3.新装備
聖サルバティア法国行きが決まると、それまで穏やかな毎日を送っていたのが嘘みたいに忙しくなった。
長旅に必要な物を考えて、師匠にも聞いてから、ルークと手分けして旅支度を整える。
携帯食料とか、雨避けとか。
回復薬と解毒薬はこの間の残りもあるし、追加分は準備しなくとも大丈夫そうだった。
師匠がギルドと話を詰めて来てくれたところ、法国に行くまでの旅費とか、あちらでの滞在場所、さらには神官の謝礼までギルドが手配してくれることになった。
さすがにギルドが準備してくれるのは見立てができる神官様への謝礼だけみたいだけど、それだって信じられないくらいの厚遇だ。
師匠がいうには、王宮側からも解明を急ぐようにいわれているってことで、遠慮はしないでいいみたい。
あとわたしが必要なのは、見立てが終わった後、神官様への謝礼なんだけど、この間のスタンピードの兆候の発見と、対応に協力した報酬で、ギルドから金貨十枚が支給されている。
だから、そっちはおそらくは何とかなるはずだ。もし足りなければあっちで準備したらいいからね。
準備は着々と進んでいるけど、もう一つ、行く前に準備をしておかないといけない絶対に必要なものがあった。
わたしの加護を抑える装備だ。
そろそろかなって思ってたんだけど、昨日、ようやく取りに来てもいいと連絡があった。
昨日は連絡が来たのも遅い時間だったし、一夜明けた今日、これから師匠と共に取りに行く。
通い慣れた道を師匠と二人、メイサさんのお店に向かう。
道に面した窓越しに、ミアが店番をしているのが目に入った。
こちらに背を向けて何かを商品棚に並べている。
扉をそっと開けると、ミアがこっちを振り向いた。
「いらっしゃいませー」
「こんにちは! 頼んでたのができたって聞いたから受け取りに来たよ!」
「こんにちはー!
リリだー! マヤさんも、お待ちしてましたー」
「お邪魔するよ」
「師匠を呼んできますので、少しお待ちくださいねー」
そう言って、ミアはぺこりとお辞儀をすると、店の奥に消えていった。
それを見送ると、さっきミアが並べていた品になんとなく興味をひかれて、そちらを見に行く。
「これ、なんだろう……?」
三角錐のクリスタルで、中央に赤い矢印みたいな針が入っている。
「へぇ。珍しい。三針儀だね」
「これ何をする道具ですか?」
「目的地を念じて、魔力をこれに込めると、目的地の方向を矢印が指し示すんだよ」
「魔力を込めた後、目的地を変えたくなったらどうするんですか?」
「そのときは、魔力を込めなおすといいんだよ。放っておいたら一日くらいで魔力は抜けるようになっているんじゃなかったっけ。新しいダンジョンが見つかった時とかに重宝する道具だね」
「岩山のダンジョンとアペルのダンジョンのせい、でしょうか…?」
「……だろうねぇ」
「………」
「一個、買ってやろうか?」
じーっと見ていたら、師匠から思わぬことを言われた。
「え!?」
「これも持って行ったら、道に迷っても最悪帰ってはこれるよ」
「えぇ!?」
驚いているばかりの私に、師匠は言う。
「それにね、あまり当てにならないけど、これは人探しにも使えるんだよ」
「人に、ですか?」
「相手のことを思い浮かべて魔力を込めるだけでいい。移動されたらおしまいだけど、それでも近くまではいけるから、案外便利だよ」
そう言われて、ようやく使い道に合点がいった。
「あ、ルークとはぐれたらってことですか?」
「そう。ま、リリが魔力を込める必要があるから、使えるかどうかはリリ次第でもあるねぇ」
その言葉に、がくっと力が抜けた。
「力込め過ぎると、爆発します?」
「きっとしないとは思うけど、試すのはアトリエに戻ってからにしようか」
「……はい」
購入するのは決定みたいで、師匠はお会計用のカウンターに、三針儀を一つ置いた。
そうしている間に、ミアがメイサさんと共に戻ってきた。
「待たせたね」
「いや、懐かしいものが置いてあったから、それを見せてもらっていたよ」
そういって、師匠がカウンターの上の三針儀に目を向ける。
「あぁ、なるほど。これも包むかい?」
「ああ、頼むよ」
「料金は大銀貨一枚だ」
師匠が大銀貨を差し出し、支払いの済んだ三針儀を師匠はアイテムボックスにしまっている。
「それで、それが完成品かい?」
「そう。久々に腕が鳴る仕事だった。お陰でいいものができたと思うよ」
そういって、メイサさんは手に持ってきたものを、広げて見せる。
パサリと広がったのは、白い布地に青い糸で魔法陣が刺繍されたマントだった。
「カッコイイ!」
「喜んでくれて嬉しいよ」
メイサさんから受け取って、体に当ててみる。
当然ながら、サイズもよさそうだった。
「着てみていいですか?」
「もちろん。むしろ、調整が必要かもしれないから、何かおかしいところがあったら言ってほしい」
その言葉に、服の上からマントを羽織る。
「あ。鏡はこっちにあるよー」
「ありがと!」
ミアが大きめの姿見をわたしの方に向けてくれたので、その前に移動する。
うん。長さもちょうどいい。
後ろを向いて、体をひねって後ろを確認する。
うわ。ばっちり。
マントのかっこよさで、わたしもなんだかとっても「できる冒険者」っぽく見える!
「リリは金髪で髪色が明るいから、やっぱり白が似合うねー」
ミアがにこにこしている。
「うん。これ、すごく気に入ったよ!」
「防御の魔法陣も重ねてるから、魔法攻撃とか物理攻撃も少しなら軽減するんだよ。
そのお陰で、白地でも、土埃とかで汚れないようになってるの」
「すごい!」
「わたしも師匠と一緒に一緒に考えたんだよー」
「そうなんだ!」
ミアが一緒に考えてくれたなんて、すっごく嬉しかった。
師匠ははしゃいでいるわたしをにこにこして見ていたけど、ふと気がついたようにアイテムボックスから眼鏡を取り出してわたしをじっと眺める。
「着てみて、魔力を無理やり押さえつけられる感じとか、逆に、魔力がそわそわする感じとかはないかい?」
師匠の言葉に無理矢理心を落ち着けて、わたしは感覚を内に向けた。
集中して探ってみたけれど、問題なさそう。違和感なんて全然なかった。
「はい。大丈夫そうです!」
師匠はメイサさんの方を確認するように見る。
「私の方からも、問題はなさそうに見えるよ」
「そう。私も大丈夫そうに見える。あとは、一回、実戦を試してみて問題なければ大丈夫そうだね」
「そうだね。リリちゃんの場合はそこまでしておいたがいいだろうね」
師匠の言葉に、メイサさんは頷いている。
「ところで、これ、リリに似合ってるけど、町中では目立ちすぎじゃないかい?」
「た、たしかに……!」
冬なら、お洒落で通るかもしれないけど、まだこの季節は、ちょっと仰々しいかもしれない。
「そう言うと思って、こっちも用意している」
そうして差し出されたのは、マントの魔法陣の刺繍糸と同じ素材で出来たと思われるミサンガだった。
ビーズが編み込まれていて、一見するとアクセサリーみたい。
「マントだと、タリスマンと違ってお風呂の時とかどうしても脱がないといけないからね。
普段用にこっちも作ったんだ。
タリスマンより軽いし、負担も少ないと思うよ。
けど、ダンジョンに入ったり、強い魔法を使ったりするんなら、マントを使ってほしい。
マントを脱いで腕をだしてもらえるかい?」
「はい」
言われたとおりにして、手を差し出す。
メイサさんが長さを調節して、留めるための金具をつけてくれた。
「こうしたら、すぐ外せるよ」
着脱の仕方を教えてもらって、自分でもやってみる。
わたしでも、簡単にできる!
「あんまり難しい機能はつけれなくってね。
マントを着てても、こっちも仕事をしちゃうから、強い魔法を使う時は外さないと壊れちゃうからね」
「わかりました!」
「これで、一通り確認は終わりかな」
「はい!」
「何かあったら、すぐにもっておいで」
「わかりました!」
そしてマントを改めて受け取った。
気がつくと、師匠が改めてメイサさんにお礼を言っていたから、わたしも感謝の気持ちを伝える。
「いいものを作ってくれてありがとう」
「大事に使います! 師匠も、ありがとうございます」
「私もいい仕事ができて嬉しいよ。
もうすぐ、法国にいくってきいてるよ。リリちゃんが存分に暴れても大丈夫なように作ってるから、安心していいからね」
「ちょ。無理矢理暴れなくていいからね」
メイサさんのどこまで本気かわからない言葉に、師匠が慌てている。
ミアは、珍しい師匠の様子に目を丸くしている。
「もちろん、わかってます! でも、暴れても大丈夫っていってもらってると、とっても心強いです!」
「リリちゃんも成長してるんだねぇ」
「そうかねぇ? 暴れる前提な気がするよ」
しみじみとつぶやくメイサさんに、師匠は脱力している。
「じゃ、また何かあったらお願いするから、その時は頼むね」
「私も腕を磨いておくよ」
「リリが帰ってくるの待ってるから、気を付けていってきてねー!」
「うん! ありがと!」
そうして、まだ日が高いから、一度草原兎相手に実戦をして、師匠のアトリエに帰宅した。
もちろん、問題があるはずもなく、マントを着て狩った草原兎は翌日の夕食に持って帰った。




