1.師匠からの課題
窓から入ってくる風が、夏の終わりを告げていた。
外は良く晴れていて、風は冷たいけれど、室内は少し蒸し暑い。
そんな中、わたしは額を伝う汗が気にならない程、手の中の結晶に意識を集中させていた。
手の中には、輝きを帯びた透明な結晶があった。
魔力を注ぎ込むほどに輝きを強め、少し影の差した室内を輝かせている。
完成まであともう一息。
ここまで、順調。
ここでとめてもいいかもしれない。
でも、もう少し、行ける気もする。
そうして、直感の通り、もう少しだけ魔力を注いだ後に、魔力を注ぐのをやめた。
「でき、た……?」
けれど、タイミングが遅かったのか何なのか、手の中の結晶は、魔力を注ぐのをやめたというのに輝きを強めていく。
「え、これ、やば!」
爆発の兆候に、急いで窓際にいくとできるだけ遠くに放った。
結晶は綺麗な放物線を描き、その頂点を過ぎたところで、その結晶は大きな音を立てて爆発した。
「ふぅ、……間に合った」
高いところで爆発したからか、師匠の薬草園に被害もゼロ。
よかった。
先ほどまで魔力を注いでいた結晶は、魔鉱石といって、魔力を溜めて置ける鉱石だ。
注がれている魔力の量によって、結晶の中心部の光の強さが異なるから、一目でどのくらいの魔力が残っているかわかりやすく、色々な魔道具のエネルギーとして使われている。
この魔鉱石に出来る限り魔力を注ぎ、最大限の輝きを引き出す、というのが師匠の指示で取り組んでいる課題だった。
でも、なんでか、一向に成功しない。
正体不明の加護による全体的な能力増加状態には大分慣れたはずなので、その影響ではないはずだ。
爆発するのは、十回に一回くらいに減ったのだけれど、全然成功する気配の見えない訓練に、投てき技術だけが上達している気がする。
アペルのダンジョンのスタンピードから約二ヶ月。
残念なことに、まだアペルのダンジョンはまだ休眠中で、ギルドからのダンジョン立ち入り禁止はまだ継続中だった。
暇を持て余していたわたしに、師匠がならばこの際、苦手な魔力のコントロールをもう少しできるようになるようにと、訓練をすることになった。
やり方を聞いて、師匠がやってみせてくれた様子だと簡単そうだなって思ったのに、まだ一度も成功できていない。
たいていは今みたいに魔力を注ぎすぎて爆発させてしまう。
ここ一か月くらいの間で、一体どれだけの魔鉱石を爆発させてしまったろうか。
満杯には、ほんのわずかに足りないかも、くらいの魔力を注いだものはさすがに爆発はしないけれど、それでは師匠から合格がでない。
きっちり最大量、注ぐまでは合格は出さないと言われている。
「なんで爆発しちゃうんだろ?」
考え込んでいると、扉からノックの音が響いた。
返事をすると、黒髪に金色の瞳をした背の高い青年、ルークが顔を出す。
「おい、リリ、無事か?」
「うん、大丈夫。わたしも、部屋も無事だよ」
「ならいいけど。マヤさんが呼んでる。研究室」
「わかった。すぐいくー」
ルークは巨人族とのハーフの青年だ。
わけありっぽく、右腕が呪いを受けていて、師匠を頼ってやってきた。
最初はすごく禍々しい気配が右腕からしていたけれど、師匠が何かしたみたいで、今は気配が抑えられている。
呪いの解除のためにも、きっと早くダンジョンにいきたいはずなのに、ルークはあんまり焦った様子を見せない。
会うたびに、原因がわたしだけのせいだったら申し訳ないって気持ちが湧いてくるから、ルークが平気そうな様子をしているのは、ありがたくもある。
師匠に相談したら、せめてわたしの加護がわかってから話すようにと言われてしまったし、当分、伝える機会はなさそうだった。
確かなことが何一つわからない状態で、不確かなことを言って取り返しのつかない事態にもなってほしくない。
この期間、ルークはルークで王都に降りてギルドで手伝いなんかをやっているみたいで、完全に無駄な時間を過ごしているわけじゃないことに、ほっとしていた。
あーあ。
わたしも折角Dランクになったんだし、早くダンジョンに行けるようになりたいな。
あ、師匠に呼ばれているんだった。
服についていたほこりを払って、部屋をぐるっと見渡して、危ないものを出しっぱなしにしていないことを確認してから師匠の所に向かった。
年内は週一更新予定です。




