38.リリ、スタンビードに対処する
わたしたちの組が見張りをする時間になった。
夜だけど、ダンジョンの前にはかがり火がたかれていて、スタンピードが始まった際にすぐ気がつけるようになっている。
ダンジョンの前に向かっている途中に、師匠が口を開いた。
「いいかい?
さっきモーゼスが言ってたけど、スタンピードはとんでもない量の魔獣が出てくる。
深追いして無理するより、怪我せずに戦い続ける方が大事だからね。
二人とも無理はするんじゃないよ」
「はい!」
「わかった」
ルークと一緒に返事をする。
師匠からスタンピードに参加する時の心構えも聞いてるけど、まだ何か実感がわかない。
アペルのダンジョンの六階で大量に湧いてた封蜂の比じゃないくらいの魔獣が出てくるって、どんななんだろうか?
スタンピードが始まったのは、わたしたちが見張りを終えた翌朝のことだった。
わたしたちの次の組に交代して、その組の見張りもそろそろ終わろうかという時間で、仮眠から起き出してくる人と、見張りの交替の人とでざわざわしているときに、それは起こった。
太陽が地平から顔を出し、薄く朝日が差している大地に、低い地響きがとどろく。
「なに!?」
ちょうどわたしも起きようかなって思ってたところだったから、飛び起きて驚いて辺りを見渡した。
ルークも同じように周りを見ていて、師匠を見ると、師匠は寝ていないのか、既に起き出していたのか、アペルのダンジョンの入り口を鋭い視線で眺めながら呪文を紡いでいる。
「遥かなる時の彼方より、あまねくすべてを照らしてきた光よ。
我ここに、こいねがう。
願わくば、我が力の続く間、この地に祝福を与えたまえ。
求めるは彼の地より出ずる我が宿敵を阻む壁」
呪文と共に、師匠の魔力と光の渦が混ざり合い、師匠を中心に渦巻いていく。
目で見えるくらいに渦巻いている魔力に、師匠がどれだけの力を注いでいるのかわたしには見当もつかなかった。
「《祝福ノ壁》」
きらきらとした輝きを持った魔力が、発動呪文と共に一気に広範囲に広がる。
そうして次の瞬間、半球状の白い光の壁が、拠点とを含めた広い範囲を覆っていた。
その直後だった。
羽音の唸り声を伴って封蜂の群れが黒い煙のようにアペルのダンジョンからでてくる。
「来たぞー!!!」
「魔法使えるヤツはまずは封蜂を仕留めろ!」
「総員配置に付け!
あいつらは、《祝福ノ壁》から外には出られねぇ!
今のうちに仕留めろ!」
銅鑼が鳴り、モーゼスさんが指示を飛ばす声が聞こえる。
誰かが《風刃》を放ったのか、アペルのダンジョンから途切れることなく出てくる封蜂の群れに、風穴があいた。
けれど、全部を仕留めるほどではない。
《風刃》があたらなかった封蜂は、外に行こうとするけれど、《祝福ノ壁》に阻まれて、壁の周りをうろうろしている。
師匠は大量の魔力を使ったのか、少しげっそりしているけれど、すぐにアイテムボックスから魔力回復薬を取り出して口に含んでいた。
「これで、私の魔力が持つ間は大丈夫だよ」
「師匠、これ維持しながら戦うんですか!?」
師匠の言葉に、わたしは驚く。
「仕込みは昨日しておいたから、立ち上げさえすれば、そこまで魔力コストはかからないよ」
なんでもないことみたいに師匠は言うけど、すごすぎない?
こういう時に、やっぱり師匠はSランクなんだなって思う。
でも、わたしもいつかは、あんなふうになるんだ。
「わたしたちは封蜂の駆除にいってきます」
師匠に告げて、ルークと共に封蜂の駆除に向かう。
前線を維持する組以外で、まだ魔獣が到達していない場所にいる人たちは、みんな封蜂の駆除にあたっている。
封蜂以外にも大量の草原兎が出て来ているみたいで、前線の方は、その駆除に追われているみたい。
《風ノ嵐》とかの大技は、一緒に戦っている人たちに被害がいきそうだし、何より師匠の《祝福ノ壁》に干渉するから、《風刃》とか《水流弾》を中心に駆除していく。
一刻ほどダンジョンからは大量の封蜂が飛び立ち続けた。
その群れも、だいたい駆除し終わると、今度はちらほらと幻影鹿が出てきだす。
的が大きい分、狙いやすいみたいで、入り口から出てきて少し離れたところを、他の人たちの魔法が集中的に襲って、浅いところで倒されていく。
ダンジョンの入り口から出た直後を狙うのが良さそうに思えるんだけど、下手に攻撃すると、倒した魔物でダンジョンの入り口をふさいでしまうし、何より爆風で何の魔獣が出てくるのかわからないから、入り口は直接狙ってはいけないとなっている。
広く口を開けたダンジョンから出てくる幻影鹿の討ち漏らしもあるけれど、そういうのは、まっすぐに進めないようにたくさん置かれた柵のどれかにひっかかったところを、後衛にいる人たちが仕留めている。
それでも、だんだん戦線は乱れて行って、怪我をして後ろに退く人が出ると、前に出ていくことになる。
時々隙間が空いたところは、後ろの人たちが前に詰めて埋めていく。
わたしも封蜂が落ち着いたあたりで、ルークと共に戦線に加わっていた。
前線では、魔法が使える人は柵の後ろから攻撃をしているけれど、そうではない近接武器を使う人は、柵の前に飛び出して戦っていく。
飛び出してといっても、突出すると、魔獣に包囲されてしまうから、魔法の援護が届かないところまでは飛び出していかないよう注意はしているようだ。
幻影鹿の出現がしばらく続いて、それが落ち着いた時には、わたしも最前線に移動していた。




