41.リリ、スタンビードに対処する4
逃げるなら、できるだけダンジョンから出てきている魔獣と戦ってる人たちから離れるように、そしてニコラスさん達が戦いやすい方に逃げよう。
ニコラスさんたちも、わたしが巨大針熊を引き付けて、背中を向けているところを攻撃した方がやりやすいはずだ。
動ける範囲は狭まるけれど、ひとまずはダンジョンの入り口から引き離すように、誰もいない方に向けて進路を取る。
走るわたしにルークが追い付いてきた。
「お前何考えてるんだよ!」
「あの集団の中にいて針飛ばされる方が危ないって思ったんだもん」
「それはそうだけどな! 心臓に悪い!」
魔獣の群れを避けて走りながら言い合う。
師匠の《氷の矢》が間隔を開けてダンジョンから出てくる魔獣を一掃してくれている。
おかげであっちの前線は崩壊せずにすんでいるけど、師匠の援護は落ち着くまで、期待できない感じだ。
「ルークこそ、なんで来たの?」
「……一応今のところ俺たちはパーティだろ」
「……、うん」
そうして走っていると、後ろで、爆音が響く。
後ろを見たら、巨大針熊の正面にハンマーの人が立って、ゲオルクさんとニコラスさんがそれぞれ攻撃をしたところだったみたい。
ニコラスさん、ゲオルクさんと続いてハンマーの人が大技をいれた。
巨大針熊は倒れはしないけど、大ダメージ!
さすが強い!
Aランクなら、王都の中級ダンジョンのボスなんかも倒せるくらいの実力はあるだろうし、この調子なら、余裕!と思った時だった。
巨大針熊と同時に出現した巨大な金桂樹の木がざわめく。
わたしの方に向かってきていたはずの巨大針熊は、金桂樹目指して駆けて行った。
そうして、二本足で立ち上がると、赤みがかった金色の実をもいで、食べる。
「へ?」
「わ!」
「はぁ!?」
「は!?」
突然の行動にわたしたちは巨大針熊の一連の行動をみていただけだった。
巨大針熊は、一瞬金色の光に包まれると、次の瞬間、先ほどニコラスさんたちが与えた傷を一瞬で治癒していた。
え、なに、どういうこと!?
あの金桂樹の実で、回復したの!?
驚くわたしたちに構わず、巨大針熊は再びわたしの方に向かってくる。
「なにあれ!?」
「全快しただと!」
混乱してるわたしたちに、巨大針熊は待ってくれない。
「先にあっちを倒すぞ!」
ゲオルクさんが一早く立ち直り木の方に向かって行こうとするけど、そうした途端巨大針熊が進路を変えてゲオルクさんに向かっていく。
「くそっ!」
「はぁまじか! こっちにくるわけ!?」
ゲオルクさん、ニコラスさん、ハンマーの人が驚愕しながらも巨大針熊の相手をしている。
打ち合わせたわけでもないのに連携を取っていく彼らの戦闘にわたしではまだ入り込めない。
「ルーク」
「?」
「わたしたちがあの木の対処をしよう」
「そうだな」
「こっちはわたしたちが引き受けます!」
「助かるけど無理はするな!」
走る方向を変えると巨大針熊はわたしたちを気にした様子だ。
けど、ニコラスさんたちがこちらに来させまいと猛攻をしかけて、足止めしてくれている。
いける!
射程に入るなり、走りながら練っていた魔力を込めて、まずは一撃、木の幹に叩き込む。
「《火炎撃》!」
近くに誰もいないし、遠慮なく使える。
けど、金桂樹の幹は少し焦げたくらいで、あまりダメージを与えられた感じはしない。
それどころか、枝がしなり、薙ぎ払いをかけてくる。
「う、わ!」
「動くのかよ!」
避けたけど、ルークも驚いている。
本体にダメージが与えられないなら、実を狙おう。
葉陰にはいくつか金色の実が見えている。
「もう一回! 《火炎撃》」
《火炎撃》が、ひゅん、と飛んで行く。
今度は無事に実を燃やした。
よっし、これはいけそう!
そうして頭上を見上げながら走り出した時だった。
「やば! 針が飛ぶぞ!」
誰かの叫び声が聞こえた。
振り向くと、恐ろしい速度でやってくる巨大針熊の背針が後ろに迫っていた。
ターゲット、まだはがれてなかったの!?
避ける間もなく、衝撃。
これは終わった、と思ったのに、光に包まれてわたしはまだそこに立っていた。
なんで、と思うけどすぐに理由に思い当たる。
ミアがくれた身代わりの魔法が込められたワッペン。
あれが仕事をしてくれたんだ。
ほっとしたのもつかの間、目を見張る。
第二波が迫っていた。
早く動きたいけど、咄嗟にどっちに避けるか決めきれず足がすくんだ。どちらに避けても、避けた先で飛んできた針に貫かれてしまうのは確実だった。
「リリ!」
ルークの声が聞こえて、ガツンとした衝撃と共に浮遊感。
その直後、すごい音が後ろから聞こえた。
衝撃音のした方を見ると、土煙の向こうにさっきまでわたしが居たところに大きな針が追加で複数ささっている。
あれが直撃したら、死んでたかもしれない。
「やっべーな」
頭上から声が聞こえて、見上げると、ルークだった。
うん。なんでか、わたしはルークの小脇に抱えられているみたい。
「わ、ありがと」
でも、降ろしてほしいな、といおうとしたところで、間髪入れずに金桂樹の薙ぎ払いがくる。
それをルークは跳んでかわす。
わたしを抱えているとは思えない身のこなしだ。
あ、でも、六百カロの針熊背負って帰れるくらいに力持ちだもんね。
抱えられてるお腹に圧がかかって呻き声が漏れた。
「うぐぅ」
「あ、わりぃ」
「だ、大丈夫」
「いけるなら、このまま俺が抱えて逃げるから、リリが攻撃したらいいと思うんだが」
ルークが遠慮がちに、でもこの場でもっとも有効そうなことを提案してくる。
アペルの実はどれも頭上はるかに高い位置にあるし、攻撃するなら、上を見上げながらしないといけない。
さっきみたいな巨大針熊の余波がいつこっちにくるかもわからないし、金桂樹自体も攻撃を仕掛けてくるし、上を向いて狙いながら逃げるとまたさっきみたいなことになりそうだ。
ルーク自身は避けるのは余裕そうだけど、魔法が使えないのなら攻撃する手段がない、ということだった。
納得できる提案なんだけど、この小荷物みたいな持ち方だと攻撃できない。
「この体勢のままだと、苦しくて、魔法撃てない。見えないし」
「……なら、背中に、抱えるか?」
「そう、だね」
ルークがためらいがちに提案してくるけど、この場合それが一番いいと思う。
少し恥ずかしいけど、早くしないとまたあの巨大針熊がやってきて回復されてしまう。
ニコラスさんたちがいる方がちらりと見えたけど、こちらの様子を気にしつつ抑えたように戦っている。
つまり、わたしがアペルの実を打ち落とすのを待ってるんだろう。
みんな疲れてる。
急がないといけない。
「じゃ、次の大きめの攻撃きたら、一旦降ろす。んで速攻背負うから」
「わかった」




