4.出立
澄み渡る青い空に、冷たさを帯びた風が駆け抜けていく。
絶好の旅立ち日和だ。
わたしは、王都を出てすぐの街道を歩いていた。
恰好は、動きやすい薄手の上下に、丈夫な靴。
腕にはもちろん、加護を抑えるミサンガをしている。
大物の荷物は師匠が貸してくれているアイテムボックスにしまってるから、結構身軽。
アイテムボックスを持っているってわかると盗賊の標的になってしまうといけないから、一日分の食料と水くらいは、リュックにいれて背負っている。
隣にはニコラスさん。
後ろには、ゲオルクさんとルークが歩いている。
なんでって思うよね?
直前になって大人の事情があるから、ゲオルクさんとニコラスさんも一緒に行くことになったってことを聞いただけで、詳し事は知らないのだ。
チラリ、と横を見上げると、とてもご機嫌な様子のニコラスさんと目が合った。
でも、そんな理由よりも気になることがある。
「その帽子、新しいのですか?」
「お、わかる?」
ニコラスさんが身に着けているのは、白地に黒糸で蜘蛛の巣柄に刺繍された帽子。
帽子全体が一つの蜘蛛の巣のような図案で、縁飾りにアクセントで縁に瑠璃色の羽をもつ蝶の飾りがついている。
正直に言うと身に着ける人を選ぶ帽子だなって思うけど、ニコラスさんにはとても似合っている。
なんというか、とてもミステリアスな雰囲気だ。
そして、わたしに合わせるためなのか、腰をかがめて声を落として続ける。
「これさ、新アペルのダンジョンの素材で出来てるんだ」
「え!?」
新アペルのダンジョンというのは、スタンピード後、階層が増えたダンジョンの方を指す。
確か、ニコラスさんとゲオルクさんは新ダンジョンの調査のお手伝いをしていたと聞いている。
「調査の時に採取した素材で作ったんですか?」
「そう。今回、オレ達、あっちの都合で途中で抜けることになったからさ、詫びに調査中に採った素材を貰っていいって言われたんだ。だから早速作ったの」
「おぉっ!」
「帽子屋の親父が話がわかるやつでさ、まじ最高だよな!」
「すごくお似合いです!」
「だろー!」
でも、「あっちの都合」って何だろう。
もしかしてそうなのかなって思っていたことを聞く。
「わたしとルークだけで法国に行くのが問題だから、ついてきてくださったんじゃないんですか?」
「んー、ま、リリは関係者だからいいか。
ここだけの話、新ダンジョンで、えっぐい効果のアイテムが落ちたんだわ」
「へ、へぇ?」
えっぐい効果のアイテムって、もしかしなくても師匠が言ってた若返りの効果がある黄金樹の実のことだよね。
ニコラスさんが伏せるってことは、知らないふりをしたほうがいいのかな?
「で、この国、王様も冒険者やってるじゃん?」
「あ、はい」
「だから、そっちが主導権握りたいって言いだして、外から来たオレとか、ゲオルクとかはもめ事の種になるから引っ込んでてほしいんだと」
「それって」
「この国にはマヤさんもいるし、あと、ちょーっと、現場でやらかしまくったのもあるかもしれないけどな、リリが気にすることじゃねーよ」
ん?
「あの、やらかしまくったって?」
「だってソロで潜るのは危険だからって一々あっちの黒トカゲと組ませようとするんだぜ」
「あ……」
なんとなく、想像がついたところで、後ろからツッコミが入る。
「その兎耳野郎の言うことは、話半分で聞くくらいでちょうどいいからな」
「ゲオルクさん?」
「はぁなんだと!?」
「おまえがあそこで依頼品まで巻き込んだ大技振るうから、ちょっと頭冷やしてこいって言われるんだろ」
「先に挑発したのはテメーだろ?」
「ふん、忍耐力のないやつめ」
「は、テメーに言われたくねーし」
うわー、なにが起こったのかすごく想像がついたよ。
「あ、でも一緒に来てくださることになって、心強いです、ね?」
無理矢理ルークに振ると、ルークも頷いている。
「俺一人でリリの暴走を止めないといけないと思ってたから、本当助かります」
「え、そういうこと言う!?」
「いや、自覚しろよ」
「具体的に!」
「訓練だけで魔鉱石いくつ爆発させたんだ?」
「うぐっ」
「え、なにそれ? 魔鉱石って爆発するの?」
ニコラスさんが興味津々な様子だ。
ゲオルクさんも、口にはしないが、わたしを見ている。
二人を交互に見て、諦める様子がないのを見て取ると、しぶしぶ師匠の特訓について話をした。
「うっけるー」
ひぃひぃお腹を抱えているのはニコラスさん。
ゲオルクさんは口元が歪んでいて、で笑いを抑えきれていない。
こうなると思ったから話したくなかったのに。
「もし魔鉱石があるならさ、一個やってみて欲しいんだけど」
「……ありますけど、本当に見ます?」
一応、時間があれば練習しよと思って魔鉱石を一袋持ってきてはいた。
「うんうん」
「難しくなければ頼みたい」
そうまで言われたら仕方がない。
けど、周りを見渡すと、ちらほら歩いている旅人がいる。
結局周りに誰もいない時にしてみせる、ということで落ち着いた。




