40.リリ、スタンビードに対処する3
ダンジョンからの魔獣の排出は、それから丸一日続いた。
何度も前線に出て、後ろに戻って回復してもらって、という繰り返しをして迎えた二日目の昼。
わたしを含め、戦闘にあたっている冒険者のみんなはボロボロだ。
幸い、回復魔法と回復剤で怪我で動けなくなるような人や命を落としてしまった人は出ていないけれど、装備は戦闘の激しさを受けて痛んでいるし、疲労もたまっている。
あと、どのくらい続くんだろう。
つい弱音が漏れそうになる頃、ついにダンジョンが沈黙した。
「よっしゃ、終わりか!?」
「しんどすぎるだろ」
「いや、待て、まだボスが出てない」
その言葉に呼応するように、そこかしこにある処理が追い付かない魔獣の死体の山が、淡く光ると、一つに集まっていく。
「まじかよ」
冒険者の困惑した声が響く中、一つに集まった淡い光が、わたしたちとダンジョンの入り口の間に大きな木を形作る。
一瞬でここに現れたとは思えないほどの巨木で、三十メル程だろうか。
金色の幹に、トゲを持つ厚みのある濃い緑の葉が茂っていて、葉の間から赤みがかった金色の実が覗いている。
もしかして、あれが金桂樹と、金のアペルかもしれない。
その前には一体の巨大な針熊。
体長は巨木の半分に満たない位。
十メルは超えていそうで、もはや巨大針熊と言いたいぐらいの大きさだ。
同時に、ダンジョンの入り口からこれまでに見た封蜂や針熊、幻影鹿、茶毒蛇の群れが吐き出される。
「まだ残ってたのかよ」
「タイミング合わせてくるとかまじひでぇ」
「てかあのサイズの針熊とかどうやって倒すんだよ」
「針がかすっただけで死にそうだよなぁ」
テンションが下がっている戦場に、後ろからモーゼスさんの声が響く。
「おらてめぇら。たぶんこれが最後だ! 気引き締めていくぞ!」
「おー!」
それでも上がり切らないテンションに、モーゼスさんがさらに声を張り上げる。
「終わったらギルドの経費で打ち上げするぞぉ!」
「よっしゃタダ酒!!!」
わかりやすくテンションがあがった人たちが多数いて、戦意は持ち直した。
「けどこの数の群れ、下手すりゃ交代ができずに前線のやつらがつぶれるぜ」
「あれ相手にしながら大物の相手とか無理だろ」
小さな声だけれど、冷静な指摘を近くの誰かがしているのが聞こえた。
確かに、今までとは違い、ダンジョンはかなりの数の魔獣を吐き出し続けている。
せん滅が間に合わないうちに後続の魔獣が押し寄せて、前線が崩壊するとかありそうだ。
「仕方ねぇ。マヤ、援護頼む!」
モーゼスさんの声が響いた後、続いて師匠の声が響く。
「了解。じゃ、まずは第一陣、行くから仕留めそこなったやつを頼むよ!」
この間ルークとダンジョンに潜った時に見たのと同じ、けれど大量の《氷の矢》が飛んでくる。
そして、半分ほどの魔獣が一掃された。
ひゅーとか、よっしゃーとか、歓声が響くけど、その声にモーゼスさんが大声を放つ。
「おら、最後のひと踏ん張り、頑張ってもらうぜ! 頼んだぞ!」
「おー!」
戦意は持ち直したみたいだった。
「Aランクのやつらは大物メインで頼む。
他に勇姿を俺に見せたいってやつは、大物にかかれ!」
その言葉に、ゲオルクさんとニコラスさん、あとは名前は知らないけれど強そうな人が飛び出していく。
巨大針熊は彼らの攻撃をもろともせず、何かを探すように、こちらを見下ろしている。
なんだろう。
さっきの《氷の矢》を放った人を探しているんだろうか。
大きいだけあって普通サイズの針熊より動きがとろい気がする。
けど、なんか、こっちを見てるよね?
あ、何か、巨大針熊と目が合った、気が、する……?
なんだろう、と思う間もなかった。
巨大針熊の背が金色に光って、え、あれ、もしかしなくても、背中の針山から針を発射する合図!?
あんなの、降ってきたら困る!
わたしは急いで《火炎撃》を、わたしを標的にしている巨大針熊の顔に打ち込んで、前へと駆け出す。
後ろにはまだたくさんの一緒に戦ってきた仲間がいる。
誰もいない所に行くには、前に出る方が近い。
巨大針熊はひるんだみたいで、トゲはまだ飛んでこない。
「はぁ!? リリ!?」
どこからかルークの声が聞こえた。
声をした方を振り向こうとしたところで、巨大針熊がうなり声をあげて、突進してくる。
「《火炎撃》!」
一度使った攻撃だからか、咄嗟に放った《火炎撃》に全然ひるむ様子はない。
あ、これ、ぜったい絶命ってやつかも?
「リリ!?」
師匠とルークの叫び声も聞こえる。
その時だった。
「おいおい、お前の相手はオレらだっつーの」
「《烈火爆炎突》」
「ふん!」
ニコラスさん、ゲオルクさん、巨大なハンマーを持った人がそれぞれの巨大針熊を止めてくれた。
た、助かったー!
「おい! ひよっこが! 下がってろ!」
ゲオルクさんの怒声に首をすくめる。
けど、巨大針熊は、ゲオルクさんたちに前足で薙ぎ払いをかけ、まだわたしの方に向かって来ようとしている。
「待て、こいつらのターゲットが、あの子から移動してない」
「はぁ!? そんなんありかよ!」
一瞬ダンジョンから出てくる魔獣と戦ってる人たちのところに戻ろうかとも思ったけど、ターゲットがわたしから動いていないなら、やっぱり前に出た方がいい。
「仕方ねぇ! ターゲットが外れるまで、そのままおとりを頼めるか!」
「はぁ!?」
ニコラスさんも同じ結論みたい。
ゲオルクさんが信じられないみたいな声を上げるけど、わたしは迷わず返事をしていた。
「わかりました!」
「じゃ、ひとまず、逃げるのを第一に!
なるはやでこっちは終わらせる!」
「はい!」
ニコラスさんの言葉に返事をすと、ゲオルクさんが噛みついている。
「ニコラス、てめぇ勝手なことばっか言いやがって!」
「けどそれが一番早い。オレらが頑張ればいいだけの話だろ」
「っけ、口だけにならないようにしろよ。無理と思ったら言えよ!」
「はい!」
そして最終戦が始まった。




