37.リリ、アペルのダンジョン前に移動する
師匠の転移の石板で、師匠とわたし、ルークとモーゼスさんは一瞬でアペルのダンジョンの前に着いた。
「三日が一瞬か……」
なんだか感慨深いモーゼスさんに、師匠が言う。
「距離と人数が増える分、必要な魔力は増えるよ。
ドラゴンの心臓石が用意できるんなら作ってもいいけど」
「あー。遠慮しとくさ。ギルドの予算じゃとても買えねぇ」
「難儀だねぇ」
そんな会話をしながら、人が集まっているところに近づいていく。
この間来た時とは、大分様子が違っている。
ダンジョンの入口の前には、一定の間隔を開けて丸太で作った柵が置かれている。
入り口からあふれ出てくるモンスターの動きを阻害して、一気に流れてこないようにするためのもののようだ。
塹壕も掘ってあって、それらの柵の間を繋いでいる。
数日しかないのに、しっかりとしたものができあがってて土魔法を使って作業をしたのだとわかった。
土魔法って、使えるとこういうことにも使えるんだね。
拠点っぽい丘の方に向かいながら、師匠とモーゼスさんと一緒に、ダンジョンから最初の柵までの距離と、一つ一つの塹壕のつながりを確認しておく。。
ダンジョンの前は、入り口から五十メルほど離れたところから柵が置かれはじめている。
かなりの数の柵がダンジョンから扇上になだらかに広がっていて、魔獣を拡散しないように気を使って置かれているようだ。
「王都のスタンピード対策を流用したのかい?」
「ああ。こっちじゃ調達できない素材は探掘メインのやつらとか商人にも協力してもらって緊急でとってきてもらった。
流通をとめるわけにはいかねぇし、こっちには主に攻略組に来てもらってる」
「なるほどねぇ」
師匠は感心したように頷いている。
モーゼスさんの話を聞くと、ヤっさんはもしかして王都に居残り組かな。
「あ、ギルマス!」
「おい、ギルマスが来たぞー!」
「ギルマス、こっちです!」
そうして歩いている間にモーゼスさんの到着が伝わったいみたいで、作業をしている人たちがギルドの職員さんがいるところを教えてくれた。
わたしとルークもついていっていいのかわからなかったけど、そのまま師匠についていった。
モーゼスさんについていくと、丘の上の拠点についた。
拠点は、丘のてっぺん付近をぐるりと、これまた丸太の柵で囲ってある。
今来ている全員を収容できるスペースはあるようだ。
その奥のギルドの専用区画に案内された。
モーゼスさんは先に来ていたギルドの職員さんと話をしている。
持ってきた回復薬とかが入ったアイテムボックスと、紙の束も渡している。
「ご苦労。短い作業時間でこれだけのことができるとは、正直思っていなかった。
柵と塹壕があるだけでも、かなりの被害が抑えられるだろう。助かる」
「出来る限りのことはしたつもりですが、もっと余裕があれば、と思います」
「仕方ない。こうして対策ができるだけの時間があったことでさえ幸運なんだからn」
わたしたちは、師匠と一緒に少し離れたところで待機している。
あまり待つことなくゲオルクさんとニコラスさんもやってきた。
「お、二人もやってきたか。それじゃ、報告をしてくれ。まずは、ゲオルク、頼む」
「俺の方は、ダンジョン前の柵と塹壕がさっき出来上がったところだ」
「なるほど。問題とかは?」
「時間がないから突貫でやった。
言われた分は間に合ったが、この辺はだだっ広い広場になってるから、戦線が崩れたら、一気に魔獣が散らばってしまうかもしれない」
「だよなぁ。時間があればもう少し何かできたかもしれんが、何か対策を考える」
ゲオルクさんの次はニコラスさんだ。
「拠点の方は、柵は今朝完成して、今は希望者に対して本番前の訓練をあちらで行ってました。
私のほうも、問題はありませんが、封蜂がこの間かなりの数いたと聞きました。
柵と塹壕では、そちらの対策が難しいかと」
「そっちは、悪いがマヤに任せる。いいか?」
「それしかないと思ってたよ」
師匠は頷いている。
「なるほど、でしたら安心ですね」
師匠がどうするのか気になったけれど、ニコラスさんはそれで納得したようだ。
「それで、ダンジョンの様子はどうだ?」
「今朝の段階では、わたしとゲオルクで、《気断》をかけてもらって見に行っても、二階までもぐるのがやっと。
今夜か明日の明け方にでも限界を迎えそうです」
「そうか」
モーゼスさんは腕を組んで考え込んでいたけど、しばらくして顔を上げた。
「よっし。一旦全員ここに集めて話をするか」
全員が、丘の上の柵の中に集まった。
二千人ちょっとの人が集まっていると、壮観だ。
冒険者以外にも、王都にある神殿から神官も来てくれているようだ。
「みんな聞こえるか―!」
「おー!」
モーゼスさんの声に、地響きのような返事が返る。
声を大きくする魔法が使われているみたいで、モーゼスさんの声は遠くまで響いている。
「まずはこの危機に集まってくれた礼を言う!
どうやら予想通り、今夜か明日の明け方にはスタンピードが始まるようだ!」
まじかよーという声と、息を呑むような声のざわめきが入り混じる。
「普段と違って、戦いになれば、持久戦だ!
どのくらいの量でいつ終わるかなんて、始まってみなけりゃわからねー!
三組にわかれて、前線を入れ替えながら、まわしていく!
チーム分けはギルド職員のベイスに従え!」
そうして、さっき話をしていた職員さんを指名した。
「よろしくお願いします!」
モーゼスさんより細い緊張した男性の声が響く。
それに、冒険者の人たちも頼んだぞーなんて返している。
声が静まったところで、モーゼスさんが続ける。
「おまえたちも自前の回復剤を準備してきていると思うが、今回はギルドでも回復剤を用意した!
幸い、王都の錬金術師たちの協力で、かなりの数の解毒薬と回復薬は準備できている!
今回の回復剤は、ギルド負担だ!
後から請求はしねーから、危ないと思ったら速攻この拠点に戻るように!」
大丈夫かーとか、ギルドつぶれねーの?とか声も聞こえたが、よ、太っ腹―などの歓声も聞こえてくる。
「王都の各神殿から、神官も派遣してもらっている!
普段、パーティで支援、回復をしている人間は拠点で回復を手伝ってもらいたい!
もちろん! 前線に出たいやつはとめねぇ!
けど、むりはするな!
集めた俺がいうことじゃないが、皆! 死ぬな! 生き残ってこその栄光だからな!」
「おー!!!」
今までで一番元気のよい返事が返った。
「チーム分けができたら、一チーム二刻ずつ、ダンジョンの前に作ってもらった柵の前で見張りをする!
こっちの銅鑼を鳴らすから、そしたら交代だ!
戦闘中も一緒だ。銅鑼を鳴らしたら余力があっても前線を次の奴らと変われ!
もちろん、銅鑼が鳴ってなくても負傷したら戻って来い!」
職員さんが持ってきていたのだろう、大きな銅鑼をベイスさんが鳴らした。
「見張り以外は、自由にしていい! 担当が夜になるやつはきちんと休んでおけよ!
じゃ、あとはベイスに任せる!」
そうして、ごちゃごちゃしながらも三組に分かれた。
事前にギルドの方で実力を加味してバランスを整えていたようで、名前とかパーティ名を読み上げられて組み分けされていく。
師匠とわたし、ルークは最後の組だ。
チーム分けでは、ニコラスさん、ゲオルクさんとは違う組みたい。
その彼らも、相性を考えて、それぞればらけた組に入れられている。
師匠は、「どうせ最後は乱戦になるから組わけも最初だけのことだよ」なんて言っていた。
ドキドキする。
見張りは夜中の組になる。
師匠はやっておくことがあるからといって、まだ見張りの番じゃないけれど、柵の外に出かけるようだ。
わたしたちにはできるだけ仮眠を取っておくよう告げて、一人で外に出かけていた。




