43.リリ、昇格する
あれから。
後片付けでは、わたしも師匠と一緒に素材採取後の魔獣の体を燃やしたりして手伝った。
放置すると、ゾンビになったりするし、野生の魔獣引き寄せたりしてよくないからね。
そうして回収した素材は一括ギルドが回収して、今回の費用にあてられるみたい。
巨大針熊戦前にそれまでの素材は消えちゃったけど、わたしたちが戦ってる間に出てきた魔獣だけでもかなりの数になるから、足は出ないと思うとモーゼスさんと師匠が話していた。
特に最後に出てきた巨大針熊の素材はかなりのものになりそうで、今回手伝った冒険者にも補填があるだろうだって。
金桂樹の方も残っていたら何かに使えたのかもしれないんだけど、燃やしちゃったから素材はほぼ残っていない。
後片付けの時に、《風ノ嵐》で飛ばした葉が少しとアペルの実が三つ見つかって、収穫と言えばそれくらいだろうか。
あのアペルの実には回復効果があるのかな。
そのあたりも、研究されるって聞いている。
魔獣の山から使えそうな素材をはぎ取ったり、拠点とか柵や塹壕を元に戻すと、他はみんなそれぞれ王都へ帰還することになった。
休眠に入ったダンジョンは、ギルドから交代で職員さんが見張りにつくそうだ。
また、始動したら、高ランク冒険者に探索の依頼が出るのだろう。
後片付けを何日か手伝った後、わたしたち三人は師匠の《転移》を使って師匠のアトリエに帰還した。
来るときはモーゼスさんも一緒だったけど、ギルドの職員さんに指示もあるからって、別行動となった。
わたしは帰ってきてから交代で湯を浴びたあと、泥のように眠って、あとはのんびりと元の生活に戻っている。
師匠もさすがにお疲れみたいで、戻ってニ、三日は錬金もお休みしていたみたい。
「あっという間に一週間経っちゃったね」
「そうだな」
わたしはルークと朝の鍛錬を終えて、ギルドに向かって歩いていた。
折角の鍛錬だけど、たいしたことはできていない。
実は、また魔法を使用禁止になっている。
後からわかったことだけど、あの戦いの中、メイサさんに作ってもらったタリスマンが壊れてしまっていた。
確かに、近くでピシリっていう不穏な音が何度かしてたし、最後に金桂樹に《火炎撃》を撃ち込んだ時には、いつもより明らかに火力が出ていた。
でもそれをそれがタリスマンが壊れてしまっていたからだなんて思わなくって、後で知って青くなった。
記憶がある限り、最後に音を聞いたのが《風ノ嵐》の時だったから、その時に壊れたんだと思う。
師匠の見立てだと、連続使用に耐えられなかったんじゃないかって感じみたい。
草原兎の額石自体、そこまで強度があるものじゃないから仕方ないし、他に被害がないみたいでよかったって言ってくれたけれど、メイサさんに頼んでいるものが出来上がるまでは魔法は使用禁止になってしまった。
モーゼスさんには、変わったことがなかったか、念のため確かめるために師匠が手紙を届けてるけど、返事は来ない。
それと関係しているかはわからないけれど、今日は打ち上げの前に来るようにって呼び出しがあったから、それと関係してたらどうしようってドキドキしてる。
「ギルド、何の用事だろうね」
「さぁな?」
あんまり怒られるようなことじゃないといいな。
夕方から始まる打ち上げが心の支えだ。
なんでもギルド周辺の飲食店すべてをギルドで借り上げて、打ち上げをするらしい。
まだ後始末は完全には終わってないみたいだけど、あまり遅くなっても冒険者も、ダンジョンに潜っちゃうし、このくらいのタイミングでそうするのが今までの伝統なんだって。
打ち上げはアペルのダンジョンまで遠征した人たちはもちろん、王都の居残り組も、資源の供給をいつも通りになるよう頑張ってもらっているから、冒険者カードを持つ人は全員参加資格あり。
王都中の冒険者が呼ばれる大掛かりなものになる。
「打ち上げは楽しみなんだけどな」
「そりゃな」
「全員参加オッケーだなんて、太っ腹だよね。
でもどんな風にするのかなぁ」
「行けばわかるだろ」
「そうだけどさ!」
そう言いながらも、ルークも気になるみたいだった。
ギルドの前の通りは、色々屋台とかの準備が進んでいて賑やかだ。
それを見ながらギルドにつくと、今日はダンジョンに潜ってる人たちも少ないみたいで、そこそこ人がいた。
みんな夕方から始まる打ち上げについての会話でもりあがっているみたいだ。
それを眺めながら、受付の列に並ぶ。
「えっと、ギルドから呼び出しが来たのですが」
ギルドから届いた手紙を渡すと、中を見た受付のお姉さんが確認を取る。
「リリさんとルークさんですね」
「はい」
「そうだ」
「少々お待ちください」
そうやって手元の紙をめくった後、お姉さんは嬉し気に告げた。
「おめでとうございます!
今回のスタンピードへの貢献でお二人のDランクへの昇格が決まりました!」
「え!」
驚きの後に、喜びが込み上げてくる。
「やった!!!」
隣を見ると、ルークも驚きの中に喜びがにじんでいる。
「ただ、残念ですが、お二人の王都のダンジョンへの立ち入り禁止は、まだ継続しています」
「そう、ですか」
せっかくDランクになったのになぁ。
確かに、師匠といったアペルのダンジョンではスタンピードのせいでろくな検証もできなかったし、仕方ないのだけれど、まだしばらくは王都の中級ダンジョンに入れるのは先になりそうだ。
「ひとまず、タグに魔石を埋めますので、出して頂いてもよろしいですか?」
そうして、ルークと二人、ギルドのタグを外して渡す。
「出来上がったらお呼びしますね」
そうしてお姉さんは奥にタグを持って行った。
椅子に座って、ぼんやりと周りを見ていると、扉についているベルが鳴ってまた誰かが入ってきた。
「あ、ヤっさん!」
「お、リリとルークか!」
ヤっさんはやってくると、あまっている椅子に座った。
「もしかして、ダンジョンいってたの?」
「ああ。打ち上げは今日の日暮れからだから、何日か前から籠ってた」
「わー! 仕事熱心!」
「それより聞いてるぞ! 二人ともどえらい活躍したんだって?」
「えへへー! 私たちも活躍はしたけど、やっぱり師匠とか、ゲオルクさんたちとかの高ランク冒険者がすごかったけどね!」
「お、ちょっと大人になったな」
「そういうヤっさんは?」
「そういう意味じゃねーよ。俺は商会の仕事もあるし、居残り組だったよ」
「あ、やっぱりそうなんだ。向こうで見かけなかったからそうかもとは思ってたけど。王都はどうだったの?」
「納品は量を納めないといけなくて、いつもよりちょっと大変だったけど、それ以上に人が少なくて、すっげーやりやすかった」
その言葉に、思わず笑ってしまう。
「今は?」
「アペルのダンジョン帰りの連中がボチボチ復帰してきて、もとに戻ってきたかな」
「残念」
「ま、仕方ないさ。じゃ、またあとで会うだろうし、そん時にゆっくり話をきかせてくれよ!」
そういうとヤっさんは納品カウンターの方に歩いて行った。
わたしたちもその後に呼ばれて、受付の方に向かう。
「お待たせいたしました。こちらになります」
そうして差し出されたのは、一つだけ埋め込まれた魔石が輝くギルド証。
「ありがとうございます!」
受け取って、確認するとすぐに身に着ける。
ルークはと見ると、同じように身に着けている。
何でもないような顔を装っているけど、口元が緩んでいて嬉し気にしているのはばればれだった。
まだ王都のダンジョンに入れなかったり、加護の詳細がわからなかったり、問題はあるけど、一歩前進すると思うと、嬉しさが込み上げてくる。
早く師匠に見せたいなぁ。
師匠も夕方にはこっちに来るはずなので、きっともうすぐ会えるのだけれど、報告するのが楽しみで仕方がない。
日暮れまで、あと半刻ほどだ。




