39.リリ、スタンビードに対処する2
その声が響いたのは、わたしが放った《水流弾》が幻影鹿にとどめを刺した時だった。
大きく銅鑼が鳴った。
「針熊の群れが来るぞ!」
モーゼスさんの声だ。
気を引き締めるよう、冒険者に叫んでいる。
「はぁ! 単体ならまだしも、針熊の群れとか、やばすぎるだろ!」
「飛んでくるトゲが怖くて近づけねぇ!」
戦場の喧騒に負けない冒険者の声が聞こえる。
「気をつけろ!
茶毒蛇もいるぞ!」
前線にいる冒険者の誰かが叫んだ。
「噛まれないように気をつけろ!
噛まれたら速攻解毒薬を飲むんだ!
封蜂用の解毒薬と間違えるなよ」
モーゼスさんの怒鳴り声が響く。
それでも、まじかよーとか、はずれダンジョンやべー!という声が聞こえてくる。
そういった声に混じって、ニコラスさんの声が響いた。
「はいはい、ビビってるやつはさっさと後ろに下がんなー!」
ニコラスさんが、戦場の間をぬって前に出てきた。
双剣を握り軽やかに駆けていく姿に戦意が下がり気味だった戦場が湧いた。
「おおー!」
「待ってたぜ、『疾風のニコラス』」
「後ろでビビってたんじゃなかったのかよ」
冒険者のヤジにも笑って返している。
「まだ早いってギルマスに止められてたんだよ!」
「ただの帽子狂いじゃないとこ見せててくれよなー!」
「お、余裕があるやつは大歓迎だぜ。
今オレのこと帽子狂いっていったやつ、一緒に最前線に出てもらおうかー!
いかにこの帽子がオレのテンションを上げてくれるか、一番近くでとくと見せてやろうじゃん!
他のやつらも、ついてこれる奴はオレについてきな!」
そうして、冒険者を率いて針熊の群れに突っ込んでいく。
そのわきを、黒い影が駆け抜けていった。
「『怒涛のゲオルク』も参戦だー!」
ゲオルクさんがニコラスさんが向かっていた針熊が飛ばしてくるトゲを走りながら槍の一振りで払うと、そのままのスピードで突撃して、大槍の一撃を撃ち込む。
以前わたしたちが苦労したというのに、その一撃は針熊の毛皮を貫き、針熊は絶命する。
「おい、なにオレの獲物取ってるんだよ」
「早いもん勝ちだろ」
「はぁ!?」
「ふん、この間俺のことを色々言ってくれた礼だ」
ニコラスさんがつっかかっているけれど、ゲオルクさんはどこ吹く風だ。
そうして、ゲオルクさんは別の針熊に向かっていく。
「あ、の、や、ろー!」
ニコラスさんが、大きく跳び、ゲオルクさんが狙っていた針熊の首を双剣で跳ねる。
「なんだ、俺の猿真似か?」
「ちげーよ、戦場の獲物は早い者勝ちだろ」
そうして、二人競うように針熊をほふっていく。
「うっわ、はじめやがった」
「何だあの人たち」
「なんだ、知らねえのかよ」
「『疾風のニコラス』と『怒涛のゲオルク』。
どっちも凄腕の冒険者だけど、二人そろうと『戦場の破壊者』って呼ばれてるんだぜ」
「うわぁ納得」
さっき帽子狂いってニコラスさんのことを言った人が得意げに話している。
「おい、さっきのやつ、今のも聞こえてんぞー!
ほら、さっさとこっち来いやー!」
ニコラスさんは地獄耳なのか、その会話も聞いていたようだ。
「おい、呼ばれてるぜ」
「す、すいませーん!」
「そっちのお前も余裕そうじゃん、一緒に来てくれるよなー!」
「ひぃぃい! すみません」
二人、呼ばれて駆けて行った。
ゲオルクさんとニコラスさんの気安い雰囲気に、大量の針熊の出現に及び腰だった人たちも、戦意を持ち直している。
「いいかー! 針熊はあいつらみたいに一撃で倒せなくても、まとまって攻撃を撃ち込めばなんとかなるやつらだ。
焦らず、周囲にいる人間と対処しろ!」
その効果を狙っていたかのように、モーゼスさんの指示が飛んだ。
ほうぼうから同意する声があがり、一瞬針熊に押されていた戦局が持ち直す。
それぞれ近くにいる人と複数人で固まって対応しているみたい。
そうして、半分ほどの針熊を倒した時だった。
「気をつけろ! 女王封蜂も出て来やがった」
「はぁ!? まだ序盤だろ! もうそんな大物が出るのかよ」
ダンジョンから取り巻きを引き連れたたくさんの女王封蜂が出てきた。
蜂の羽音が低くうなるように響いている。
女王封蜂は普通の封蜂の三倍ほどの大きさで、普段は巣の中にいるのに、スタンピードともなると、外に出てくるみたい。
一体に付き、数百匹ほどの取り巻きを連れてきているのがなんとも厄介だ。
「うげぇ、また蜂かよ」
「まずは取り巻きを剥げー!」
「わかってるけど女王がくると動きが変わって戦いづれぇ」
わたしも、周りの人に合わせて《風刃》を撃つけれど、全然減らない。
周りの魔法使いたちも、それぞれ魔力回復薬を飲みながら、狙いを定めて魔法を放っている。
だけど、女王封蜂の取り巻きが多すぎて、後方からの魔法の援護で持っていた前線は押され気味。
針熊と戦っていたところに女王封蜂と封蜂が参入されて、毒を受けて後退する人たちも増えている。
これ、なんとかする方法ないのかな。
そう思ったところで、気がつく。
これは、あれじゃない?
新しく考えた技を試す時じゃない?
やってみよう!
狙いを、冒険者が押し負けて、だんごになってこっちに向かってきている針熊と女王封蜂が率いるの群れに狙いを定める。
冒険者を巻き込まないように、射線にいないことも確認するのは忘れない。
「《風刃乱舞》!」
そして、一個一個の《風刃》のサイズを最小にして、その分大量の《風刃》を飛ばす。
飛ばす方向も、方向性だけつけるだけで、細かい制御はしない。
苦手な部分を取っ払ったから、その分たくさんの数の《風刃》を飛ばせるし、風の刃は小さくても、あたれば一発で封蜂を仕留めるほどの威力は出ている。
たくさんの風の刃が、渦を巻いてもうすぐわたしがいる柵の前に到達しそうな群れに向かう。
「いっけーーーーーー!」
これがわたしの新技。
大物では無理でも、封蜂の大半を片づけるまで魔力を注ぎ続ける。
うん、思った通り。
大技を使うほどは魔力を使わずに、封蜂の群れは一掃できた。
封蜂とか他の魔獣の陰に隠れていた茶毒蛇が一掃され広い空間が現れる。
どこかでピシリ、という音が聞こえたけど、疑問に思ったのは一瞬だった。
まだ正面には魔獣が残っている。
「おお、すっげー!」
歓声が聞こえて、思わずふふんと思うけれど、急いで気を引き締めなおす。
今度は大物!
そう気合を込めたところで、声が聞こえた。
「ナイスアシスト」
聞き覚えのある声に、えっと思う間もなく、わたしが開けた空間を誰かが駆けていく。
ルークだ。
そして、女王封蜂を一刀両断。
続いて女王封蜂の奥にいた針熊に一太刀を入れて離脱した。
「おい、誰だあれ」
「新人か!?」
「あんな手練れ、いつの間に王都に来てたんだよ」
そんな声が響く。
「ぐぬぅぅぅ! 《風刃》」
美味しいとこどりしたルークへの怒りを込めた《風刃》が、針熊に当たって、針熊が倒れる。
けどもう注目は別のところで戦っているゲオルクさんたちの方に行っていて、歓声は聞こえない。
なんだかすっごく悔しいんだけど!
でも、ルークは既に別のところにいっているし、わたしもまた、別の崩壊した戦線を見つけて、すぐにそれどころではなくなった。
魔力が切れかけるまで戦ったところで、銅鑼が聞こえた。
前に出てきた人たちと交代する。
そのまま、野営地まで下がって休息に入った。




