33.リリ、アペルのダンジョンを攻略する4
林の中に向かうと決めたものの、何がいるかわからないから、音をたてないように移動する。
「ほぁぁ!!」
声を抑えて、けど感嘆の声を抑えずにいられなかった。
そこにあったのは、一本の輝く木だった。
金色の幹にエメラルド色の葉。
風にそゆぐ葉の陰に、ちらりと赤みを帯びた金色の実が見える。
実だけじゃなくて、木全体が宝石でできているように、とってもきれい。
もしかして、あれが金桂樹だろうか。
でもこの階層には生えないって聞いてたのに。
無意識に一歩踏み出したところで、腕を掴まれた。
「おい」
「なに?」
ルークがあるところを指す。
「あれ」
「う、わ、ありがと」
そこには大きな真っ黒の蛇が居た。
太い金色の枝の一本に長い胴体を巻き付かせている。
尻尾はどこにあるのかわからない。
胴は枝と同じほどには太く、平べったい三角の頭は金色の実を狙っている。
蛇はチラチラと舌を出して、大きな口を開けると、金色の実を一飲みした。
わたしの片手でも余りそうな実をまるのみをする蛇を、驚きをもって見つめる。
「あれなに……?」
「わからん」
「師匠あんなのがいるって言ってなかったよね」
「ああ」
茶毒蛇もいるとは聞いていたけれど、あんなに大きくはないし、色も違う。
どうしようか。
あの木のことはきになるけれど、このまま引き返した方がいい気がする。
あの黒い蛇はとても危険そうだ。
ひとまず、木立の間に突っ立っていると見つかるから隠れようと思ったところで、蛇が頭をもたげてこちらを向いた。
「ニンゲンだ」
「あ」
「見つかったな」
ルークと小声で話すけれど、蛇は微動だにせずわたしたちを見ている。
「ヴヴスナにナニかヨウか」
「ヴヴスナ?」
「おい」
ルークが首を振る。
不用意に会話をするなということだろうか。
「そう。ワレのナ。ニンゲンは、ナゼ、ソコにいる」
ルークと顔を見合わせる。
「わたしたち、道に迷ったの」
蛇は縦に割れた瞳孔でわたしたちを凝視している。
「ナント」
ヴヴスナは大きく体を震わせ、リリたちの方へとその体を伸ばした。
ぎょっとするものの、ヴヴスナが何かしているのか動くことができない。
「『ハザマにてアソぶモノ』のカゴと『カッソウするモノ』のノロイをヤドすモノだ」
「え……?」
「ヴヴスナはメズラシイモノがスキだ。
ヴヴスナ、ブレイ、ユルす」
蛇の目が、ぎろりとリリを見つめる。
「おマエたち、ナゼ、カゴとノロイ、ヤドス」
ブブスナは知りたがりのようだった。
けれど、ヴヴスナの望む答えをリリは知らなかった。
ルークはというと、ルークも黙り込んでいる。
「ナントツマラヌ。
コのニンゲン、オクリモノのイミ、シラヌ」
ヴヴスナは無機質な瞳でわたしを見つめている。
「カゴのチカラ、ツカワヌのナラ、イミない」
ヴヴスナはシューシュー言いながらリリからルークに目を向けた。
「ノロイオサエても、ヒトではトクことアタワズ。
ダガ、アガクサマ、ワルクナイ」
ヴヴスナはシューシューと音を立てた。
笑っているようだ。
「コウウンなるモノ。
ヴヴスナ、オシエル。
『ハザマにてアソぶモノ』のカゴ、ヤクニタツ」
わたしの加護がルークの呪いの役に立つって、どういうこと?
ルークは、呪いのことがわかっているらしいヴヴスナに身を乗り出して尋ねる。
「待て、この呪いは解けるのか」
「トケルかハ、シラヌ」
ヴヴスナはあっさりいうと、木の方に戻っていった。
「コのフタリがトモにアルノハ、イミあるコトなのか。イヤシカシ。
ワカラヌ、ワカラヌ」
不気味な声でひとりごとのような言葉だけが聞こえてくる。
「ヨイモノをミタ。テテサマにイワネバ。イワネバ。シカシそのマエにタメシヲ」
そう言って、蛇は黒い息を吐き出した。
黒い息は、どんどん膨らみ、ヴヴスナと木を覆っていく。
そうして、わたしがいるところまで広がってくる。
まだ体を動かすことはできない。
「リリ」
名を呼ばれ、ルークに腕をつかまれると、それまでの硬直が嘘のように体が動くようになった。
ルークは先に動けるようになったようだ。
二人で霧のないところまで逃げる。
あの霧は追ってはこなかった。
あれはなんだったんだろう。
闇雲に走っている間に、さっき師匠と封蜂を大量に倒したところまでついた。
「あれはなんだったんだろうね」
「わからない」
ルークもよくわからないのか。
わたしがあった管理者は『狭間にて遊ぶもの』というのだろうか。
何かの二つ名としても、聞いたことがない呼び方だった。
師匠に聞けば、何かわかるだろうか。
ルークの方も聞いてしまったけれど、『滑走するもの』は呪いっていってたくらいだし、ルークの呪いもわたしの加護みたいに、人ではない上位存在の与えられたものなのだろうか。
色々考えることはあったけど、ひとまずはここを出ないとなんだよね。
再び帰り道を探して林の中をルークと共につっきる。
今度は嘘のように簡単に五階への道を見つけることができた。




