2.師匠からの呼び出し
「失礼します」
ノックをして研究室に入ると、中には師匠とルークが座っていた。
師匠は鮮やかな赤毛を珍しく高いところで束ねている。
もしかして、何か調合の途中だったのかもしれない。
「またやらかしたみたいだねぇ」
言葉のわりに師匠はほほ笑んでいて、むしろ面白がっている感じだ。
さっきの爆発音、結構響いていたから、当然師匠にも聞こえたのだろう。
「はい……。なかなか成功しなくって」
「あんまり焦っても仕方ないからねぇ。
さ、話があるんだ。そっちに座って」
ルークの傍に座ると、師匠は手紙を取り出した。
「ギルドから、アペルのダンジョンの件で、手紙が届いた」
「何て書いてあったんですか?」
「アペルのダンジョンが三十階層になって、ボスが黄金樹と三つ頭を持つ蛇の魔獣に変わったようだ」
アペルのダンジョンはもとは十五階層だったはずだ。
三十階層なんて、その倍もある。
ボスも変わったって、……ん?
何か、聞いたことのない名前が聞こえたような。
「黄金樹、ですか?」
「この間スタンピードの時にリリとルークが倒した木をそう名付けたみたいだね。三つ頭の蛇の方は毒もちらしい。こっちは新種で、名前はまだ決まっていないそうだ」
「……うわぁ」
毒もちのボス、しかも新種なんて、とても厄介そう。
毒が付与された攻撃を受けた時、解毒薬とかどうするんだろう。
「じゃ、巨大針熊はもう出ないんですか?」
「あそこまでは大きくないけど、そこそこ大型のが中ボスで十五階に出るようになったそうだよ」
「えぇ……」
針熊はただでさえ厄介なのに、それが大型。それが中ボス。
あそこのダンジョン、ますます人が寄り付かなくなってしまうんじゃないだろうか。
「けど、それがわざわざ手紙で知らせる内容だったんですか?」
ルークの疑問に、師匠が頷く。
「一番問題なのは、黄金樹の実に、どうやらランダムで若返り効果があるらしい」
「え!?」
「は!?」
固まるわたしとルークに、師匠も水色の瞳を困ったように伏せた。
「何を基準に効果が出るかはわかっていないらしいけれど、本当だそうだ。
王宮の方から早急に解明するように、ってお達しだ。
私の方にも協力要請が出てしまったよ。
ただね。ダンジョンの組み換えが立て続けに起こって、しかも、組み換えのおこったダンジョンが急激に力を増すなんて今まで起こったことはない。
王都の岩山のダンジョンに続いて二度目だ。
リリとルークの件についても、早めに解明してほしいそうだ」
「どうやって、ですか?」
「二人には、聖サルバティア法国にいってもらうことになった」
「えええ!」
驚くわたしの横で、ルークも目を丸くしている。
「そのうえ、太っ腹にも、聖サルバティア法国行きの援助もしてくれるそうだから、悪い話ではないんだよ」
「援助ですか?」
「ルークは、その呪いをなんとかできないか、あっちの神殿に便宜をはかってくれるそうだ」
師匠の言葉にルークは目を見張っている。
「リリに関しては、見立てを行える神官への紹介状をくれるそうだ。
ただ、私はこっちでダンジョンの調査に協力してほしいってことだから、二人に付き添うことはできない」
師匠が来られないということと、聖サルバティア法国が遠いこと以外は、悪い話ではなかった。
わたしの加護は早くはっきりさせないといけないし、ルークも、師匠がなんとか進行を抑えてるけど、専門家に見てもらえるってことだもんね。
わたしに加護をくれた管理者と自称していた人物については、アペルのダンジョンで出会ったヴヴスナが『狭間にて遊ぶもの』なんて言っていた。
スタンピードの後片付けが落ち着いてから王都の神殿に問い合わせてみたけれど、残念ながら、その名からは何も判明はしなかったのだ。
人には知らされていない、あちら側の呼び名なのだろうということだった。
「俺は、構いません。むしろ、嬉しいくらいです」
「リリは?」
言われて、考える。
師匠がこれないのは不安だけど、わたしももうDランク。
師匠にずっとついてもらってなくたって、大丈夫。
それに長距離の旅に出るのは初めてだけど、楽しそうでもある。
「わたしも、行きたいです!」
元気いっぱい返事をするわたしに、師匠はちょっと悩む様子だ。
「私がついていけないのが不安なんだけど、あんまり過保護にするのもねぇ。
じゃ、そう返事をするよ」
「お願いします!」
師匠がぼそっと、「弟子離れ、考えないといけないのかねぇ」って言ってたけれど、
そうして、わたしとルーク、二人の聖サルバティア法国行きが決まった。




