35.リリ、スタンピードの準備を手伝う
ギルドの中に入ると、モーゼスさんが苦笑気味に出迎えてくれた。
「マヤ、止めてもらって悪いな」
「あんたも見てたんなら止めなよ」
「いやぁ俺も二人そろうとみられるっていう名物の大喧嘩に興味があってな。
行儀よく外に出てくれたし、被害が出そうなら止めるつもりだったがちょっとくらいはいいと思ってな」
「ほら、ああ言ってるが」
「ぐ……」
「……」
Aランクだという二人があそこまで凹んでいるのも珍しく、ルークと顔を見合わせた。
うん、わたしたちは絶対ああはならないぞ!
「まぁモーゼスもゲオルクたちもいて、丁度よかったよ。奥で話がしたい」
師匠が言うと、モーゼスさんが受付のお姉さんに開いている部屋を確認している。
「この間のとこが空いてるみたいだ」
「ならそこで話をしようかね」
部屋につき、まずは師匠が雑にわたしたちの紹介をする。
「リリはこの間あったけど、あっちの竜人族のお兄さんがゲオルク、兎人族のお兄さんがニコラスだ。
どっちもAランクの冒険者で、昔、別の国で一緒にスタンピードを戦ってる」
ニコラスさんは、以前露店で帽子を買っている姿を見たことがある。
店主とのやり取りが印象的だったんだよね。
そっかー、この人がニコラスさんだったんだ。
「よろしく」
そういって優雅に礼をされるから、わたしもあわてて挨拶をする。
「よろしくお願いします」
「で、こっちのちっこいのが、私のパーティメンバーの娘のリリ、こっちは今、縁あって面倒を見てるルークだ」
その後、師匠がアペルのダンジョンで起きたことをかいつまんで説明する。
「スタンピードか」
「それが本当ならえらいことだな」
「まだ初期の兆候なら、時間はあるのかい?」
順に、モーゼスさん、ゲオルクさん、ニコラスさんがいう。
「もって十日、早くて四、五日だろうねぇ」
「あふれたモンスターがこっちに来ても困るし、こちらが無事だったとしてもそのまま外に出た魔獣が野生化しても困るな」
「何らかの対応を至急取る必要がある、か」
「そうだね。私は、錬金薬類を三日間、できるだけやってから現場に行こうと思ってる。
リリとルークにも手伝ってもらうけど、私達だけなら後からでもそっちに跳べるからね。
だから、現場指揮やら、細かい調整やら、全部そっちで対応をお願いしたい」
師匠の言葉にモーゼスさんが頷いている。
「そうだな。そうしてもらったがいいだろう。ギルドから、依頼としてゲオルク、ニコラスに共同で指揮をとってもらうか。
いいか?」
「頼まれた」
「もちろんですとも」
モーゼスさんが、わたしを見ながら言う。
「しっかし、つくづく、行く先行く先でダンジョンの異常に行き当たるなぁ」
「う……いや、でも、今度のもわたしのせいではないですからね!」
「そうなんだがなぁ」
そういってしみじみした目で見られるけど、なんでこう厄介な状況を引き当ててしまうのか、わたしのほうが知りたいもん。
師匠はその後、モーゼスさんと材料の手配やら報酬やら色々話しあっていた。
回復薬とかを師匠が作るって言ったけど、師匠以外にも、王都にいる錬金術師や薬師の方にも同じ条件で依頼を出すそう。
こういう時のために、ギルドでも回復薬が保管してあるそうだけど、今回は解毒薬もいるし、どのくらい必要があるかわからないから回復薬もどっちもたくさん作るんだって。
師匠がこれから明日までで作れる量の薬草を一部、ギルドから預かっていた。
必要と言われた量には足りないけれど、足りなくなりそうな薬草は、どうやら明日一日でギルドで薬草の緊急募集をして、夕方それを届けてくれるみたい。
そうして、アペルのダンジョンから帰ってきたところだから封蜂の毒は山ほどあるし、師匠は下の階で茶毒蛇の毒も、ギルドに買い取ってもらって、家に帰った。




