向かう。
「こちら、お預かりしていたお手紙をご返却します。
そして、こちらが神殿の方に見せて頂くギルドからの紹介状です。
こちらを神官の方にお渡しください」
封がしてあるため、何が書いてあるのかはわからなかったけれど、ひとまず預かる。
神殿への道順を教えてもらい、ギルドを後にした。
そう大きくはない町の中を、ルークと二人で進む。
いくつかの神殿と塔とを見ながら進み、目指す神殿は町の中心にほど近い場所にあった。
見立ての神官様がいるのは、雷神トリウスを祀る神殿だ。
「うわー、人が多い」
「あれを並ぶのか」
まだ朝も早い時間だというのに、巡礼者が入り口の外まであふれている。
祈りの間で祈りを捧げてから神官様に会おうとルークと話していたのだが、これではかなりの時間を覚悟する必要があるだろう。
ひとまず、二人で列の最後尾に並んだ。
祈りの間に入る頃には、昼を大分まわっていた。
ようやく祈りをささげ終わり、敷地内を歩いている神官様に声をかけると、話が通っていたようで見たての神官様のところまで案内してもらった。
塔に付属する建物の一室に通されると、そう待つことなく神官様がやってきた。
神官様は長い黒髪を後ろで一つに束ね、目元をベールで覆っていた。
部屋の中に入る際に一瞬たじろいだ様に足が止まったけれど、何事もないかのように入ってくる。
なんだったんだろうか。
「お二人が、見立てを希望されていると伺いました」
「はい。こちらと、こちらが紹介状です」
王都のギルドから預かってきた手紙と、こちらがこの町のギルドからの紹介状です。
「中身を改めても?」
「どうぞ」
「ふむ……、ギルドの方が、謝礼は負担される、と」
「はい」
「わかりました。では、どちらから伺いましょうか」
ルークと目が合い、頷く。
事前に決めてきたとおりに、わたしからだ。
ルークの方が、見てもらう際に神官様に負担がかかりそう、というのが理由だった。
「わたしから」
「俺は部屋を出ている。終わったら教えてくれ」
別にルークが同席していても構わなかったけれど、引き留める間もなくルークが出ていく。
ルークなりの配慮だろうか。
気を使ってもらったので、ルークが部屋を出るのを待ってから話し始める。
「えっと、わたしはダンジョンの隙間、というか、変な場所で、ダンジョンの管理者と名乗った方から加護をもらいました。
わたしの師匠に話したところ、その加護をくれたのは数多おられる神のいずれかの一柱だろうとのことですが、神の名も、加護の詳細もわかりません。
わたしは何の加護を頂いているのでしょうか。
せめて、加護を頂いているのが、なんと呼ばれている方なのか知りたいです」
「わかりました」
そう言って、神官様がベールをあげる。
白銀に輝く瞳に、真紅の光彩。
真っすぐに見つめられて、たじろぐけれども視線を受け止める。
「……これは」
神官様の呟きに、ごくりと喉が鳴った。
「ローギウス神……、加護は、魔力強化……しかし、ローギウス神の権能も、わずかに……」
神官様が目を閉じ、前のめりになっていた体が後ろに倒れる。
「大丈夫ですか!?」
「……はい。いつものことですから」
消耗した様子ながらも、神官様は体を起こすと、ベールを下げてわたしを見る。
「では。私にわかった範囲のことをお伝えします」
「はい」
「まず、加護を与えている神は、ローギウス神。変化をつかさどる神ですね。
加護は、魔力強化に見えます。
しかし、ダンジョンで起きたことを考えると、ローギウス神の変化の権能が影響しているのでしょう。
私では、そこまでのことしかわかりません。
どういう形での変化をもたらすものなのかというのは、ローギウス神の神官殿に見てもらうのがよいのですが」
「なにか、問題が……?」
「ローギウス神の神殿は、ないのです」
それは、この町に、ということ?
「場所さえわかれば、どこにだっていきます!」
だって、詳しいことがわからないと、ダンジョン攻略許可が下りない。
「いえ、ローギウス神自体が、神として祀られることを好まず、神殿も作られていないのです。
神官も、ひとところにとどまらず、各地を放浪しています」
「えええ」
そのどこにいるかもわからない神官を探すしかないってことなのかな。
「大体の場所とか……」
「我々にもわからないのです。
不確実な手段であれば、一つご提案はできます」
「なんですか!?」
「この町を見守る山に、知の女神の一柱がおわされます。
女神は、女神の基準を満たす武勇を見せたものに、その知恵をお貸しくださいます。
ローギウス神の神官ではなく、その女神に加護の詳細をお尋ねになるとよいでしょう」
「その女神なら、わかるのですか」
「知の神ですからね。人の理解の及ぶことならば、なんでもお答えくださるはずです」
「ひとつわからなかったのですが、武勇を見せるとは、どういうことですか?」
「女神の所に向かう際に試練があるのです。私たちは試練の道と呼んでいます。
そこをクリアできれば、女神はお会いになるでしょう。
詳しい話は、ギルドでもお聞きになってください」
「わかりました」
そうして、次はルークの番だ。
ルークがそうしたように、わたしも部屋の外に出て待機した。
なんというか、加護が魔力強化っていうのは、驚きだった。
ダンジョンの組み換えが起きたりしたのはもしかしてわたしのせいかもって考えたことはあったけど、単なる魔力強化でダンジョンの組み換えが起こるものなのかな?。
加護をくれた変化の神、ローギウス神の影響も出ているっていってたけど……。
わからない。
謎だ。
ここまで来たら加護の詳細がわかると思ってたのに!
一応、試練の道の先にいる女神さまに会えば、詳しいことがわかるだろうって言ってたけど。
ひとまず、ルークの方の話が終わったら、わたしが女神さまの所に行くまで待っていてもらうよう話をしないとだ。




