44.リリ、打ち上げに参加する+α
夕刻、師匠がギルドの扉を開けて、やってくるのを見つけた。
用事があるみたいで、片手を上げて待っているように言われ、師匠は納品カウンターに寄った後、わたしたちがいるところにやってきた。
「ほらこれ! 見てください!」
「星ひとつ、ついたんだね。おめでとう」
「ルークも! ほら!」
私の勢いに若干引いてるルークを師匠の前に押し出す。
「俺も、昇格しました」
「ルークもおめでとう!」
「……ありがとうございます」
「二人とも活躍してたし、当然と思うよ」
「師匠!」
「これからも精進するように」
「はい!」
元気よく返事をすると、師匠がうんうん、って頷いてくれている。
「それじゃ、待たせて悪かったね。私たちも行こうか」
ギルドの外に出ると、完全に日が暮れていた。
日は沈んでいるけれど、通りに色とりどりの《灯光》が灯され明るく照らされている。
普段は見ない美味しそうな屋台も出ていて、まるでお祭りのような賑やかしさだった。
通りは完全に飲食地帯になっていて、テーブルと椅子が出ていて、すでに酒盛りが始まってる人たちも結構な数いる。
ギルドの中にずっといたから、こんなに盛り上がってるなんて気がつかなかった。
「結構出来上がってる人も多いですね」
「だねぇ。適当に開いてるところに、座ろうか」
「はい!」
きょろきょろしていると、師匠がいう。
そうして、ギルドにほど近い場所の、美味しそうなお肉を焼いてる屋台の前に落ち着いた。
ギルドのタグを見せて、お肉の串と、師匠はお酒、わたしたちはジュースを注文して、乾杯する。
「リリとルークの昇格に乾杯!」と師匠。
「スタンピードの、えーと、終結に乾杯!」とルーク。
「みんなの活躍に乾杯」とわたし。
そうして、それぞれで杯を干すと、食事に入る。
しばらくは、そうして食べて飲んでってしていたところで、ギルドの前が騒がしくなった。
モーゼスさんが出てきたみたいだ。
「おまえら―! 盛り上がってるか―!」
「おー!」
拡声魔法を使ってるみたい。
モーゼスさんの声に、出来上がった冒険者たちの返事が聞こえる。
「てめーらの活躍で、なんとかスタンピードをしのぐことができた! 礼を言う!
今日は難しいことはなし! 飲んで! 食って! 騒ぐだけだ!
けどよー! 借り上げてんのはここの区画だけだからなー!
他で騒ぎを起こすなよー!」
「わかってらー!」
「じゃ、俺たちの勝利を祝って! 乾杯!」
「乾杯!」
町の至る所で、乾杯の言葉が響く。
「じゃ、俺も後で回るからなー! そん時は頼んだぞー!」
そして乾杯の後は、さらに騒ぎ声が大きくなっている。
みんな酔いが回ってきているのか、あらゆるところで、無礼講が始まっているみたいだ。
「ああん? お前もういっぺん言ってみろや」
ニコラスさんの声が聞こえて、そちらを見ると、何やら喧嘩?が始まっていた。
「『俊足のイーグ』だかぁなんだかぁ知んねーいがぁぁぁ、帽子なんかにぃぃぃこだわる女々しいやつぅぅぅよりオレの方が強いっていってんだぁぁぁ」
大分ろれつが回ってない声と、ニコラスさんの喧嘩みたいだ。
珍しくけんか相手がゲオルクさんじゃないみたいだ。
「よっしその喧嘩かったあああああ」
「星よっつだかぁなんだかぁしらねーがぁ、いいぜぇぇ、そのおきれいなツラ地面に這いつくばらせてやるぅぅ!」
「お前の方こそ俺に喧嘩売ったこと後悔させてやるぜ」
「おまえら、今日は無礼講だが、喧嘩で店に迷惑はかけんなよ」
ゲオルクさんの冷静なツッコミが入る。
「ああん? やんのか黒トカゲ」
「それはこっちのセリフだ口だけ兎」
「おい! こっちでニコラスとゲオルクと誰だ? 名前は知らんが誰かの飲み比べが始まったぞー!」
「お、まじかよ!」
一瞬、師匠が腰を浮かしかけていたけど、どうやら飲み比べに落ち着いたみたい。
再び腰を下ろしていた。
「楽しんでるか?」
そうしている間に、頭上から声が降ってきた。
振り返ると、モーゼスさんが立っている。
「お陰様で、いい酒を飲んでるよ」
「そりゃよかった。ここ座っていいか?」
「どうぞ?」
モーゼスさんは空いてる椅子を持ってきて、どかりと座った。
「お前たちもご苦労だったな。乾杯!」
「乾杯!」
グラスをあわせる。
少し話したところで、ルークと一緒に、食べ物を取りに行くことにした。
遠目から見ると、師匠とモーゼスさんはなかなか盛り上がってるように見える。
これは、しばらくしてから戻ろうかな。
ルークと一緒に端まで屋台を見に行って、折り返して気になったところの料理をもらって、師匠の所へと戻った。
モーゼスさんに気を使って席を外したのに、帰ってきたころにはなぜかあっちで飲み比べしていたはずのニコラスさんとゲオルクさんもやってきて、盛り上がっていた。
「そんで、そん時俺がなんて言ったと思います?」
「どうせまた帽子関連だろ」
「ああん? 文句あんのかぁ?」
「別に」
ニコラスさんが前に踏破したダンジョンの話で盛り上がってるみたい。
ぼそりとしたツッコミは、一人で酒樽を抱えているゲオルクさんの声だ。
「そういうわけで、オレの話は以上です。
ふぅ、熱く語りすぎちゃいましたかね」
「面白かったよ」
「ああ」
「戻りました」
「ああ、おかえり」
そうして、ルークと一緒にとってきた皿をテーブルに並べる。
「お、うまそうなやつあるな」
そういって早速ニコラスさんが手を伸ばしている。
それを横目に、モーゼスさんがグラスを手に取った。
「しっかし、やっぱ夜とはいえまだ暑いな」
モーゼスさんがそういいながらなみなみとあるエールを飲みほした。
「なに、暑いのかい?
ブリザードでも吹かせれば涼しくなるけど」
「うっわー、冗談に聞こえねー!」
「本気だよ。ほら。
我が魔力を糧に、ここに雪原の女神の降臨を――」
「し、師匠!? さすがにここでそれはまずいです!」
「あはは! 冗談だよ!」
「紅蓮の魔法使いマヤが酔ってる! 誰か止めろー!」
「師匠ー!?」
そうして、楽しい夜は賑やかに更けていった。
* * *
同じころ、某所。
黒い蛇の形をしたモノは、見目麗しい青年に嬉し気にまとわりついていた。
「テテサマ」
「帰ったのか。ヴヴスナ。
外は何か面白い物でも、あったか?」
「『ハザマにてアソぶモノ』のカゴをモツモノをミツケタ」
「ほう」
「『カッソウするモノ』のノロイをヤドすモノとトモにイタ」
「へぇ。その話は予言にはなかったな」
「カゴをモツモノ、カゴ、オサエテたカラ、ダンジョンノマモリテ、ケシカケテ、ミタ」
「どうなったの?」
「マダワカラナイ。デモキット、オイシイ、アペルノ、ミ、ナル」
「なるほどね。よくわかったよ。ありがとう。
単に予言されるほどの事象でもない、というにしては、起きている現象が大掛かりだな。
これは気まぐれか。あるいは」
何かを考え込む声に、ヴヴスナは甘えるように頭を傾ける。
「ヴヴスナ、ヤクにタツ?」
「ああ。とても。ありがとう。また、何かあれば教えてほしい」
「ウン!ウン!」
* * *
荒野を二人の男性が歩いていた。
一人は、壮年に近い男性でマントに帽子をかぶっている以外は大きな荷物もない。
もう一人は、長い白い髪を一つにくくった赤い瞳の青年だ。
水場もなく、近くの村に辿り着くのでさえ最低三日は歩く位置にいるというのに、どちらも軽装だ。
ここにリリがいたら、あの管理者の青年だと気がつくだろう。
けれど、ここには誰もいなかった。
「呼んだというのに随分時間がかかったな。どこへ行っていた?」
「あなたに与えられたお役目を果たしに」
「という割には随分遊んでいるようだが」
「おや? 私がこんな性格なのは、わかっていてお役目をくれたのではないのかい?」
「言わずもがなのことを」
「あなただって珍しいものを集めているじゃないか」
「あれは遊びではない」
「そのコレクションがなにに必要なのか、ちょっとくらい教えてもらえたら真面目になるんだけどなぁ?」
青年はわざとらしくおもしろげな声で男を問う。
「余計な詮索は不要だ」
けれど、男の返答はにべもなかった。
「失せろ。用があればまた呼ぶ」
その言葉に、礼をもって、白い髪の青年は姿を消した。
荒野にはただ一人、壮年の男性のみが、粛々と歩みを進めていく。
第一章 完
これにて一章完となります。
二章は、聖サルバティア法国にお出かけ予定です。
リリの加護がどんなものなのか、もっと詳しくわかるはず!
ひとまず2〜4週間ほどお休みを頂き、再開できればと思っています。




